「第13回農業WEEK」で見つけた注目農業ソリューション【前編】

第13回農業WEEKが、2023年10月11~13日の3日間、千葉県の幕張メッセで開催された。国内最大級の農業関連展示会だ。今回新たに、これまでの国際農業資材EXPO、国際6次化EXPO、国際スマート農業EXPO、国産畜産資材EXPOに、「農業 脱炭素・SDGs EXPO」が加わった。

そんな農業WEEK展示物のなかから、編集部の注目ブース&アイテムを紹介していきたい。前編となる本稿では、ソフトウェア・サービスを紹介して行こう。


農業アプリが新たな次元へ 農業生産者と団体を繋ぐサービス「あい作」


今回の農業WEEKでは、農業アプリの展示が減っていたように感じる。有象無象の開発社が農業アプリに参入した時代は終わり「栽培管理」「圃場管理」「労務管理」などについて、優れた特徴を持つサービスが生き残っている印象がある。

一方で近年、新たな動きが見えてきた。それが、農業生産者とJAなどの団体とを繋ぐサービスの登場だ。農業生産者向けのアプリ提供社のうちの数社が、徐々に提供を始めている。

農業生産者が蓄えたデータを団体がスムーズに利用できるようにすることで、農業生産者と団体の労働効率を高めたり、情報交換のためのコミュニケーションツールとして機能する。ここで紹介するのはNTTデータが提供するサービス『あい作』


農業生産者とJA等の団体とを繋ぐことで、生産者や産地全体の業務改革を実現するプラットフォームである。そもそもの開発経緯が興味深い。説明してくださったのはNTTデータ食農ビジネス推進部食農ビジネス担当課長の西崎昌宏さんだ。


「弊社はJAバンク向けのシステムを提供していることから、JAが抱える課題を共有していました。その最たる例が、栽培管理の効率化です。栽培履歴のペーパーレスでの運用は、農業生産者だけでなく、多くのJAが求めるもの。また、データドリブンな農業経営を実現することも課題としてあげられます。

また、農業生産者さんなら一度は疑問に思ったことがあると思いますが、資材の受発注が今でも紙ベースで行われています。さらに、産地全体の強化を見据えて『出荷予測を行いたい』という要望もいただいています。それらを解決すべく開発したのが『あい作』です」

『あい作』は農業生産者向けアプリの派生サービスではなく、JA側が抱えていた課題を解決すべく、顧客起点で開発されたサービスである。2018年には「栽培管理ソリューション」が、そして2020年に「資材受注ソリューション」と「出荷予測ソリューション」の提供を開始した。


「すでにユーザー数は100を越えています。537あるJAの30%にお使いいただくのが現在の目標です。ユーザーが増えるに従って、日々サービスをブラッシュアップしていますから、使いやすさが上がっているはずです。丁寧な導入サポートとアフターサポート、それと初期費用がない定額制なので導入障壁が低い点も評価されています。将来的には、決済まで連携させたいですね」と語ってくれた。

確かに決済までデータ連携できれば、飛躍的に利便性が高まる。『あい作』のような農業生産者と団体とを繋ぐサービスの普及は、日本農業が抱える課題解決に寄与してくれるはずだ。

株式会社NTTデータ(あい作)
https://aisaku.nd-agri.jp/


人手&機械不足と急場しのぎに対応オペレーター付き農機シェアサービス「運転手付き 新農機シェアリング」


続いてご紹介するのは、ユアサ商事の展示物。ユアサ商事が京都にて創業したのは、なんと今から350年以上も前の1666年! 以降、江戸、大阪に店舗を開き、脈々と事業を成長させてきた、複合専門商社グループである。


そんなユアサ商事が展示していたサービスが『運転手付き 新農機シェアリング』。運転手とはオペレーターのことであり、農機はコンバインを示す。農業生産者が必要としたタイミングで、コンバイン+オペレーターを提供する。

「ご存知のとおり、水稲では経営の集約化が進み、それにともない人手不足が深刻化しています。農業生産者さんも多様な品種を作付することで収穫期をずらすなどの対策はしていますが、収穫は天候にも左右されるのでどうしても急いで収穫したい、というニーズは発生します。


また、農地の増加に合わせて農機を増やすのは、農機は極めて高価ですから負担が大きい。悩まれている大規模生産者さんは少なくないのです。

弊社は中古建機・農機のオークションを主催しているのですが、その事業を通じて建機はシェアリングの割合が70%なのに、農機は個人所有が多いままである、という気付きがありました。将来的に、農機もシェアされる時代が来るのではないか、とも考えられる。そこで始めたのが『運転手付き 新農機シェアリング』です。」

