ロボットが常時稼働する理想のスマートリンゴ園の構築は可能か?【生産者目線でスマート農業を考える 第23回】


日本農業サポート研究所の福田浩一です。

今回は、長野県長野市にあるリンゴ園の整備をはじめ、果樹のスマート化のためにロボットを導入するなど、中山間地でスマート農業の最適化に取り組んでいる長野市の事例を取り上げます。

この事例では、国のスマート農業実証プロジェクトで使われているスマート農業技術や、今後使う可能性のある技術を使って農業関係などコンサル事業を行う株式会社ラポーザの独自のプロジェクトとして進めています。

「ロボットなどスマート農業を導入することで中山間地の農業を変えたい」と株式会社ラポーザの代表取締役社長の荒井克人さん。自身のリンゴ・ブドウ農園(ポムルージュファーム)を所有し、その農園で荒井さんが技術顧問を務める株式会社イーエムアイ・ラボ開発のロボットなどを使った実証試験を行い、他の生産者に提案することを目指しています。

「中山間地の農業は離農などが多く 、危機的状況にあります。スマート農業など新しい技術を導入した農業のモデルを作り、それを普及させていくことによって持続可能な中山間地農業を確立したいのです」とその意気込みを語ってくれました。


ラポーザの事業概要


まず案内されたのは、長野県長野市にある2021年秋に竣工した真新しいオフィスでした。窓の多い明るい事務所で、そこに若いスタッフが働いています。そして目前には、約3haのリンゴとブドウの圃場が広がっています。



ラポーザ本社(R&E DXセンター)とオフィスの前に広がる圃場と長野市街地



荒井さんによると、長野県内においてドローン等の取り組みをいち早く行っていたのだそうです。生物多様性保全事業部の職員は、各分野に特化した専門知識を持ち合わせているとのことでした。

ラポーザとしての売り上げは本業のコンサルタント事業で数億円に達しています。もちろん、荒井さんをはじめ一部のスタッフは農作業にも従事しています。リンゴ販売の売り上げは圃場整備の影響もあり、約1000万円程度になりますが、ラポーザは別途資金を投入し、生産者目線で独自にスマート農業の実証試験に取り組んでいます。


今回の事例:長野県でのロボットなどを活用したリンゴのスマート果樹園の実証実験


今、荒井さんが事業で力を入れているのは、スマート農業を取り入れた持続的な経営モデルを構築することです。イーエムアイ・ラボでは、プロトタイプのドローンをはじめ、水上艇、走行車両などの無人ロボットを研究・開発・販売しています。 筆者は以前「果樹用ロボットで生産者に寄り添うスマート農機ベンチャー」でイーエムアイ・ラボのロボットを取り上げています。

「実際の圃場で実証できていないロボットをお客様に販売することはできない」との信念のもと、中山間地などでも経営的に成り立つロボット等を導入した「スマート果樹園」の実証試験を2021年から本格化させています。

実証試験の柱は主に以下の通りです。
  • ロボットが作業しやすい仕立方を導入した圃場の整備
  • 草刈りロボット、農薬散布・運搬・収穫・選果ロボットなど運用試験
  • 「ほじょうコネクト」などソフトウエアを導入した圃場での作業の見える化
  • 単木単位による売上高・生産量(等級単位)の見える化
  • 病害虫・有害鳥獣の発生・被害状況などの環境調査
  • トヨタの生産方式を導入した収穫作業などの効率化


単木単位による売上高(2021年)

ロボット・スマート農機を効率よく動かすための圃場整備

圃場に入ると真っ先に目に飛び込んできたのは、綺麗に整理されたリンゴ園でした。2021~2022年に圃場の2割に当たるリンゴの樹を伐採し、新植したそうです。また、2019年には隣接する耕作放棄地を取得し、シャインマスカット、ナガノパープルを中心に垣根仕立ての栽培をスタートしています。

「長期的に中山間地の農園の維持を考えた場合、労働力の確保が一番のネックになります。それを解決するには、慣行農業を残しつつもスマート農業を導入しやすい農園に変えていくことも必要となります。そのため、昨年度の収穫量は約3割減しましたが、生産性の高い圃場の整備を進めることができました」と荒井さん。

