農作業の常識を変える、固定翼ドローン&播種ドローン最新事例
2020年10月26日~27日に開催されたオンラインイベント「OPTiM INNOVATION 2020」。新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に猛威を振るう現況において、「感染拡大を防ぎながら、経済活動を活発化させるためにAI・IoTができること」は何かというテーマのもと、さまざまな角度から検討が行われた。
農業×ITのウェビナー、「スマート農業! 空からのアプローチ」では、播種ドローンと固定翼ドローンという2つのロボティクステクノロジーの最新状況を、株式会社オプティム マネージャーの須藤悟氏と、マネージャーの奈良卓氏が発表した。
まずは、固定翼ドローン「OPTiM Hawk 2」について。複数のローターを持つマルチコプター型ドローンと比較するかたちで、なぜ自社開発しているのか、そのメリットとともに紹介された。
固定翼ドローンは飛行時間は約6倍、1日当たりの撮影面積効率では8倍にもなる。モーターが停止しても滑空できる固定翼型の方が安全面でも有利だ。
弱点として、ホバリング(空中での静止)ができない、風の影響を受けやすい、離着陸時に機体の損傷を受けやすいといったことも挙げられるが、そもそもの用途が異なるため、それほどデメリットにはならない。
実際にどのように運用されているのかは、オプティムによるOPTiM Hawk 2での実証実験配信をレポートした「300haの作付を1フライトで確認! 固定翼ドローン「OPTiM Hawk」目視外自動飛行実験レポート」で詳しくご紹介している。
そして、この固定翼ドローンを使ったさまざまな調査・研究の具体的な実績も公開された。
NTTドコモとは、有明海でのLTE電波の調査を実施。22kmの海洋上を30分で飛行した。この事例ではグライダー型の従来モデル「OPTiM Hawk V1」が使用された。距離が離れているため、離陸と着陸は別のパイロットがそれぞれ行ったという。
北海道帯広市では、搭載されたNDVIカメラで撮影したオルソー画像から、小麦の収穫優先エリアを導き出すことに成功。これにより、収穫適期を逃さず、品質のいい状態での収穫につなげられるという。
佐賀県白石町では、労力削減目的で作付面積確認をドローンで行っている。10km×10kmのグリッド間隔で町内約7500haを撮影し、オルソー画像で作付状況を確認していった。この調査は3年目で、1年目は3週間、2年目は1週間、そして3年目の今年は3日間と、年々効率が上がっている。これまで担当職員が各生産者を回ったり電話をしたりして確認していた時間はおよそ半年から場合によっては1年にも及ぶ。長期間行っていた調査の手間が大幅に改善される。
さらに、官民協議会の枠組みの中で実施された「農業分野における補助者なし目視外飛行実証プロジェクト」も、トラブルなく撮影を終えている。こちらも以前の記事目視外補助者なしでのドローン飛行の現実度【オプティムの飛行実証事例レポート】にて詳しくご紹介している。
今後の固定翼ドローンの使い道としては、農業以外の火山調査、被災調査、河川管理、道路調査などにも活用の場を広げていけるという。
ちなみに、この「OPTiM Hawk 2」の運用については、調査請負のかたちでオプティムとして有料で受託しており、ドローン自体の単体販売などは行っていない。また、離陸してしまえば自動飛行になるが、離着陸についてはパイロットが実施する必要があるため、操縦にはラジコン飛行機と同様の技術と経験が必要になるという。
ハイライトセッションで登場し、話題となった播種ドローン。ひとことで言えば、水稲栽培において種子をまく作業を行えるマルチコプター型のドローンだ。研究開発は石川県農業総合研究センターとオプティムの共同で、2018年からの3カ年計画で進められている。
写真左が青森県、石川県、佐賀県の3カ所で実証を行った機体、右が石川県とともに開発中の最新版だ。最新版では、ユニットを交換することで播種だけでなく農薬散布などにも活用することを目標に開発している。
播種をドローンで行うメリットは非常に多い。例えば、「育苗」の手間・資材・スペースが不要になること。種子から苗を育てて田植えをする「移植栽培」のあらゆる手間がいらなくなる。それに伴い、大型の田植機やそれを搭載するためのクルマ、育苗のためのハウスも不要となる。さらに、播種作業自体も自動飛行でまいてくれるため、人的資源も大幅に節約できる。棚田のように狭い圃場でも、播種ドローンであれば種子をまくことができる。
現在オプティムが開発中の播種ドローンは、飛行速度が毎秒5m(時速約18km)と、田植機と比べると圧倒的に速い。一度の飛行時間は約10分間、種籾積載量は5kgで、7〜8aくらいにまける計算だ。2021年度モデルでは10kg以上を積載し、一度の飛行で10a以上、5分以内に播種できるようになることを見込んでいる。
単に種子を散布可能なドローンならばこれまでにも存在していたが、この播種ドローンには、生産者がこれまで培ってきた水稲栽培のノウハウをそのまま生かせるようなオプティム独自の工夫が多数詰め込まれている。
