自動飛行ドローンによる水稲直播 × AI解析ピンポイント農薬散布に世界で初めて成功!【石川県×オプティムの取り組み 前編】

コメの栽培の過程は、育苗、田植え、生育、収穫と大きく4つの段階に分かれます。日本の田植えといえば、青々と育てた苗を横一列になって腰をかがめながら田んぼに植えていく光景を誰もが思い浮かべるでしょう。

しかし、以前から育苗の時間と手間、田植え作業を軽減するとして注目されていた「直播」(直接播種)という方法が、スマート農業技術の進歩によって活用できるようになりつつあります。

直播とは、圃場に直接種子を播く米作りの方法のこと。苗を育てて植える移植栽培の方が苗立ちがよく、並び(条)がうまく作れるのですが、大規模農業法人の場合、直播にすることで育苗の時間と場所、作業の手間を大幅に省くことができます。

そんな直播をドローンで実現しようとしているのが、株式会社オプティムと石川県農林総合研究センター。すでに2019年末の時点で、ドローンによる播種と収穫まで実現できています。

いったいどのような仕組みなのか、どんな機材を使っているのか、本当にドローン播種による稲はしっかり生育するのか、そして労力などはどれくらい軽減されるのか──。

今回は、このプロジェクトを主導する石川県農林総合研究センター所長の島田義明氏に、石川県の農業の現状と、直播ドローンの開発秘話を伺いました。

※新型コロナウイルスの影響を鑑み、インタビューはオンラインにて実施しました。
※記事中の写真および参考資料は、2019年の「OPTiM INNOVATION」で登壇された際のものを使用しています。

石川県農林総合研究センター所長の島田義明氏

農業課題を解決するために企業と共同研究


石川県の農業は、水稲が71.1%と大勢を占めていますが、農業産出額は全国シェアで見ると0.6%の43位、それも年々減り続けています。そんな中で、大粒ぶどうのブランド「ルビーロマン」などが近年人気を集めています。


県内の農業従事者は、担い手の高齢化と後継者不足という課題は他県と同様です。2007年(平成19年)に実施した、奥能登地域の全農家に聞いた実態調査では、後継者がいない農家が9割を占め、10年以内に離農する意向の農家は7割にも上ります。

そこで県としては、大規模農家への農地の集約と受託作業の増加、県外の法人の誘致など、石川県の農業を継続させるために取り組んでいます。

そんな中で策定したのが「いしかわの食と農業・農村ビジョン2016」。4本の柱と18の重点課題を設定し、「企業の技術・ノウハウを生かした生産性向上の取り組みの推進」という点を、これからの最重点項目と定めました。


例としては、株式会社ヤンマーとの密苗栽培技術の開発があります。従来は1箱あたり100gだった種子を、3倍の密度で播種してできた苗(密苗)を移植可能とする密苗仕様の田植機を開発し、労働時間を3分の1、育苗資材費を2分の1まで削減しました。

井関農機株式会社とは、田植機に土の深さを測る超音波センサーと肥沃度を図る電極センサーを搭載した、可変施肥田植機を共同開発。走行しながら超音波や車輪につけた水深センサーでリアルタイムにセンシングし、前輪が走行した時点で地力マップに応じて後輪側で施肥するというものです。自動で施肥できるのはもちろん、生産者の経験とカンも反映可能になります。

また、建設機械大手のコマツとともに取り組んだ「多機能ブルドーザーによる米の低コスト生産技術開発」では、20年以上の実績がある「V溝直播」について、ブルドーザーを活用した体系で初めて実現しました。

石川県ではもともと水稲栽培への建設業からの農業参入企業が多く、ブルドーザーを所有している農家が多いという事情もあったそうです。ブルドーザー直播により、耕起、代かき、直播のいずれにおいてもトラクター同等の作業精度を実現できるようになります。

土木建築業者があまりブルドーザーでの作業を行わない11月〜1月頃にかけて稼働できるという点、土木業と農業を併用できることで省力化・機械費の削減にもなり、さらにICTブルドーザーなら初心者でも熟練者並の作業ができるため、人手不足の建設業側にとっても負担が少ないというメリットもあるそうです。

3カ年計画を前倒しで実現した「ドローン直播」


このような状況の中で、オプティムとの協業は2018年にスタートしました。自動飛行ドローンとAI分析を用いた直播栽培技術です。

「大規模の稲作農家にとっては、種子からうまく育ってくれるのであれば、育苗の手間とコストがかからない直播が理想です。しかし、従来の直播には苗立ちの不良、倒伏、雑草による収量低下といった課題がありました。それらを一気に解決するのが、自動飛行ドローンを用いて直播と雑草防除を行う手法なんです」と島田氏。


具体的には、ドローンに種子を搭載し、圃場に対して直接種子を打ち込んでいくというもの。条も形成でき、収穫量アップも期待できるそうです。

さらに、オプティムが「ピンポイント農薬散布テクノロジー」で培ったAIアルゴリズムを活用して、必要な箇所にだけ雑草や病害虫の防除も行います。農機の予算を抑えることもでき、トラクターやブルドーザーなどと比べて保管も簡単で気軽に持ち運びできるというメリットもあります。

ただ、この取り組みでの研究予算申請時の有識者の反応は、当初は懐疑的なものでした。

「審査担当者からは、『打ち込み式で播種できるとは思えない』『ドローンには積載量の制限があるのでは?』『条を作るのは難しいのでは? 散播にしてはどうか?』といった懐疑的な声が多数上がりました。そのため、2018年8月から12月までに直播ができることを証明すること、という付帯条件が課せられたなかでのスタートだったんです」

しかし、結果としてこれらの条件は短時間でクリアしてしまいます。

使用したドローンは、市販のドローンとオプティムオリジナルの播種ユニットを組み合わせたもの。条を作るため、15cm間隔でモーターの回転力により種子を打ち込めるようにしました。

2019年型の直播ドローン

自動飛行についても、農業者が指示を出すだけで10aあたり5kgの種子を播き切ることに成功。想定よりもはるかに早いタイミングで実用が可能になりました。

自動飛行についても、農業者が指示を出すだけで10aあたり5kgの種子を播き切ることに成功。想定よりもはるかに早いタイミングで実用が可能になりました。

ピンポイント農薬散布については、雑草検知のためのAIアルゴリズムをすでにオプティムは以前から研究していました。撮影した圃場の画像を解析して、雑草の発生位置情報をドローンのフライトプランに落とし込みました。


研究センターが企業と生産者をつなげる


石川県の今後の課題として島田所長は、「現在のドローンは積載量が少なく、飛行時間もまだ短い。今後の改良でさらに大きな水田に自動飛行で直播や防除を行ってくれるようになれば」と期待を寄せています。

また、「企業と生産者が直接やりとりすると、互いの意見がうまく伝わらないことがあるんです。開発された技術を普及させるためには、我々のような普及指導員などが必要ですし、今後ますますそういった人の必要性が増していくでしょう」とも付け加えました。

石川県の課題は、担い手不足や高齢化、収穫量の減少といった目の前の問題がいち早く顕在化したケースと言えます。石川県×オプティムによるドローン直播の成果は、それ以外のどの地域にとっても有用な事例となるでしょう。

(後編に続く)


オプティムイノベーション2019
https://www.optim.co.jp/event/201910-optiminnovation
石川県農林総合研究センター
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/noken/nourin.html
【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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