いちごの輸出を拡大するスマート技術とは

輸出拡大の有望品目とされるいちご。その実現に寄与する研究グループが、施設において収量と品質を高めながら、省力かつ省エネで生産する技術の開発に取り掛かっている。

実証実験の最終年度を迎え、これまでの成果の概要を紹介したい。


狙いは中流階級の上位層


研究グループには、農研機構・九州沖縄農業研究センターや秋田県立大学のほか、イオン九州や日本通運などといったサプライチェーンの各方面の関係者が名を連ねる。前回紹介した選果をするロボットも、その成果のひとつとして見込んでいる。

参考記事:2024年度に市販化予定のJA阿蘇「いちごの選果ロボット」はどこまできたか
https://smartagri-jp.com/smartagri/6045

いちごの輸出額は2019年度に21億円だったが、21年度には40億円を超えた。国は2025年度には86億円にする目標を掲げている。輸出先のほとんどは香港や台湾を含む東アジアだ。

引用元:農林水産省 輸出・国際局 輸出企画課「2021年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」
研究グループはその実現のため、顧客層の拡大を図ることを目的とした。すなわち、顧客として従来の富裕層だけではなく、中流階級の上位層も取り込むため、「中価格帯」での商品を充実させるための生産や流通の技術の開発だ。

中価格帯とは、1パック当たり1200~1500円で、競合する韓国産の1.5倍である。現地バイヤーによると、この価格帯であれば、日本産が売れるという。

局所施用の機器を2023年度に市販化


ただ、この価格帯に抑えるためには、まずもって収量を上げることが必要になる。

そのために開発した技術の一つが、光合成を活発にするために必要な二酸化炭素を、施設の全体ではなく局所に適時に施用するというものだ。技術の詳細は既報したとおりなので、ここではその成果だけを伝えたい。

参考記事:イチゴの輸出額を4倍に増やすスマート農業とは 〜 農研機構・九州(前編)
https://smartagri-jp.com/smartagri/3564

二酸化炭素の濃度を高める装置
JA阿蘇の農家で実験したところ、慣行区と比べて、累計の収量は9%増となった。さらに、累計の販売収入は11%増となった。収量よりも販売収入のほうが多くなったのは、いちごの販売単価が高い12月から翌年2月までの収量が増えたことが理由である。

福岡県では、燃油高騰対策としていちごだけではなく、きゅうりやなすにもこの技術を応用する実験が始まっているという。

農研機構・九州沖縄農業研究センター主任研究員の日高功太さんは普及の現状についてこう語る。「いまのところは、生産者による自家施工による普及がメイン」。ただし、今後は一連の機器を市販化することを予定している。

収穫日の予測で取引促進やシフト管理


研究グループは、収穫日を予測するシステムの開発にも取り掛かっている。スマートフォンで撮影した画像から、果実の熟度を自動で計測したデータを基に予測する。果実の位置は、人の顔を認証するのと同じ技術を活用し、特定する。

農研機構・九州沖縄農業研究センターで暖地畑作物野菜研究領域・施設野菜グループのグループ長補佐である曽根一純さんは「出荷日を予測することで、取引の促進につながるだけでなく、いつどれくらいの人員を用意すればいいのかも事前に見通せる」とみている。

環境計測機器を装備した収穫台車で、まんべんなくデータ収集


研究グループは、温度やCO2濃度などの環境データを計測する機器を収穫台車に装備することで、施設内の温度や湿度、日射などを網羅的にモニタリングする技術の開発も進めている。農家が作業のついでに収穫台車を移動させることで、施設内の隅々にわたる環境に関するデータが、これ一台でまんべんなく拾えることになる。

既述した、果実の熟度を把握する機器も収穫台車に装備できるようにする予定。

いちごの株元付近に適当な間隔でQRコードを設置することで、施設内でデータを取得した空間的な位置を把握できるようにする。それにより、経時的にその果実や環境のデータの変化を追跡できる。一連のデータについて、利用者はスマートフォンを用いて、グラフやヒートマップで閲覧できる。

低コストで鮮度を維持できる船便の輸送方法


研究グループは、輸送段階での痛みによるロスと費用を減らす技術や手段の検討もしている。1パック1200~1500円に抑えるには、輸送手段としては空輸よりも安価な船便が絶対条件となる。となると輸送に時間がかかり、従来の方法では鮮度が悪くなるのは必至だ。

そこで検証しているのが、鮮度の保持効果が高い電場を使った冷蔵コンテナによる船便輸送だ。ただし、2021年度は新型コロナ渦で、海外に直接輸出する実証試験はできなかった。代わりに、同様の方法と期間で国内で輸送の実証試験をしたところ、一回の輸送で2000パックを積載すれば、価格と品質の両方で韓国産に対して競争力を持つ商品を提供できることがわかった。

この実証プロジェクトは2022年度まで。2023年度からはどのように実装されるのか。その行方に期待したい。

本実証課題は、農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト(実証課題名:日本産イチゴの輸出拡大を強力に後押しするスマート高品質生産・出荷体系の構築)」の支援により実施されています。

スマート農業実証プロジェクト JA阿蘇いちご部会委託部(熊本県阿蘇市ほか)
https://www.naro.go.jp/smart-nogyo/r3/subject/yushutsu/152935.html

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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