作物の病害を防ぐ遺伝子が害虫の成長も抑制することを発見、岡山大学と農研機構が発表

農研機構と岡山大学は、東京大学、東京理科大学と共同で、病害抵抗性遺伝子であるイネのBSR1(ビーエスアールワン)遺伝子を強く働かせることにより、病害を防ぐだけでなく、葉を食べる害虫の成長を抑制することを明らかにした。

この発見によって、作物を病原菌と害虫の両方に強くすることができる新しい病害虫防除技術の開発につながることが期待される。


化学農薬使用量低減に向けた新しい防除技術の開発へ


農作物は、さまざまな病原菌が引き起こす病害だけでなく、害虫による養分の吸汁や葉の食害等を受ける。現状このような外敵に対しては、複数の化学農薬を使用した防除が行われているが、使用量低減に向けて病原菌と害虫の両方に有効な新しい防除技術が求められている。

農研機構はこれまでに、イネを病原菌から守る遺伝子の探索を他機関と共同で行ってきた。2010年には、イネいもち病菌など4種類の病原菌に対する病害抵抗性遺伝子BSR1をイネから発見し、その機能について調査を進めてきたという。また、2023年2月には、このBSR1遺伝子を遺伝子組換え技術によりサトウキビ、トマト、トレニアに導入して強く働かせた場合でも、病原菌に対して抵抗性を示すことを発見している。

今回の研究では、BSR1遺伝子を遺伝子組換え技術によりイネで強く働かせると、葉を食べるクサシロキヨトウの幼虫に対する抵抗性が高まること、そのメカニズムにイネが生産する抗菌性化合物が関わることが確認された。

BSR1が害虫(クサシロキヨトウ)に対するイネの防御応答を制御する

害虫が植物を食べると、植物は傷口に付着した害虫の唾液等に反応して防御応答を起こすが、今回の研究では、この防御応答のオン・オフをBSR1が制御していることがわかった。

さらに、防御応答がオンになったイネが蓄積するモミラクトンBという化合物が、害虫の体重増加を抑制する効果を示すことも確認。

BSR1遺伝子を強く働かせたイネ(BSR1高発現イネ)のヨトウ虫抵抗性

実験では、2種類のBSR1高発現イネまたは通常のイネ(日本晴)をエサとして、クサシロキヨトウの幼虫を育てたところ、BSR1高発現イネをエサとして育てた幼虫では通常と比べて体重の増加が抑制されたという。

イネ由来の抗菌性化合物モミラクトンBによるヨトウ虫成長抑制効果

また、イネの葉に傷をつけてクサシロキヨトウの唾液を塗るという食害を模した処理(疑似食害処理)を行った。

通常のイネでのモミラクトンBの蓄積量は検出限界以下だったのに対し、BSR1高発現イネでは有意に多く蓄積していて、この処理をしない場合はほとんど蓄積が見られないことを確認した。

このように、たった一つの遺伝子の働きが病原菌や害虫という幅広い外敵に抵抗性を示すことは珍しく、この発見によって新しい病害虫防除技術の開発の糸口になると考えられている。

今後は、BSR1遺伝子の作用メカニズムをさらに詳細に解明するとともに、BSR1遺伝子の働きを強める技術を開発することで、作物を病原菌と害虫の両方から守る新たな防除法につなげていくとしている。また、幅広い種類の作物がBSR1に似た遺伝子を持っていることから、将来的にはこれらの作物に応用していくことも期待されるという。

なお、この成果は2023年6月20日に国際誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載され、2024年3月19日に農研機構と岡山大学から公開された。

論文情報
BSR1, a Rice Receptor-like Cytoplasmic Kinase, Positively Regulates Defense Responses to Herbivory
Yasukazu Kanda, Tomonori Shinya, Satoru Maeda, Kadis Mujiono, Yuko Hojo, Keisuke Tomita, Kazunori Okada, Takashi Kamakura, Ivan Galis, & Masaki Mori
International Journal of Molecular Sciences
https://doi.org/10.3390/ijms241210395


農研機構
https://www.naro.go.jp
岡山大学
https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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