そのひとつが、条を作ることだ。雑草検知や栽培中の様々な対応を考えてみても、従来の移植栽培と同様に条を作っておいた方が作業効率がいいことは明らか。この播種ドローンでは、30cm間隔で4つの打ち込みユニットから種子を打ち込んでいく。田植機などを使ったやり方と播種ドローンによるものを比較してみても、生育状況、収量ともに大きな差はなかったという。
この土に打ち込む作業にも独自の技術があり、土の表面から見えないくらいの深さまで打ち込むことで、鳥などに食べられにくく、成長した際に倒伏しにくくしている。きれいな条を作る上でも大事な要素だが、育苗の際に生産者が気遣っている部分までを、ドローンによって再現している。
そしてもうひとつは、圃場の水が多い場所を狙って多く種子をまくこと。空撮した画像から圃場の中の水分の傾向を見極めて対応している。水が多い場所では種籾が酸欠状態となり発芽しにくい傾向があること、一定の密度になるように苗立ちしにくい水が多い場所に種子を多めにまくことが目的だ。この制御は飛行しながらリアルタイムで行っているという。
今後は、ドローンにセンサーやカメラをつけて、水量をリアルタイムでセンシングしながら播種量を変えていけるようにもしていきたいとのことだ。
この「OPTiM Hawk 2」と「播種ドローン」については、実証を重ねている段階でありながら、すでに実用レベルまで開発が進んでいることがよくわかる。そして、他社がまだまだ実現できていない領域に、オプティムとして先行していることも確かだ。
いずれも従来の農業における負担を大幅に軽減できる技術であり、空中を移動できるドローンを用いることで、これまでの常識では考えもつかなかった作業の肩代わりをしてくれるものになっている。
特に、佐賀県白石町の作付面積の調査は、今でも役所の職員が電話やファクスを用いたり、実際に圃場を訪れたりして、それぞれの地域の作付を確認している原始的な作業の代表例と言われている。地域にもよるが、年2回の調査でそれぞれ数ヶ月〜半年以上かかることもあるという。これがドローンを1機飛ばすだけで1カ月もかからず把握できるとなれば、圧倒的な時間的人的コスト削減になる。
ドローン単体、センシング技術単体で見れば、農業におけるイノベーションはある程度進んできているが、今回の固定翼ドローンと播種ドローンは、不可能を可能にするような劇的なインパクトを農業にもたらす可能性がある。
年々進化を続けるオプティムの2種類のドローン技術。これからの進化と、早期の実用化を楽しみに待ちたい。
OPTiM INNOVATION 2020
https://www.optim.co.jp/innovation2020/
農業×ITのウェビナー、「スマート農業! 空からのアプローチ」では、播種ドローンと固定翼ドローンという2つのロボティクステクノロジーの最新状況を、株式会社オプティム マネージャーの須藤悟氏と、マネージャーの奈良卓氏が発表した。
固定翼ドローン「OPTiM Hawk 2」開発の背景
まずは、固定翼ドローン「OPTiM Hawk 2」について。複数のローターを持つマルチコプター型ドローンと比較するかたちで、なぜ自社開発しているのか、そのメリットとともに紹介された。
固定翼ドローンは飛行時間は約6倍、1日当たりの撮影面積効率では8倍にもなる。モーターが停止しても滑空できる固定翼型の方が安全面でも有利だ。
弱点として、ホバリング(空中での静止)ができない、風の影響を受けやすい、離着陸時に機体の損傷を受けやすいといったことも挙げられるが、そもそもの用途が異なるため、それほどデメリットにはならない。
実際にどのように運用されているのかは、オプティムによるOPTiM Hawk 2での実証実験配信をレポートした「300haの作付を1フライトで確認! 固定翼ドローン「OPTiM Hawk」目視外自動飛行実験レポート」で詳しくご紹介している。
固定翼ドローンの飛行・調査実績も全国に拡大中
そして、この固定翼ドローンを使ったさまざまな調査・研究の具体的な実績も公開された。
NTTドコモとは、有明海でのLTE電波の調査を実施。22kmの海洋上を30分で飛行した。この事例ではグライダー型の従来モデル「OPTiM Hawk V1」が使用された。距離が離れているため、離陸と着陸は別のパイロットがそれぞれ行ったという。
北海道帯広市では、搭載されたNDVIカメラで撮影したオルソー画像から、小麦の収穫優先エリアを導き出すことに成功。これにより、収穫適期を逃さず、品質のいい状態での収穫につなげられるという。
佐賀県白石町では、労力削減目的で作付面積確認をドローンで行っている。10km×10kmのグリッド間隔で町内約7500haを撮影し、オルソー画像で作付状況を確認していった。この調査は3年目で、1年目は3週間、2年目は1週間、そして3年目の今年は3日間と、年々効率が上がっている。これまで担当職員が各生産者を回ったり電話をしたりして確認していた時間はおよそ半年から場合によっては1年にも及ぶ。長期間行っていた調査の手間が大幅に改善される。
さらに、官民協議会の枠組みの中で実施された「農業分野における補助者なし目視外飛行実証プロジェクト」も、トラブルなく撮影を終えている。こちらも以前の記事目視外補助者なしでのドローン飛行の現実度【オプティムの飛行実証事例レポート】にて詳しくご紹介している。
