市場外流通と市場流通の連携を実現させた、農総研の取り組みとは?

株式会社農業総合研究所(以下、農総研)が卸売会社や産地と連携し、青果物を仕入れ販売する「産直卸事業」を手がけて10月で1年を迎える。2021年度8月期の通期業績予測では早くも流通総額の1割近くに達する見込みだ。

市場外流通と市場流通の連携は食と農の世界に何をもたらすのか。第1弾となった富山市からその一端を垣間見る。

過去の記事:農総研×富山中央青果が目指す“農業流通革命”
https://smartagri-jp.com/smartagri/1889

農家に直接会って安全と品質を保証

富山市のドラッグストア「クスリのアオキ」に入って、まず目を引くのは青果売り場の存在とその広さだった。小さなスーパー並みの規模で、品数も充実している。そんな棚の一角で包装に意匠が凝らされた「ひまわり大葉」が並んでいた。

農総研がブランディングした「ひまわり大葉」
この商品は、農総研が卸売会社・富山中央青果(富山市)を経由して仕入れた大葉で、産地は愛知県豊川市のJAひまわり。包装には「さわやかな香り立つ」「やわらかな若い葉」などと特徴が表記されている。確かに隣に並ぶ同じく愛知県産の大葉と比べると、葉の大きさが一回り小さいものの、柔らかそうである。

「100%農直」──包装には、農総研が農家と直接会って安全と品質を確かめたことを保証するマークも記されている。富山県では他のスーパーの青果売り場でもこのマークが貼られた商品が着実に広がっている。

「産直卸事業」で農総研と連携する富山中央青果株式会社の安井豊社長は「いずれのお店でも売れ行きは好調と聞いています」と語る。


付加価値を見える化

農総研の主要事業といえば、スーパーにインショップを置き、農家から集荷した農産物を委託販売する「農家の直売所」である。売りは物流の短縮化で生み出した鮮度の良さ。一般的なJAから卸、仲卸を経由する場合は2~4日かかる。対して農総研は集荷場や流通網は自社で構築し、前日あるいは当日の朝に取れたばかりの青果物を翌日の開店時には各店舗に並べている。

一方、富山県を皮切りに手がけ始めた今回の「産直卸事業」では、連携先の富山中央青果で取り引きされる中から特徴的な青果物をブランディング(付加価値の見える化)している。具体的には農家に取材して、地域特産の野菜や果物の価値を発掘。それらを仕入れて、POPやQRコードで農家や栽培の情報を消費者に伝えながら販売する。


生産者側の調製を農総研が肩代わりし、価格は安定

中でも代表的なのは富山県のJA魚津の管内で生産される「白ネギ」だ。他県と違って、富山県では青い部分を好んで食べる文化がある。そのため県内の産地では青い部分と白い部分がほぼ半分ずつになるよう土寄せの工夫がされている。

農総研はこれを「他県にはない面白い食べ方」と評価し、「青と白が仲良く半分ずつになっている」という意味を込めて、「仲良しろねぎ」という名前で販売した。

魚津市の農事組合法人ゆかり営農組合は、経営面積46haのうち施設も含めて1.5haで白ネギを栽培する。このうちの一部を「仲良しろねぎ」として出荷する。前組合長の折川孝義さんに農総研と取引を始めた利点を聞いた。

ゆかり営農組合の折川孝義さん(左)と折川貞義さん
「まずは結束と袋詰めを市場でやってもらえることが良かった」。以前であれば市場に出荷する場合、自分たちで双方の作業をこなしてきた。それから解放され、生産に力を入れられるようになった。

もう一つ良かったのは契約価格が決まっていること。折川さんは「市場相場はアップダウンがあるのに対し、価格が安定しているので、経営計画を立てやすくなった」と語る。


地方卸売会社の危機感

富山中央青果は、地方の卸売会社として存続できるかどうかの危機感を持ってきた。同社の安井豊社長は次のように説明する。

富山中央青果の安井社長
「スーパーがセンター機能を強化して、青果物の集荷と各店舗への出荷を一元的に行うようになってきました。このままいけば富山に市場が存在する理由がなくなってしまう。そうならないためには、地方の市場の存在意義を問い直す必要があります。

これまで卸売市場はここで待っていれば青果物が各地から集まり、売れていきました。ただ、それだけの役割を続けているだけでは衰退してしまう。だから『外に打って出ないといけない』と感じていました。

とはいえ、どうすればいいのかがわからない。そんな時に農総研から声をかけてもらいました。その力を借りることで、市場に集まる青果物の付加価値を上げていこうと思ったんです」

富山中央青果でのセリの様子
先ほど述べた通り、富山中央青果は加工場を整え、結束や袋詰めなど農家がこなしてきた調製作業を代行するようにしている。

全国の産地とつながりがあることに加え、こうしたインフラを備えられることが市場流通の強みだ。農総研と提携した理由について、安井社長は「直売のノウハウや個人生産者とのつながり方、IT技術導入、輸出への挑戦、ブランド化のセンス、農業への情熱に期待してのことです」と理由を語った。富山県といえば野菜の産出額が全国で最も低い。農総研との提携でその脱却を目指すという。

次回は農総研の及川智正会長に「産直卸事業」を始めた理由と展望についてインタビューする。

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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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