石川発、オプティムの空飛ぶドローン播種機の実証が本格化!
田植えをしない「直播」という選択
6月23日、石川県白山市郊外の水田を訪れた。一見田植えを終えた苗が、青々と風にそよぐ普通の光景に映るが、実は他の水田とは、違う方法での米作りに挑戦している。
「ここで『白山もち』というもち米を栽培しています。育苗や田植えは行わず、直接ドローンで田んぼに種籾を播いて育てるやり方に取り組んでいます」
と話すのは、株式会社六星(ろくせい)営業課ゼネラルマネージャー西濱誠さん。田植えを行わずに米を栽培する。そんな方法があるのだろうか?
日本で栽培されている米の多くは、田んぼとは別の場所で種籾を発芽させ、成長した苗を田植機で植え付ける「田植え」を行って育てられていて、ゴールデンウィークになると親戚一同が集まって、共同作業を行うのは、毎年の恒例行事だ。
それとは別に、育苗と田植えを行わず、種籾を田んぼに直接播いて、そのまま育てる。この方法は「直播(じかま)き」または「直播(ちょくは)」と呼ばれている。
金沢市の隣、石川県南部に位置する白山市を拠点に167haの水田で米を栽培している六星、能登半島の西側の中山間地の多い志賀町で60haの水田を持つ株式会社ゆめうらら、石川県農林総合研究センター、株式会社オプティムは、農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」の支援を受け、3年に渡り、共同で農業用ドローンを利用した種籾の直播について研究と実証を行ってきた。
その成果を踏まえ、今年からいよいよ本格的な実証が始まっている。
水稲の種籾の直播には、どんな方法があるのだろうか? 石川県農林総合研究センター、育種栽培研究部作物栽培グループ専門研究員、宇野史生さんに教えていただいた。
「直播には、大きく分けて水の入っていない乾いた田んぼに種を撒く『乾田直播』と、水を入れた田んぼに種を撒く『湛水直播』があります」
乾田直播とは?
「乾田直播」は、田に水を入れる前に圃場を耕し、苗がある程度まで成長して根付いたところに水を入れて稲を育てる方法。
乾いた圃場にV字型の溝を切り、そこに播種を行う「V溝直播」等の方法が採用され、作業速度が速いメリットがある一方で、大型の農機で播種するので圃場を硬くする必要があるため播種直前に晴れの日が続かなければならない等の弱点がある。
湛水直播とは?
それに対し田んぼに水を入れてから播種するのが「湛水直播」。水を入れ、代かきを行った後、泥の中に播種するので、種子が発芽しにくく、酸素不足で苗立ちが悪い、種子を鳥に食べられてしまう等の問題も。
これらを防ぐため、種子が浮き上がらないように鉄で覆う「鉄コーティング」、発芽した種子を酸素発生剤(カルパー)でコーティングし、土中に打ち込むことで、種子の周囲から酸素が発生し、酸欠にならず生育できる「カルパーコーティング」等の方法が採用されている。
湛水直播はどの方法でもぬかるんだ田んぼの中で播種を行うため、乾田直播よりも作業速度が遅いという弱点がある。
いずれも苗の移植を行わずに栽培することで、手間と労力、そしてコストを削減しようという試み。そこへ最近になり、高速作業が可能な湛水直播が登場した。
「ドローン直播です」
これまでの直播は、田植機に専用のアタッチメントを取り付けたり、直播専用の播種機を用いるなどしていたが、ここへ来て田植えのいらない米作りの世界に、新たに「ドローン」という“空飛ぶ播種機”が現れたのだ。
軽々と畦を乗り越え、田植機の2倍のスピードで播種
白山市でドローンによる播種が行われたのは5月6日。使用したドローンはXAG社製のP30。そこに、30cm間隔の条を形成するオプティム社開発の4連打ち込み播種ユニットを搭載している。
催芽した種子を積み、水田の1m上空を飛行。6分間で10aの水田に種子を打ち込んでいった。現場では、ドローンが飛行する電子音、そして代かき後の泥の中に、種子を打ち込む「バチバチ」という音が聞こえた。
裏さん 「いやあ、スピードが、めっちゃ早い」
宇野さん 「田植機は1秒に1.7m進むので、時速に換算すると6kmぐらい。かたやドローンは時速12〜13kmなので、2倍以上早い計算になります」
西濱さん 「田植機と違い、畦を跨がずに隣の田んぼに移動できるのもいいですね」
