「自動飛行ドローン直播技術」をわずか2年で開発できた理由【石川県×オプティムの取り組み 後編】

石川県農林総合研究センターと株式会社オプティムの共同開発による、「ドローン水稲直播栽培」の3カ年計画が、2018年〜2021年にかけて石川県で進められています。

水稲の直播が難しいのは、大量の種子を確実に生育させ、一定の収量を上げることが必要な点にあります。これまでの常識で言えば、ドローンにより上空から種子を射出して埋め込むという直播の手法の難易度が非常に高いことが、容易に想像がつくでしょう。

後編では、いかにしてこの手法を開発したのか、センター所長の島田義明氏に加えて、実証実験に携わった主任研究員の永畠秀樹氏、専門研究員の宇野史生氏、さらに株式会社オプティム取締役の休坂健志氏も交えてインタビューを行いました。「いしかわの食と農業・農村ビジョン2016」により様々な企業と取り組んできた開発の裏側、未来の石川県の農業のビジョンについても伺います。

お話を伺った石川県農林総合研究センターの島田義明氏(左から2番目)、永畠秀樹氏(右端)、宇野史生氏(左端)と、株式会社オプティム取締役の休坂健志氏

※新型コロナウイルスの影響を鑑み、インタビューはオンラインにて実施しました。
※記事中の写真および参考資料は、2019年の「OPTiM INNOVATION」で登壇された際のものを使用しています。

ドローン直播の大きなメリット


──石川県として実施している「直播」の手法としては、コマツのブルドーザーとオプティムのドローンという、まったく異なる直播栽培法があります。それぞれのメリットや使い分け方について教えてください。


島田:石川県では2019年現在、1200ha直播を行っています。そのうち、ブルドーザーによるV溝直播が600ha、ドローンで行うような「湛水直播」と呼ばれるものが600haと半々です。これらは栽培形態の都合によって二極化していて、多分お隣りの富山県も同じような状況だと思います。

V溝直播では、秋から冬にかけて代掻きをして、そのあと土をカチカチに固める必要があります。この作業は水がないとできないので、秋になって用水組合などが水を止める地域では実現できません。なので、地域によって使い分ける形になります。

トラクターとブルドーザーの比較。ブルドーザーの方が有利な面も多い

──ブルドーザーとドローンではどちらの方が収量や利便性など、優れているのですか?

島田:2つの方法があるので優劣を考えてしまいがちですが、どちらにもメリットはあり、比べるものではないんですよ。

V溝では、地表から5cmのところに種子を播きます。普通の移植(育苗した苗を植えていく栽培方法)だと深さは3cmくらいなのですが、それよりも深いところに種子を播くので、土によって株元が締められて倒れにくくなるんです。

そもそもV溝直播は愛知県の試験場が20年前に開発した技術なんですが、彼らは「省力化技術」だけではなく「多収技術」として開発しました。実際、場所によっては多く獲れます。

──なるほど。地域によって使い分けているんですね。

島田:そうです。能登地方は粘土質が多い土なので、例えば4月10日に雨が降ったとしたら、それがカチカチになるまで1週間は晴れないとV溝直播はできない。もし雨が降ったらまた乾かさないといけないので、V溝直播でいこうと思っていたら「(適切な時期に)播けませんでした」ということも、何年かに1度あります。

逆に、県南の白山市や小松市は粘土質に対して「砂質」が多い土なので乾きやすく、3日も晴れれば簡単にV溝直播ができるので、そちらの地方にも多いですね。

海外では「直播」が一般的


──今後石川県としては、ブルドーザーとドローンによる直播をどのように普及させていくのでしょうか?

島田:V溝直播はこれまで20年間実施していますが、やり方を知るとすごく楽なんです。育苗が必要ありませんし、秋の時間があるときに代掻きして春に晴れたら種子を播く、という経験をした方はV溝直播を続けていますね。

──逆に、ドローン直播のメリットはどんなところでしょうか?

島田:V溝直播は当然、ブルドーザーを人間が運転しなければなりません。ドローンの圧倒的な強みは、自動で飛行・播種してくれるところですね。

特に、オプティムのドローン直播は、土にしっかり打ち込んでくれますので、稲穂が倒れる心配も少なく、本当に超省力的な播種方法と考えています。種子のコーティングなどの手間もコストもかけなくていいのが、このドローン直播の素晴らしいところです。

我々が開発する手法は、農家さんにとって一番楽な方法にしないといけません。楽な方法であれば、やりたいと考える人も増えると思います。

──収量アップという観点からも、ドローン直播には大きな期待が持てるわけですね。

島田:そうですね。そもそも、米国にせよ東南アジアにせよ、多くの地域での水稲栽培は直播です。海外では苗を作れる人もいないし、運ぶ人もいないし、田植えをして水田の端までしっかり植えられる人も多くはありません。グローバルに見たら直播の技術は進化すべきポイントでもありますね。

1年前倒しで研究の成果を証明


──ところで、オプティムとの取り組みが決まった時、こんなに早くドローン播種ができると想定されていましたか?

