SDGsモデル事業の核は地域住民の対話と農業 【SDGs未来都市・壱岐市のスマート農業 第2回】

「誰一人取り残さない」17の目標

長崎県壱岐市郷ノ浦地区にある市役所を訪ねると、庁舎には「祝 SDGs未来都市選定」と書かれた横断幕が、誇らしげに掲げられていました。そもそも壱岐市が目指す「SDGs」とは何なのでしょう?

壱岐市役所に掲げられた「SDGs未来都市」選定を祝う横断幕

SDGsとは、「Sustainable Development GOALs(持続可能な開発目標)」の略。

「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のための17の国際目標で、2015年9月の国連サミットで、全会一致で採択されました。以来、2030年までこれらを実現するために、世界中でさまざまな取り組みが始まっています。

「一人も取り残さない」社会をつくるため、SDGsで掲げられた全世界で取り組む17の目標

「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」など、今人類が抱えている根源的な17の課題解決に向けた目標で、先進国を含むすべての国が取り組み、「経済・社会・環境」の課題に統合的に取り組むことが特徴です。

壱岐市SDGs未来課の澤田員儀さんによれば、「最近は投資家が出資する際、経営状態や営業実績だけでなく、その企業がどれだけ積極的にSDGsに取り組んでいるかも評価の対象になっています」とのこと。なので先進的な企業は、すでに日本でも取り組み始めています。

壱岐市が全国10カ所の「自治体SDGsモデル事業」に

一方内閣府は、「持続可能なまちづくり」を目指して、「SDGs未来都市」を選定しました。その初年度に当たる2018年には、全体で5億3000万円の予算が投じられ、29の市町村が選ばれています。そのひとつが壱岐市。離島として最初に認定を受けた自治体となります(2019年度は新たに31市町村を選定。鹿児島県徳之島が加わっている)。

さらに内閣府は、初年度に選定した29自治体の中から先導的な取り組みを行っている地域として「自治体SDGsモデル事業」10地域を選定。北海道ニセコ町や神奈川県鎌倉市、福岡県北九州市等と並んで、その中に壱岐市も含まれています。

2018年に29、2019年には31の自治体が選定されている(出典:内閣府地方創生推進事務局 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/teian/sdgs_sentei.html)

では、玄界灘に浮かぶ離島が、真っ先にこの10地域に選ばれたのは、なぜでしょう?


住民の対話から生まれる島の未来

現在壱岐市の人口は2万7000人。このまま少子高齢化が進むと2030年には、2万1000人に減少すると推計されています。

「これから人口が減っていくのは止めようがないので、それをいかに食い止めるか。島に残りたいと思える、または一度出て行っても帰って来られる場所にしていきたいと考えています」(澤田さん)

歯止めの効かない人口流出に危機感を募らせていた壱岐市の白川博一市長は、岩手県遠野市で富士ゼロックス株式会社が進めていた「対話会」が、まちづくりに果たした重要性に着目。2015年から同社の協力を得て、「壱岐(イキ)なみらいプロジェクト」を始めました。

これは同社が研究しているマサチューセッツ工科大学(MIT)の最新のコミュニケーション理論を活用した、地域コミュニティ活性化のための取り組み。そのひとつとして、若者から高齢者まで世代を超えた市民が集まって、地域の課題や未来のビジョンを語り合う「みらい創り対話会」が始まりました。島内には2つの高校があるので、10代の高校生も参加。若者ならではの斬新なアイデアも飛び出し、対話会全体を盛り上げました。

そうして対話を重ねる中で生まれたのが、空き家を活用した「壱岐テレワークセンター」。国特別史跡「原の辻遺跡」内の倉庫をリニューアルして作られました。全体の3分の2が企業の研修やサテライトオフィス用の施設、3分の1が市民のためのコミュニティスペースになっている、とても心地のよい空間です。

住民の対話の中から生まれた壱岐テレワークセンター

さらに島外から訪れるテレワークセンターの利用者向けに、木造平屋の短期間滞在者向けシェアハウスを設置。6畳の個室が8つあり、開放的な土間空間が共有スペースになっています。

短期滞在型の利用者に向けて、木造のシェアハウスも設置している

住民と対話を重ね、そこから生まれたアイデアを具現化して、地域を元気にしていく──こうした取り組みと実績があったからこそ、壱岐市は真っ先に「SDGsモデル事業」に選ばれたのです。


「未来都市・壱岐市」の鍵は農業にあり

ところで、人口減少への危機感は、離島特有のものだと思っていませんか?

以下は日本全国の人口の長期的推移。2010年の1億2800万人をピークに減少の一途をたどり、2100年には約半分の6485万人! なんと今後100年間で明治期後半の水準で戻っていくと推計されています。

100年後、日本の人口はピーク時の半分、明治後期と同じになる可能性も

こんなことは、日本の歴史始まって以来。極めて急激な減少といわれています。日本はいったいどうなってしまうのでしょう?

SDGsの目標である「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会。もはやすべての自治体のあらゆる住民が、本気で目指さなければいけない時代に突入しているのです。全国に先駆けてその先進的な取り組みを始めている壱岐市から、私たちが学ぶことは多いはずです。

SDGs未来都市への選定を機に、壱岐市は新たに「SDGs未来都市計画 壱岐活き対話型社会『壱岐(粋)なSociety5.0』」を策定し、計画を進めています。その内容は社会、経済、社会、環境等、広範囲に渡っていますが、今、最も期待が持たれているのが農業なのです。

壱岐島は離島でありながら、山が少なく平地に恵まれ、「長崎県で2番目に広い深江田原(ふかえたばる)平野」が広がっていて、昔から稲作や畜産、漁業がさかんな島でもあります。住民の21%が1次産業に従事していて、全体の13%を農業が占めています。2015年の農業産出額は約63億円。肉用牛、米、アスパラガスが基幹作物です。

とはいえ、生産者の高齢化や担い手不足などの課題も山積。これを克服する新たな切り札としてIoTやAI等の先進技術を取り入れ、新たなシステムを構築しています。そして、数ある壱岐の農産物の中でも、真っ先に実用化を目指しているのが、あの許斐さんたちが栽培しているアスパラガスなのです。

壱岐市の農業部門のSDGsの取り組みは、アスパラガス栽培のスマート農業から始まっている


壱岐の島 このみ農園のアスパラガス
壱岐市 SDGs未来課
SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について - 地方創生推進事務局(2018年度)

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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