中山間地の稲作に本当に必要とされているスマート農業とは?【生産者目線でスマート農業を考える 第25回】

日本農業サポート研究所の福田浩一です。

稲作のスマート農業というと、自動運転トラクター・コンバインなど高投資な機械化に偏りがちな印象があります。日本が自国で食料をまかなう観点から言えば、大規模産地や大規模農業法人のスマート農業化は急務であり、優先度も高いでしょう。

しかし、日本の農業を支えているのは大規模生産者だけではありません。中山間地農業の今後(10年後、20年後)を考えると、農業者の高齢化、担い手減少により、遊休地は確実に増加するなかで、新たな担い手が草刈り機やドローンの作業委託を含め、スマート農業をフルに使って農地を維持しなければなりません。

これまで生産者目線で多数の生産者や自治体、企業などにお話をうかがってきましたが、中山間地こそスマート農業などによる課題解決が必要とされていると感じています。

今回は、そんな中山間地の水田作で、広島県が独自で行っている「ひろしま型スマート農業推進事業」(愛称:ひろしまseedbox)の実証事例として、安芸高田市の株式会社ハラダファーム本多の取り組みをご紹介します。

今回の事例:広島県安芸高田市の中山間地の稲作に役立つスマート農業ソリューション


安芸高田市は広島市より北に車で1時間くらいのところに位置しています。実証を行っているハラダファーム本多は、中山間地にしては44ha(酒米22ha、うるち米22ha)とかなり大きな経営規模です。

ただし、1枚30a以下、中には10aほどの圃場もあるため、自動運転トラクターなどを導入せず、通常のトラクターを使っています。また、コンバインも通常のコンバインです。可変施肥田植機のみが以前からあったスマート農機で、それ以外は、普通の農機です。

令和4年度から3年間の広島県の実証試験(インテグレーター:大信産業株式会社)として、水位センサーやドローンなどを導入し、スマート化の可能性を探ることにしています。

今回はその中でも、中山間地で特に求められていると思われる水位センサー、ラジコン草刈り機、衛星画像システムなどの使用感を語っていただきました。

株式会社ハラダファーム本多の本多正樹さん(写真提供:本多正樹さん)

(1)ため池と水田の水管理のための遠隔水位センサー


広島県内はため池が多いことで知られていますが、中山間地のため池水田の水管理の実証をしています。ため池と棚田の両方に、水位センサーの「水田ファーモ」を設置しています。実証とは別に、自動給水ゲートも備えています。

本多さんは「水位センサーについては、入水の配管設備が整っている50a~1haくらいの田んぼであれば、『水田ファーモ』の組み合わせが非常に効率的だと思います。ただし、10a、20aくらいだと効果は確認できても費用負担の方が多くなるのではないかと心配しています」と話します。

ため池での水位センサー利用(水面からの高さを計測、筆者撮影)
棚田での水位センサー設置(筆者撮影)

自動給水ゲート(筆者撮影)

(2)斜面の畦畔で安全に使える自動草刈り機


生産者の高齢化と人手不足が進む中山間地では、急峻な畦畔の草刈りも大きな課題です。そこで、ハラダファーム本多で草刈機の実演を行いました。これらは実際に導入したわけではなく、実演でその効果を検証しています。

ひとつは、ハスクバーナ・ゼノア株式会社の「親子式草刈機」(8月末実証)というもので、子機だけが離れて草を刈っていきます。かなり傾斜の急な畦畔のため、ラジコン草刈り機は転んでしまう危険性もあるため、この親子式草刈機を試したそうです。

ただ、メーカーの説明によると、どうしても刈り残しは出るので、もう1台ラジコン草刈機が必要になるという課題はあるとのことでした。また、親機を設置するには畦畔の上の部分に1mほど余裕が必要なようです。

親子式傾斜地草刈機(出典:ゼノアホームページ)
また、ドイツのアグリア社製ラジコン草刈り機「AGRIA9600」のデモも行いました(11月実証)。こちらは手動で操作を行いますが、ある程度の斜面でも利用可能でした。


AGRIA9600(出典:AGRIAホームページ)

本多さんは、「親子式の草刈り機は、“個別で所有するよりは”ため池や河川等の地域の共有して、『中山間直接支払制度』や多面的機能等の利用で地域購入の方が、私がいる中山間地域では現実的かもしれません。高齢化に伴い人口の自然減で共用部分の草刈り等に人が少なくなってきているためです。