利用者に提供されるコンバインはヤンマーの「YH6115」。最新の高性能機であり、これを全国に5台配置して、注文が入るとそれを現地に配送、オペレーターを手配する。利用料金は、農機レンタル料が1万4300円/10aでオペレーター費用が1万4300円。そのほか納品費用と引き渡し費用、洗車費用が掛かる。なかなかに高価ではあるが、新車のコンバインの価格を考慮すると納得せざるを得ない。しかし失礼ながら、この金額でサービスを提供して、儲かるのだろうか。

「鋭い質問ですね(笑)。そこは運用次第です。“台風が近づくから大至急刈りたい”といった切実な需要が突発的に入るのが、このサービスの特徴です。だからと言ってコンバインは高価ですから、弊社も新車を何十台と所有することはできません。サービス開始当初は、季節が進むにつれて南から北へと移動させることを考えましたが、最近は、特に需要が多い地域である関東にコンバインを集めて、効率的に運用しています。


シェアしていただくコンバインが故障するわけにはいきませんから、弊社で新車を購入して提供しているのですが、3年ほど使ったら弊社主催のオークションで販売して現金化します。そして新しい機械に買い替える。こうすることで常に最新のコンバインを提供しつつ、経営への負担を下げる体制を確立しています」

複合専門商社らしい運用手法により、この『運転手付き 新農機シェアリング』が成立していた。水稲経営においては、今後も農地の集約化が進むはず。オペレーターのあるなしに関わらず、農機シェアリングは今後増えて行くことが予想される。第一選択とはならずとも、農業生産者の身近にあって必要なタイミングで使える、そんなサービスに成長するのではないだろうか。

ユアサ商事株式会社
https://www.yuasa.co.jp/


生産者と研究者を自治体がつないで次世代の農業へ 「いしかわスマートアグリプラットフォーム」


今回はいくつかの自治体もブースを構えていたが、その中でもスマート農業の普及と発展に積極的な姿勢を見せていたのが石川県だ。


石川県のスマート農業の取り組みとしては、過去に稲作のブルドーザーによる乾田直播ドローン直播などの技術の研究に民間企業とともに取り組んできた事例をご紹介したが、それらの取り組みを通して、農業者やJA・市町の方々がまだまだスマート農業がどんなもので、どのように自分たちの農作業に役立てられるのかといったところが周知されていないと感じていたという。

そこで、公益財団法人いしかわ農業総合支援機構の中に、「いしかわスマートアグリプラットフォーム」を設立。ターゲットは現場で困っている農業者・JA・市町と、スマート農業技術を開発・普及させたい企業・大学の両者だ。プラットフォーム事務局が中心となって、スマート農業について「知る」「繋がる」「試す」「拡がる」という4つのキーワードでさまざまな催しを展開する。

農業者などにとっては、製品・サービスなどを実演会などを通して効率的に比較・検討したり、研修会などに参加したり、マッチングにより会員企業や大学などと技術実証に携わることができる。

一方企業などは、農業者のニーズ(産地課題)を知り、製品やサービスの技術実証を行う機会ができるほか、プラットフォーム自体を情報発信ツールとして活用できるという。

プラットフォームへの年会費・入会費などは無料で、農業者などは石川県内からだが、企業・大学は全国から参加が可能とのこと。マッチングから技術の定着までをワンストップで行う窓口としての機能は、石川県がこれまで実施してきたオプティムやクボタなどの企業との実績からもわかるとおり。個人の農家と企業・大学では限界があるスマート農業技術の開発・普及に向けて、自治体によるマッチングの事例が全国で求められていくだろう。

いしかわスマートアグリプラットフォーム
https://ishikawasmartagripf.com/


リンゴの木1本の価値を可視化することで見えること「NAGANOスマート農業プロジェクト」


SMART AGRIでも以前ご紹介した長野市の事例で取材した株式会社ラポーザが、長野県農業センターなどと共同で農業Weekに出展していた。目玉として置かれていたのは、AIとカメラを組み合わせてリンゴを自動収穫するロボットで、来場者の注目を集めてはいたものの、展示の本質は必ずしもそこではなかった。


ラポーザでは、リンゴの木1本が生み出す利益を視覚化し、1本あたりどれくらいの収益が上がったかを地図上にマッピング。これにより、多収多売により利益を上げている木もあれば、年数を経たために甘さなどがやや劣ったものなども明確化される。ただし、いいリンゴをつける木=利益が高いと言えるわけでもない。数量がなる木なら加工用リンゴとして活用したり、品質がいい木なら食用として使うなど、それぞれに使い分けることができる。大切なのは視覚化することで生産者が把握し、活用方法を工夫できることだ。

例えば、都会の料亭などでオーナーになってもらっている木なら、生育状況を伝えたり、その年の実の状況によっては生食だけでなくデザートに加工するなど活用方法もいろいろ考えられる。重視しているのは、それぞれに活用できる方法を考えることでロスなく食すこと。落ちてしまったリンゴも活用して、虫除けなどの自然農薬として使うこともできる。


