農家目線で開発された開水路用の自動給水機の現地実証 〜横田農場の例

全国4つの農業法人が2016年に創業した農匠ナビ株式会社はこのほど、九州大学と共同で開発している開水路用の自動給水機の試作機を、茨城県龍ヶ崎市の有限会社横田農場で公開した。鉄製の箱型をしたこの機器は、水口付近に土を掘って溝をつくり、はめ込む。箱の中に収納してあるホースは水口とつなげる。そのホースを上下させることで、入水したり止水したりする。「農家目線」が売りだけに、簡単かつ安価に使えることを目指している。


九州大学の南石晃明教授らと開発するこの機器は、コードでつないで設置する水位を計測するセンサーと連動している。利用者は事前に手動で目盛りを合わせながら、目標とする水位の上限と下限を決めれば、あとはホースがその範囲を超えないように自動的に上下する。

スマートフォンを使って遠隔地から入水や止水を制御するIoTにも対応している。同モデルでは、本体にスマートフォンを取り付けることで、水田の画像が毎時送信されてくる。利用者はどこにいても水田の様子が確認できる。このため、大規模専業農家だけではなく、普段は別に仕事を持っている第二種兼業農家にも需要があるとみている。


380枚の水田管理をひとりでこなす

類似品との違いは、農家が自分で設置できること。さらにホースが上下することで、砂や石などのごみが詰まりにくいこと。類似品はギロチン式と呼ばれるように、上下に開閉するのが主流。農匠ナビと横田農場の代表取締役である横田修一氏は「ギロチン方式などと呼ばれるタイプだと、(閉まるときに)草などのごみをかんでしまうことがあると聞いている。そうすると水が完全に止まらず、入ってくる。我々の自動給水機はそれが防げる」と主張する。


従来の水管理といえば、稲作農家は手動で入水や止水をしている。つまり水田の数だけ水管理のための手間と時間が増えるということである。

横田農場は水田142ヘクタールを経営。作付するのは水稲だけ。1ヘクタールという大規模水田もあるが、7割は30アール以下。枚数にして380枚に及ぶ。その水管理を横田氏は一人でこなしている。

「(稲作経営で)一番大きいのは人件費。とくに水管理はコストがかかる」と横田氏。ただ、その水管理がおろそかになれば収穫量を落とす。人件費を抑えながら、どうやって細かな水管理を遂行するのかは、稲作農家が共通して抱える悩みだ。

評価キットの販売価格は5万円以下を目標

農匠ナビは2018年、同社のメンバーの農業法人が拠点とする茨城、滋賀、石川、熊本を中心に全国で100台の実証試験を始めている。別にJA全農も同規模の試験を始めている。2019年から評価キットを販売する。「農家目線」という観点から販売価格は5万円以下を目標としている。

数ある機能の中でも横田氏が優れた点として強調するのは、意外にも手動で水位を調整するところだ。広い水田になればなるほど、一枚のなかでも水位はまちまちだ。水に浸かっている箇所もあれば、土が見えてしまっている箇所もある。その様子を目視で確認しながら、手動で水位を調整する。それは送られてくる画像を見ながら、遠隔地からIoTで「水位5cm」などと決めてしまうよりも、稲の生育にとってはずっといい結果を生み出せるという。

農匠ナビと九州大学は実証試験をする農場のうち8農場で意向調査をした。水管理の省力化については50%が「できた」、25%が「少しできた」。水管理の改善については25%が「理想通りになった」、40%弱が「少しなった」と回答している。

<参考URL>
農匠ナビ
横田農場
【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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