今後の固定翼ドローンの使い道としては、農業以外の火山調査、被災調査、河川管理、道路調査などにも活用の場を広げていけるという。
ちなみに、この「OPTiM Hawk 2」の運用については、調査請負のかたちでオプティムとして有料で受託しており、ドローン自体の単体販売などは行っていない。また、離陸してしまえば自動飛行になるが、離着陸についてはパイロットが実施する必要があるため、操縦にはラジコン飛行機と同様の技術と経験が必要になるという。
水稲栽培に革命を起こす「播種ドローン」開発の背景
ハイライトセッションで登場し、話題となった播種ドローン。ひとことで言えば、水稲栽培において種子をまく作業を行えるマルチコプター型のドローンだ。研究開発は石川県農業総合研究センターとオプティムの共同で、2018年からの3カ年計画で進められている。
写真左が青森県、石川県、佐賀県の3カ所で実証を行った機体、右が石川県とともに開発中の最新版だ。最新版では、ユニットを交換することで播種だけでなく農薬散布などにも活用することを目標に開発している。
播種をドローンで行うメリットは非常に多い。例えば、「育苗」の手間・資材・スペースが不要になること。種子から苗を育てて田植えをする「移植栽培」のあらゆる手間がいらなくなる。それに伴い、大型の田植機やそれを搭載するためのクルマ、育苗のためのハウスも不要となる。さらに、播種作業自体も自動飛行でまいてくれるため、人的資源も大幅に節約できる。棚田のように狭い圃場でも、播種ドローンであれば種子をまくことができる。
「播種ドローン」を実現可能にしたオプティムの独自技術
現在オプティムが開発中の播種ドローンは、飛行速度が毎秒5m(時速約18km)と、田植機と比べると圧倒的に速い。一度の飛行時間は約10分間、種籾積載量は5kgで、7〜8aくらいにまける計算だ。2021年度モデルでは10kg以上を積載し、一度の飛行で10a以上、5分以内に播種できるようになることを見込んでいる。
単に種子を散布可能なドローンならばこれまでにも存在していたが、この播種ドローンには、生産者がこれまで培ってきた水稲栽培のノウハウをそのまま生かせるようなオプティム独自の工夫が多数詰め込まれている。
そのひとつが、条を作ることだ。雑草検知や栽培中の様々な対応を考えてみても、従来の移植栽培と同様に条を作っておいた方が作業効率がいいことは明らか。この播種ドローンでは、30cm間隔で4つの打ち込みユニットから種子を打ち込んでいく。田植機などを使ったやり方と播種ドローンによるものを比較してみても、生育状況、収量ともに大きな差はなかったという。
この土に打ち込む作業にも独自の技術があり、土の表面から見えないくらいの深さまで打ち込むことで、鳥などに食べられにくく、成長した際に倒伏しにくくしている。きれいな条を作る上でも大事な要素だが、育苗の際に生産者が気遣っている部分までを、ドローンによって再現している。
そしてもうひとつは、圃場の水が多い場所を狙って多く種子をまくこと。空撮した画像から圃場の中の水分の傾向を見極めて対応している。水が多い場所では種籾が酸欠状態となり発芽しにくい傾向があること、一定の密度になるように苗立ちしにくい水が多い場所に種子を多めにまくことが目的だ。この制御は飛行しながらリアルタイムで行っているという。
今後は、ドローンにセンサーやカメラをつけて、水量をリアルタイムでセンシングしながら播種量を変えていけるようにもしていきたいとのことだ。
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この「OPTiM Hawk 2」と「播種ドローン」については、実証を重ねている段階でありながら、すでに実用レベルまで開発が進んでいることがよくわかる。そして、他社がまだまだ実現できていない領域に、オプティムとして先行していることも確かだ。
いずれも従来の農業における負担を大幅に軽減できる技術であり、空中を移動できるドローンを用いることで、これまでの常識では考えもつかなかった作業の肩代わりをしてくれるものになっている。
特に、佐賀県白石町の作付面積の調査は、今でも役所の職員が電話やファクスを用いたり、実際に圃場を訪れたりして、それぞれの地域の作付を確認している原始的な作業の代表例と言われている。地域にもよるが、年2回の調査でそれぞれ数ヶ月〜半年以上かかることもあるという。これがドローンを1機飛ばすだけで1カ月もかからず把握できるとなれば、圧倒的な時間的人的コスト削減になる。
ドローン単体、センシング技術単体で見れば、農業におけるイノベーションはある程度進んできているが、今回の固定翼ドローンと播種ドローンは、不可能を可能にするような劇的なインパクトを農業にもたらす可能性がある。
年々進化を続けるオプティムの2種類のドローン技術。これからの進化と、早期の実用化を楽しみに待ちたい。
OPTiM INNOVATION 2020
https://www.optim.co.jp/innovation2020/
【特集】OPTiM INNOVATION 2020 レポート
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