西濱さんが所属する、六星が栽培を手がける水田は、白山市を中心にざっと1500枚。市街地周辺は所有者が入り組んでいて、10aに満たない小さな田んぼも少なくない。すると大型の播種機を入れて播種を行い、小さな田んぼを出てまた隣の田んぼへ……。その作業の繰り返し。効率が悪く、時間もかかりがちだ。
その点、上空から種子を打ち込むドローンは、畦を軽々と乗り越え隣の田んぼに移動して、播種を続行。小面積の水田が多い市街地での播種に有効と考えられている。
一方、ゆめうららの裏さんは、能登半島の志賀町で新規就農。2012年栽培面積4haからスタートして、「耕作放棄地を減らしたい」と、怒涛の勢いで規模を拡大。現在は60haで栽培を続けている。市街地周辺の平野部で栽培を続ける西濱さんとは対照的に、圃場の大部分が中山間地で「田んぼよりも法面の方が広い棚田」が多い地域だ。
「でも、そこで米作りをやめてしまったら、農地の継承はできません。景観維持とコストの削減。この2点を実現させるためにドローン播種は必要です。スマホ1台で操作できるのもいい。幅広い年代にできると思います」
直播による米作りは、移植に比べ、どうしても発芽率が低い、播種時に種子が風で飛ばされる、鳥害に遭いやすい等のリスクを抱えている。
しかし、今回のドローン播種では、オプティムと石川県農林総合研究センターによるこれまでの実証実験の成果を生かし、機材の調整や、飛行高度を下げるといった対策で、上の圃場の様子の写真を見ていただければわかるように、かなり成功している。
西濱さんや裏さんのように、地域の未来を背負って規模拡大を続ける生産者にとっては、労力とコストの低減、同じ品種でも直播と移植を併用することで収穫期間を延ばすことができるなど、経営的なメリットも多く、従来の移植と併用させる方向で、可能性を探っている。
自慢の豆大福や地酒に。姿を変えるドローン直播米
さて、今年栽培されたドローン直播米は、どんな形で販売されるのだろう?
「今、ここで栽培しているのはもち米の『白山もち』。いずれも自社で加工販売しているお餅や大福になる予定です」(西濱さん)
六星は、1977年に4人の米農家が結成した生産組合が原点。以来、お米にこだわり規模を拡大。環境保全米の栽培にも力を入れていて、栽培面積は167ha。うるち米ともち米がメインで、さらに6次化も実現。スタッフは生産、加工、販売部門を合わせて100名に及び、自社で栽培した米を原料に、お餅やお弁当、和菓子の製造・販売も行っている。
米の栽培を起点に多角的な経営を展開する中で、地元の人たちや観光客に親しまれているのは、金沢駅構内や近江市場に店舗を展開する「豆餅すゞめ」の塩豆大福。ドローン播種で生まれたもち米は、こうして自慢の加工品に姿を変えていく。
続いてゆめうららの裏さんは、
「僕はドローン直播で、酒米を作ります」
10年前に就農して以来、裏さんは能登町の数馬酒造と協力して、地元で穫れた酒米を使った日本酒向けの酒米を栽培してきた。そのお米は「Chikuha N」という名の純米酒に結実。蔵元社長の数馬嘉一郎さんは高校時代の同級生。稲作を通して地域の産業や食文化を盛り上げようという2人の意気込みが詰まっている。
「酒蔵には価格帯を変えずに卸します。環境保全米として栽培しているから、お酒に付加価値を乗せて売ってほしい。酒屋さんや飲食店がコロナで大変な時期、コストを抑えることで酒米の原料供給メーカーとして応援していきたい」(裏さん)
平野部の白山市と中山間地域の能登半島。米作りがさかんな石川県の中でも、栽培環境が大きく異なる地域で、ドローン直播を起点に新しい米作りの流れが始まろうとしている。
株式会社六星
https://www.rokusei.net/
株式会社ゆめうらら
https://www.yumeurara.co.jp/
自動飛行ドローンによる水稲直播 × AI解析ピンポイント農薬散布に世界で初めて成功!【石川県×オプティムの取り組み 前編】
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「自動飛行ドローン直播技術」をわずか2年で開発できた理由【石川県×オプティムの取り組み 後編】
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