スマート農業という言葉には「稼げる農業」「儲かる農業」という言葉も近く、収量や食味の向上、労力の軽減といった実効性が求められることも多い。しかし、ラポーザの事例のように、リンゴの多様な活用方法とその成果を見える化することで、次の収穫時、その次の収穫時に、どのような手法で利益を得られるかを考える指標にもなる。

同時に、あらゆる無駄を廃すことはSDGsなどの環境に配慮した農業にも自然とつながってくる。リンゴのような果樹と穀物や野菜では取り組みも異なるが、それぞれの分野でどんなスマート農業技術を組み合わせて実践するのかを考えるためのモデルケースとして学べることが多そうだ。


圃場の過去・現在・未来を把握して栽培に生かす「ザルビオ フィールドマネージャー」


今回の会場でひときわ目立っていたのが、BASFジャパン株式会社が展開している衛星画像とAIを活用した「ザルビオ フィールドマネージャー」だ。国内では新潟県の米どころとして名高い、JAにいがた岩船での導入事例について伺った。


「ザルビオ」でできるのは、過去から撮影された衛星画像とAI分析により、自分の圃場の地力マップ・生育マップで圃場の状況を確認すること。加入しているのは個人の農家だが、閲覧権限をJAの営農指導員などに付与することで、生育状況などを把握して適切な施肥や水管理などを行えるようになる。

さらに、これらのマップデータはほとんどの大手農機メーカーのスマート農機で扱えるデータとして出力可能なため、手持ちのスマート農機を使って適切な施用が行えるという。


農家にとってなにより便利なのは、生育マップなどの生成のためにいちいちドローンなどで撮影する必要がないこと。「ザルビオ」が過去から現在まで衛星で撮影し続けている圃場の衛星データが参照できるため、サービスに加入した瞬間から圃場の状態が把握できる。


また、JAにいがた岩船のように地域の生産者の指導側にとっては、育成に時間がかかる上に高齢化などでどんどん減っている営農指導員不足を補うために、この「ザルビオ」によるデータは非常に有効とのこと。営農指導の効率化が図れるのと同時に、これまでの指導では難しかった確かなデータによる説得力のある指導も可能になるとして歓迎されている。

「ザルビオ」としては今後、田植え機、ブロードキャスター、ドローンといった可変施肥対応機器との連携をさらに拡大し、地力マップを地域の担い手農家に配布して施肥設計などに活用したり、散布のみを請け負うドローン業者などにも利用させるといった取り組みも進めているという。

ドローンやセンシングによりさまざまなデータが取得可能になったものの、ひとりの農家で活用するには初期コストもかかりすぎることも多かった。「ザルビオ」のようにデータがそろっているサービスを利用することで、そうした導入障壁が大幅に低くなり、スマート農業の普及がより加速しそうな雰囲気だ。

なお、利用料は圃場の広さや対応作物に応じて異なり、2haまでの水稲、大豆、麦(小麦・大麦)の初級者向けプランであれば年間1万3200円からとなっている。


播種から防除まで、水稲栽培を効率化・省力化「ドローン打込み条播サービス」と「ピンポイントタイム散布」


農薬などを極力使用せず、しかも省力化して水稲を栽培できる「スマート米」でおなじみのオプティムは、今年発表されて話題となった「ストライプ・シード・シューター・テクノロジー」のドローンを展示し、その効果をアピールしていた。


米づくりの省力化策としては、海外のような上空からの散播による直播の方法もあるにはある。しかし、オプティムはドローン直播でも条を形成することにこだわり、専用ドローンを開発して研究を重ねてきた。

条の形成は単なる見た目だけでなく、コンバインによる収穫時の効率がいいことや、適切な空間を確保することで、生育初期の雑草の状況を把握しやすいといったメリットも多数ある。会場では、2023年(令和5年)の新潟県と青森県での条播の様子も展示。なにより多くの米農家がこれまで育苗と田植機により培ってきた米づくりとまったく同じ方法論で、経験と勘も生かせる。


技術的な裏付けもあっての条形成ではあるが、生産者のこだわりや長年の経験をそのまま生かせるという意味で、生産者の感性や経験も大切にすることは、実はスマート農業技術を普及させる上で大きな意義があるのではないだろうか。実際の生育にも好影響というデータが出ており、今後本格的にドローン直播を進める上で、熟練の生産者が抵抗なく導入するために必須の機能になっていくかもしれない。



ドローン打込条播サービス
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/sowing
ピンポイントタイム散布
https://www.optim.co.jp/agriculture/services/pts


取材:川島礼二郎、SMART AGRI編集部(武井英貴)
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
パックごはん定期便