「インタークロッピング」の今と未来【スイス在住・川上悠太の研究者コラム】

スイスの大学の博士課程で植物育種学・バイオテクノロジーを研究している川上悠太氏によるコラム。第3回では、複数の作物種を同時に同じ圃場で栽培する農法「インタークロッピング」を取り上げ、その注目されるメカニズムと欠点、今後の発展についてご紹介します。


はじめに

読者のみなさまは「畑」という言葉を聞いたときに、どのような光景をイメージされるでしょうか。

SMART AGRIを読まれている多くの方は、麦やトウモロコシ、キャベツなどの作物が一面に、一様に広がる光景をイメージされるのではないでしょうか(筆者もこのような光景をイメージします)。

しかし、このような典型的な「畑」のイメージとは少し異なり、2種類以上の作物種を畑に同時に植える「インタークロッピング」という農法が、(少なくとも筆者の周囲では細々と)注目を集めているように感じます。

そこで、この記事では、まずインタークロッピングとはどのような農法なのかということにふれ、次に、なぜインタークロッピングが注目されるのかとそのメカニズムを説明します。最後に、インタークロッピングの欠点と今後の発展の可能性を議論したいと思います。

インタークロッピングとは?


冒頭でふれた通り、インタークロッピングとは、複数の作物種を、同時に、同じ圃場で栽培する農法です(※1,2)。インタークロッピングにはさまざまなタイプがあり、異なる作物種を完全に混植するタイプ(混作)、異なる作物を列状に互い違いに植えるタイプ(間作)、そして、ある作物種の作期の途中に、異なる作物種の栽培を同じ圃場で開始するリレー方式のインタークロッピングなどがあります。

インタークロッピングの歴史は古く、アメリカ大陸では古代からトウモロコシ・マメ・カボチャのインタークロッピングを行っていたとされています(※2,3)。また今日でも、ラテンアメリカやアフリカの各地では、インタークロッピングによる作物栽培は珍しくありません(※1)。

例えば、アフリカにおけるササゲ(マメの一種)の栽培や、南米コロンビアでのマメの栽培では、90%以上がインタークロッピングによる栽培だとされています(※1)。一方、いわゆる先進国での「現代農業」では1種類の作物種のみを栽培する「モノカルチャー」が中心的な役割を占め、インタークロッピングによる作物栽培はあまり行われていません(※2)。

なぜインタークロッピングが注目されているのか

現代農業において活用例が少ないインタークロッピングが、研究者たちに最近注目されているのは、インタークロッピングをうまく行えば、単収(単位面積あたりの作物収量)の高い、生産性の高い農業が実現できる可能性があるため(※4)。インタークロッピングが単収の向上に貢献するメカニズムとして、以下が挙げられています(※1,2,4)。

・日照の有効利用
作物種によって葉の形状や植物体の高さが異なるため、形状や高さの異なる作物種をうまく組み合わせて栽培すると、互いの受光・光合成を妨げることなく、圃場に降り注ぐ日光を分け合うため、複数の作物種が共存できる。また、圃場全体での作物の受光・光合成効率が向上するため、雑草が成長しづらくなる。

・水や土壌栄養の有効利用
葉と同様、根の形状や深さも作物の種類によって異なるため、それぞれの植物種が違う位置・深さにある土壌中の水や栄養にアクセスできる。そのため、圃場全体として土壌からの水・栄養吸収効率が向上する。

・作物種同士の「助け合い」
作物の中には、ほかの作物にメリットをもたらす作物もある。代表例としては、マメ科の植物は窒素固定菌との共生を通して、ほかの作物により多くの窒素栄養をもたらしうる。また、中国の高pH土壌においては、単作では鉄欠乏に陥りがちなピーナッツが、トウモロコシとのインタークロッピングにより鉄欠乏が軽減されることが知られている(※5)。これはトウモロコシがピーナッツの鉄吸収を助ける物質を根から放出するためだと考えられている(※6)。

・病気が広がりにくい
インタークロッピングでは同じ作物種同士の密接が、モノカルチャーより軽減されるため、植物の病気が圃場で一気に広がる可能性が低減される。

インタークロッピングの欠点は?今後の発展の可能性は?

上記のような利点がインタークロッピングにあるにも関わらず、インタークロッピングが現代農業であまり活用されない最大の理由は、機械化が難しいためです(※4)。

異なる作物種の植え付けや収穫を効率的に行える機械は普及していません。また、肥料や農薬の散布は圃場に一様に行うことができるモノカルチャーと比べると複雑になります。そのため、現状ではインタークロッピングを大規模に行うと非常に労働集約的な農業となってしまいます。

また、インタークロッピングに適した作物の組み合わせ方は、経験則に依存する分難しく、組み合わせ次第では収量向上につながらなかったり、逆に収量の低下につながってしまうこともありえます。

こうした現状を踏まえつつも、筆者は今後、農業のスマート化がさらに進むにしたがって、よりきめ細かな圃場管理が可能になり、インタークロッピングが広まる可能性があると考えています。

たとえば、ドローンを活用して圃場の一部にピンポイントで農薬を散布する技術、あるいは、特定の作物だけを認識して収穫するロボット技術などが今後発展・普及した場合、インタークロッピングされた圃場の管理において機械が果たせる役割も拡大するはず。その結果、効率的な植え付けや収穫というインタークロッピング導入の最大のボトルネックが解消され、導入が広がる可能性があります。

また、相性の良い作物の組み合わせがデータとして蓄積されることで、精度高く適切な作物の組み合わせが見つかり、インタークロッピングの普及につながる可能性もあります。

さいごに


植物工場やドローンを使った農業など、農業の「姿」は刻々と進化しているように感じます。そう遠くない将来、「『畑』をイメージしてみてください」という問いを再び投げかけたときに、インタークロッピングやドローン、ロボットがいる光景を当たり前にイメージする方々が増えるかもしれない(増えたらいいな)、という思いでこの記事を書かせていただきました。


※1. Brooker, R. W. et al. Improving intercropping: A synthesis of research in agronomy, plant physiology and ecology. New Phytol. 206, 107–117 (2015).
※2. Bybee-Finley, K. A. & Ryan, M. R. Advancing intercropping research and practices in industrialized agricultural landscapes. Agric. 8, (2018).
※3. Postma, J. A. & Lynch, J. P. Complementarity in root architecture for nutrient uptake in ancient maize/bean and maize/bean/squash polycultures. Ann. Bot. 110, 521–534 (2012).
※4. Lithourgidis, A. S., Dordas, C. A., Damalas, C. A. & Vlachostergios, D. N. Annual intercrops: An alternative pathway for sustainable agriculture. Aust. J. Crop Sci. 5, 396–410 (2011).
※5. Zuo, Y. & Zhang, F. Iron and zinc biofortification strategies in dicot plants by intercropping with gramineous species: A review. Sustain. Agric. 29, 571–582 (2009).
※6. Xiong, H. et al. Molecular evidence for phytosiderophore-induced improvement of iron nutrition of peanut intercropped with maize in calcareous soil. Plant, Cell Environ. 36, 1888–1902 (2013).
【連載】バイオ研究者・川上悠太の海外農業研究事情
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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