ラジコン草刈り機に関しては、平野であれば非常に効率的な機械だと思います。中山間地域によっては畦の角度が急なため、使用範囲が限られてくるのが現状です。現在、一部ですが圃場の再整備に合わせて中山間地域でも使えるように畦の方を直す予定ですので、実際使えるところが増えればかなりの負担減につながる」と説明されていました。


(3)「Sagri」の衛星画像診断


昨今の化学肥料の高騰から、効率的な肥料の施用が求められるなか、AIによる画像診断で土壌特性を明らかにし、施肥の改善に生かす試みも行われています。

今回の実証では、衛生画像診断サービスの「Sagri」を実証しました。

「Sagri」による画像診断のイメージ(出典:サグリホームページ)

衛星を利用するためドローンのように生産者が操作や監視をする必要がなく、土壌特性を調べることで窒素の濃淡などがわかるので、施肥の改善につなげることが期待できます。

ただ、自分の圃場の窒素濃度などが分かったとしても、問題はいかに肥料を節約して必要とされる場所にだけ使用するか、になります。本多さんは、「肥料分におけるところでは、実際と照らし合わせて、濃い薄いのところを施肥機と連動させ、だいたい均一に肥料分が行き渡るように可変施肥をしてくれれば実用的になると思います」と、必要な場所だけに自動で施肥してくれる可変施肥技術との連携に期待しています。


(番外編)可変施肥田植機(自費購入)による減肥の実現


今回の実証の内容とは別になりますが、本多さんは自費で購入した井関農機の直進アシスト機能付き可変施肥田植機も利用しています。こちらは田植機を走らせながら土壌の特性を調査し、それに応じて施肥を行いながら田植をするものです。自費購入したということもありますが、本多さんはこれが現在最も現実的で、効果があるスマート農機だとおっしゃっています。

「直進アシスト機能があるので、まっすぐに田植えできるし、疲れないです。また、可変施肥により収量の増加も実感しています」とその成果を高く評価しています。

以前、三重県の中山間地農業の記事でも紹介しましたが、確かに可変施肥田植機は生産者の評価は高いという結果でした。中でも直進アシスト付き田植機は、通常の田植機より1割ほど高価と言われていますが、コストパフォーマンスは高いようです。こういうものが、いま現場には急速に導入されています。

可変施肥田植機(写真提供:本多正樹さん)

未来を見据えた上で役立つスマート農業に取り組もう


今回の一連の実証実験の中で、本多さんが感じたのは以下のようなことでした。

  • 可変施肥田植機は有効。減肥に貢献。「みどりの食料システム戦略」にも合致
  • ラジコン草刈り機は、レンタル利用やシェアリングなら、人手不足・安全面で有効
  • 水位センサーは10a~20aの圃場では過剰投資にならないか心配
  • 衛星によるセンシングは、その後の対策(ドローンで肥料散布するのかなど)が課題

本多さんは、「中山間地での農業は農地の維持、地域農業の持続性を重視しています。圃場の1枚1枚も平場より狭いので、過剰投資は避けなければなりません。実証試験のなかでコストパフォーマンスを見極めて、効率的かつ効果的な農業実践のためにスマート農業を活用していきたいです。導入価格と実際の一反あたりの売上と人件費(実労働)の削減、つまり損益分岐点の見極めが重要になります」と語っています。

今回紹介したスマート農機やサービスはあくまで実証段階のものであり、これからの可能性を秘めたものばかりです。私たち農業関係者も生産者も、これらの結果から有効なものを学んでいく必要があります。

生産者目線で本当に有効なスマート農業技術が、広島県だけでなく日本中に普及し、課題先進地と言われてる中山間地の維持・発展につながることを期待したいです。

【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 加藤拓
    加藤拓
    筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士課程を修了。在学時、火山噴火後に徐々に森が形成されていくにつれて土壌がどうやってできてくるのかについて研究し、修了後は茨城県農業総合センター農業研究所、帯広畜産大学での研究を経て、神戸大学、東京農業大学へ。農業を行う上で土壌をいかに科学的根拠に基づいて持続的に利用できるかに関心を持って研究を行っている。
  4. 大槻万須美
    大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  5. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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