2024年度に市販化予定のJA阿蘇「いちごの選果ロボット」はどこまできたか

重量に応じていちごを選果するロボットの実証実験が最終年度を迎えた。産地のいちごを一元的に選果するパッキングセンターで、深刻化する人手不足と労働負担の解消を図る。

2024年度に予定されている市販化を前に、開発現場のJA阿蘇(熊本県阿蘇市)を訪ねた。


増えるパッキングセンター


選果は、冬場には暖房機器を足元に使いながらの作業となる
阿蘇のカルデラに広がる田園の一角にぽつんと建っているJA阿蘇の中部営農センター内にある「パッキングセンター」では、いちごの選果と調製の作業が盛況だった。足元に暖房器具を置いて作業をしている女性たちからは、東南アジアのいずれかの国の言葉かと思われる会話が聞こえてくる。

案内してくれた農研機構・九州沖縄農業研究センターの暖地畑作物野菜研究領域・施設野菜グループのグループ長補佐である曽根一純さんによると、カンボジアやベトナムの外国人技能実習生が中心になって働いているそうだ。

全国のいちごの産地では、選果とパック詰めの作業を農家が個別にこなしてきた。ただ、その負担は大きく、高齢の農家ほど離農する大きな理由になる。概していちごは需要があるものの、生産量が減っている要因の一つがここにある。

こうした事態を防ぐため、特にJAが主導して各地で整備を進めているのが、選果やパック詰めなどの作業を担う「パッキングセンター」である。農家は、いちごを詰めたコンテナを持ってくるだけでいい。あとは、パッキングセンターの従業員が選果から調製までをこなす。

農研機構の調査によると、九州におけるパッキングセンターの数は2018年には35だったのが、2022年には45にまで増えた。曽根さんは「農家からの需要が高まっている証拠」と語る。


運営上の大きな不安要素


ただ、その運営は大きな不安要素を抱えている。曽根さんが再び説明する。

「問題は、作業をする人手の不足が深刻化していること。そもそも選果もパック詰めも熟練の作業が必要なうえ、寒いなかを立ったままでするのできつい。それもあって、農家が作ったいちごを全量受け付けることができないところがほとんど」

「おそらく全国でも唯一例外的」(曽根さん)に、JA阿蘇では全量を受け付けている。それができるのは、同JAの中部営農センターが周年雇用体制を築き、必要な人員をそろえているからだ。すなわち、同センターでは6月から11月まではトマトを、12月から6月まではいちごの作業を用意している。

ほかの産地のパッキングセンターはいちご専用の施設。だから、通年で人を雇えず、いちごの収穫のピークに合わせた雇用体制が築けない。

とはいえ、地域における高齢化と人口減が進むなか、JA阿蘇も人手を確保していくことには不安を抱いている。


選果時の損傷対策を徹底


そこで、農研機構や秋田県立大学、JA阿蘇らが共同で開発をしているのが、選果するロボットだ。農水省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」に基づいて実施している研究である。

改良を重ねた結果、今年度実証しているのは、細長い筒状のロボットを搭載した選果機だ。

いちごを選果するロボット
このロボットが持っている主な運動機能は上下と横の移動、回転の3つ。先端部分では、特殊なセンサーを使って果実の位置を特定し、空気圧を使ってそれを吸着する。

主な仕組みは次のとおりだ。コンテナを載せたレーンを真ん中にして、その左右に空の容器を載せた3つのレーンが並んでいる。ロボットはこの上に設置されている。

それぞれのレーンの容器に入れる1粒当たりの重量はあらかじめ設定しておく。するとロボットは、コンテナに載った果実を1粒ずつ吸着すると同時に重量を計測。回転して向きを整えながら、左右の移動によって適切な容器に移し替えるということを繰り返す。

ロボットはセンサーでいちごの位置を把握する
開発者である秋田県立大学生物資源科学部の准教授(農業機械学)・山本聡史さんによると、もっともこだわったのは、ロボットの先端部分だという。

「もっとも腐心したのは、いかにいちごを傷めないようにするかでした。蛇腹を採用するなどしたことで、大きい力でとらえなくても確実にハンドリングできるようになっています。この技術の肝ですね」

容器には、包装資材メーカー・大石産業(福岡県北九州市)が開発した「ゆりかーご」を採用している。鶏卵の容器のようにいちごを1粒ずつ入れられるほか、衝撃を吸収する構造になっている。ロボットはいちごを置くのではなく、少し上空から離すため、衝撃を吸収する構造を持つ容器が欠かせない。

当初の構想では、選果からパック詰めまでの一切をロボットに任せるつもりでいた。だが、それは技術的に難しかった。ロボットには、人がやるようにすべての果実を同じ方向にしてパックに隙間(すきま)なく詰めるということができないという。

このため、選果機に代行させるのは、重量に応じて果実を選別して「ゆりかーご」に詰める「粗選果」だけ。粗選果した果実の傷の有無などを確認して、パック詰めする作業は、従来どおり人がこなす。

ロボットで「粗選果」をすることで、その後の人による選果の作業時間は3割減らせた。

ロボットを搭載した選果機は1台1500万円程度になると見込んでいる。この金額は、導入によって削れる人件費と償却期間などを踏まえて算出した。また、選果機はキャスターを付けて移動できるようにする。

曽根さんは「将来的には、非破壊で果実の糖度や損傷具合を把握できるセンサーも搭載できるようにするつもり」と話している。

本実証課題は、農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト(課題番号:施H06、実証課題名:促成イチゴ栽培における圃場内環境および作物生育情報を活用した局所適時環境調節技術による省エネ多収安定生産と自動選別・パック詰めロボットを活用した調製作業の省力化による次世代型経営体系の実証)」の支援により実施されています。

スマート農業実証プロジェクト 施H06 JA阿蘇いちご部会委託部(熊本県阿蘇市)
https://www.naro.go.jp/smart-nogyo/subject/shisetsu_engei/131295.html
JA阿蘇
http://www.jaaso.or.jp/

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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