胡蝶蘭で冷房代を2割以上削減した「耐暑性ハウス」の実効性

埼玉県川越市の森田洋蘭園は2020年度から胡蝶蘭の栽培で耐暑性のハウスを導入し、冷房にかかる電気代を少なく見積もって2割は減らすことができた。

屋根の外側には、2枚の遮光カーテンを開閉できる台湾製の資材。軒が高いハウスに建て替えたこともあり、狙った室温の維持が可能となった。

結果、働く人にも花にも快適な環境が整っている。


屋根と並行してスライド式に開閉できるカーテン

森田洋蘭園の耐暑性ハウス森田洋蘭園の耐暑性ハウス
以前紹介した通り、森田洋蘭園は2020年から環境制御装置を取り入れた50aのハウスで年間12万本の胡蝶蘭を作っている。森田洋蘭園は、2019年秋に老朽化していた計11.5aの4棟を順次取り壊して1棟にまとめた。これが軒高が5mに達する台湾製の耐暑性ハウスである。以前は2.7~3mの通常のハウスだった。

その構造をおさらいすると、ハウスの屋根の谷底を基部に骨組みを造り、2枚のカーテンが屋根と並行してスライド式に開閉できる。2枚のカーテンは密着しているのではなく、上下して等間隔で置かれている。

カーテンは遮光率に応じて複数の商品がある。森田洋蘭園が選んだのは1枚の遮光率が50%のタイプ。それぞれのカーテンは個別に開閉するので、閉めるのが1枚なら遮光率は50%、2枚なら75%となる。このほかハウスの内部にもう1枚の遮光カーテンを設置している。


5カ月で39万円。光熱費の削減に成功

冷涼な環境を好む胡蝶蘭の栽培では春から秋にかけ、エアコンを使って室温を下げる必要がある。森田洋蘭園では、4月から1棟につき複数台そろえているエアコンを、室温の変化に応じて順次稼働させていく。その電気代はこれまでは10a当たり年間360万円ほどになっていた。

一方、耐暑性ハウスの電気代は2020年4月から8月までの5カ月で158万円。2019年の同期間は197万円と、2割が削減されている。ハウスの運用にかかる電気代の9割以上はエアコンの稼働によるものが占める。つまり、この差額39万円が、ほぼエアコンにかかっていた電気代の削減分といえる。

ちなみに、遅くとも9月から10月末までも使うエアコンの電気代を比較材料に含めなかったのは、従来のハウスを耐暑性ハウスとして1棟にまとめた2019年8月から2020年4月の完成までは、栽培に使っていないため。つまりこの間は電気を使用していないのである。

先ほどの電気代を見るうえでもう一つ言い添えておきたいのは、2019年と2020年の気温の違いについて。

気象庁が公開している気象に関する地点データの中で、川越市に最も近い地点であるさいたま市の月平均気温を4月から8月までで見てみると、2019年よりも2020年の方がわずかに高い傾向にあった。おまけに軒を高くしたことで、ハウスの容積は2019年よりも大きくなっている。

こうした点を加味すると、耐暑性ハウスの電力代の削減効果は「2割以上になる」。


国産ハウスとの違いは外部の遮光カーテン

社長の森田健一郎さんによると、国内の胡蝶蘭のハウスで遮光する場合にはカーテンの設置方法は大きく分けて3段階ある。

第一段階は内部に2枚を設置する。そこから発展した第二段階は内部に1枚、外部に1枚。第三段階は森田洋蘭園のように外部に2枚となる。

耐暑性ハウスの遮光カーテン耐暑性ハウスの遮光カーテン
森田さんの説明の通り、実はこれまでも屋根の外側に2枚の遮光カーテンを設置することはあった。しかし、国内で売られてきたのは巻き取るタイプ。耐暑性ハウスの設計と建築を担当した中村商事(埼玉県春日部市)によると、これは構造的に問題を抱えているらしい。

2枚の遮光カーテンを張ると、巻き取るタイプでは開閉時に片方のカーテンがもう片方のカーテンを巻き込んでしまい、そのたびに屋根に上って直さなければならなかった。それが今回はスライド式になっており、その心配がない構造になっているとのこと。

一方、遮光カーテンをハウスの外部ではなく内部に設置すると、どうしてもその開閉に使う電動機の数が多くなる。数が多いほどに故障の発生も増えるので、修繕に時間を取られてしまうのだ。


快適な作業空間と病気の発生減少にも寄与

ほかの利点として、まず人が快適に作業できるようになったことがある。これは外部に遮光カーテンを設置したためだけではない。4棟のハウスを1棟にまとめ、軒を高くしことも大きい。森田さんはこう語る。

森田洋蘭園の会長の森田康雄さん(右)と社長の森田健一郎さん(左)森田洋蘭園の会長の森田康雄さん(右)と社長の森田健一郎さん(左)
「ハウス全体の表面積接地面が減ったので、外気の影響が抑えられるようになった。さらに軒高が高くなって上昇気流が生まれるので、体感としてはすごく涼しい。以前だと設定温度よりも室温が抑えきれずに高くなる傾向にあったが、耐暑性ハウスは設定温度で完全に制御した上でまだ余力がある。だいぶ違いますね」

もう一つの利点は病気が発生しにくくなり歩留まりが上がったこと。「室温がある程度高くなると花がしおれる病気が発生することがあり、売り物にならなくなっていた。それが極端に減ったね」

こうした利点を含めると、電気代の削減以上に得るものはあったと、森田さんは感じている。

「次に建てるとしたら、やっぱり耐暑性ハウスだよね」


温暖化の中で高まる耐暑性ハウスの必要性

耐暑性ハウスを導入したのは森田洋蘭園が国内では第1号。第2号として中村商事で施工している最中で、2021年3月に完成する予定だ。同社はイチゴの観光農園の運営や環境制御技術の指導なども手掛けている。

森田洋蘭園での結果を踏まえると、年々暑さが増している国内であれば、耐暑性ハウスを活用する余地は広がるに違いない。

とはいえ、既存のハウスでは設計的に外部に二重の遮光カーテンを増設するのは難しい。森田洋蘭園のようにハウスを更新する時期が導入を検討する時期になる。


有限会社森田洋蘭園
https://www.morita-orchid.co.jp/

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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