永畠:どちらかというと「やるしかない」という雰囲気でした(笑)。企画書には収量を何%上げます、生産者収益を何%上げます、というゴールまで書いて国に対して提案するのですが、そこにはオプティムの担当者も同席されていましたから。

──ということは、採択されて研究予算は獲得できたものの、8月から12月にかけて短期間で実績を上げなければいけなくなったことは、オプティム側も知っていたわけですね(笑)。正直なところ、「いける!」と手応えを感じられたのはいつ頃ですか?

永畠:(2019年)3月頃、ドローン直播で4条(4列)が作れた頃です。2018年12月頃のプロトタイプは1条だけで、水を張った田んぼに打ち込める、というレベルでした。

開発段階では、田んぼと同じくらいの柔らかさの寒天に打ち込んで、狙った位置と深さに種子が入っているかどうかを確認していきました。それを乗り越えてから、4つ同時に播けるようにしていただいたんです。

できるようになってきたのは10月くらいですね。12月までには成果を出さなければならなかったので、実質の開発期間は約2カ月程度でした。

2019年版の直播ドローン

──1条のプロトタイプの時点で、手応えはありましたか?

永畠:気になったのは、本当に条になるか、というところでした。

苗というのは、1平方メートルあたり40〜70本立てばいいと言われています。つまり、それくらい幅があるんです。実際には多少条がずれていても、収量的には問題はありません。

理想はもちろんまっすぐに並ぶことなんですが、ドローンですので風が吹けば多少ずれます。ただ、稲には植えた空間が狭い時、広い方に広がる「補償作用」という性質がありますから、何株か欠株があってもその方向に広がるので、大きな問題はありません。

──その1条の状態が12月で、翌3月までに4条にできる開発を進めたわけですね。

永畠:そうです。もともとは1年間で開発を進める予定だったのですが、そこまで実現できたことから、2020年に試す予定だった青森県と佐賀県でも播種だけは2019年にやってみることになりました。

実証に参加してくださった農家さんも、「どうせやるなら全部やってみて」と、播種から収穫まで圃場全面で実験することになりまして。経過を見ると思いの外うまくいきましたね。

ゆくゆくは1台のドローンで解析、直播、農薬散布まで


──もうひとつ気になるのが、直播による食味への影響です。こちらはどうでしょうか?

宇野:直播による直接的な違いは特にありませんでした。

それよりも、大規模経営で効率化したい農家さんにとっては、移植から直播に変更することで育苗にかかっていたコストが下がりますよね。同時に、作業ピークの時期がずらせるので、多くの圃場を持っている方や、規模をさらに拡大しようとしている方にも有効なんです。扱う品種によっても、収穫時期をずらすことが可能になりますしね。

──ドローンを開発されているオプティム側として、残された課題はどんなところでしょうか?

休坂:今は打ち込めるところまでできていますが、実際に播種ができるドローンを製品にするとなると、農家さんが使いやすいように改良も必要です。たとえば、ドローン本体や直播ユニットの洗いやすさなども、農家目線からすると気になるポイントですよね。

理想としては、ドローン1台で直播ユニットと農薬散布ユニットを交換できるようにしたり、カメラも搭載して圃場を撮影して生育診断や可変施肥までできれば、ハードウェアのコストも下がりますし、診断用の専用ドローンが必要なくなります。

直播ユニットは取り外し可能なかたちで開発されている

──ちなみに、ユニット交換は現実的に可能なのですか?

休坂:もちろん可能です。先程の通り、現場での使用感を意識し、こちらも改良を行っていきます。

ドローンのメーカー、機種に関しても、どの機体がどの作業に向いているかを比較しながら進めてきています。その間にも、農家の皆さんの要求もどんどん高くなってきていますから。技術の進化が早いので、このプロジェクトを立ち上げた当時と今では機能もだいぶ違います。

2020年の実証で改良された最新型直播ドローン

──最後に、石川県としての今後の展望をお聞かせください。

島田:正直、実際に収穫するところまで2019年内に着手できるとは思っていませんでした。

実証プロジェクト1年目の2018年は「しっかりやらないと予算を出せない」と言われていましたが、2年目の2019年には「よくここまで実現したね」と評価していただけました。2019年の春くらいまでは手動で飛行していましたが、秋には自動飛行に向けてオプティムのドローン開発部隊が改良を進めています。

次の作戦もオプティムと練っているのですが、今の技術で言えば、2021年くらいにはスイッチを押すだけで勝手に播いてくれるところまで実現できると思います。

※ ※ ※

ラジコンヘリに変わって、扱いやすさや低価格なツールとして普及している農業用ドローンですが、 その活用の幅は大きく広がっています。AIによる雑草や病害虫の検出と農薬散布、生育分析と施肥に加えて、今回コメの直播にも成功しました。

そして2020年は、このプロジェクトがひとつの区切りを迎えます。今年の秋にはあらためて、ドローン直播のより具体的な成果をご報告できるでしょう。


オプティムイノベーション2019
https://www.optim.co.jp/event/201910-optiminnovation
石川県農林総合研究センター
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/noken/nourin.html
【事例紹介】スマート農業の実践事例
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。