ロボットが作業しやすいように2021年整備されたリンゴ園

自動草刈りロボットなどの運用

荒井さんのお話を聞いている時も、樹の下を自動草刈機が除草していました。地下に自動草刈機の行動範囲を制限するワイヤーを埋め込んで制御しているそうです。自動草刈機は4時間除草し、充電も自動で行います。

「除草は雑草がある程度の大きさにならないうちに常に刈っていることが重要」(荒井さん)。樹の下は近隣の圃場と比べ綺麗で、芝生が張ってあるのではないかと思うほどでした。イーエムアイ・ラボでは現在、ワイヤーロープに頼らない自律草刈りロボットの開発を進めており、今年度中にこの圃場にてプロトタイプの試験を始める予定だそうです。

スウェーデン・ハスクバーナ社のオートモア(ロボット草刈機)

温度・湿度・地温などを測定する気象ロボットも園内に設置。気象ロボットはその精度などを比較するため、別メーカーのものをあえて2種類設定しています。また、圃場内には10か所の土壌成分機器なども常設しており、傾斜地における土壌成分の状況も把握しています。

気象ロボット(比較のために2種類設置されている)

「ほじょうコネクト」などソフトウエアを導入した圃場での作業の見える化


「ほじょうコネクト(イーエムアイ・ラボ製)」とはロボット草刈機をはじめ、農薬散布ロボット、運搬ロボットなどロボットの稼働状況などを複数台一括に管理することが可能なソフトウェアのこと。この圃場ではラポ―ザの本社内のモニターで状況を確認することができます(携帯のアプリでも可能)。

園内の各所に設置しているQRコードをスマホで読み込むと、ソフトウエアの「ほじょうコネクト」の入力画面が立ち上がります。「ほじょうコネクト」は作業した内容を記入し、圃場を管理できるアプリなので、QRコードを読み込むことで、作業するスタッフが変わってもどこまで何が行われているかすぐに理解できます。また、自分の作業もその場で簡単に入力することができます。

農薬散布・運搬・収穫・選果ロボットなどの運用試験も行っています。園内にWi-Fiが完備しており、圃場地図上の指定されたルートをGPSによって自動で走行。農薬を散布します。

自動農薬散布機 。ブドウの列の前にQRコードが表示され、作業した箇所を簡単に記録・把握できる


左からイーエムアイ・ラボの技術担当の竹内永さん、酒井貴之さんとラポ―ザ代表の荒井克人さん

トヨタ方式による作業の効率化

リンゴの選果などの作業はトヨタのコンサルティングを受けています。生産性を上げる「トヨタ方式」と呼ばれ、自動車の生産だけでなく他の分野でも応用されています。作業者の動線を重視し、作業者の無駄な動きを徹底的に排除します。

スタッフが行っている作業の最適な動線などを検討するため、農作業の様子をビデオで撮影。その様子を一緒に見ることで作業の無駄な部分、省力化できる作業などを助言されるそうです。

リンゴの選果機

課題はスマート化するためのコスト


この実証試験を通じた課題は以下の通りです。

(1)圃場整備などのコスト
スマート農機を導入するには、それが可能な圃場に作り変える必要があります。私が2012年頃訪問したタイのチェンマイ県のミカン園は、機械が運航可能なように設計されていました。そのような合理的な考え方が必要です。ただし、問題になるのは圃場整理のための費用で、小規模の農園では資金的余裕がないため、公的補助は必須になると思います。

(2)多くのロボット導入でペイするか
さらに、この圃場のように無人ロボットを導入する場合、常にコストパフォーマンスが問題になります。ラポーザの圃場は約3haありますが「草刈りロボット」「農薬散布ロボット」「運搬ロボット」などすべて導入することになると、黒字になる経営にするには難しいかもしれません。


スマート果樹園の早期普及のカギは「シェアリング」


そこで、有効な方法となるのがスマート農機のシェアリングです。リンゴなど果樹栽培は、農薬散布や収穫などの時期が他の農家と重なる場合が多いのが現状です。

これを解決するには、標高差のある農園同士でのスマート農機のシェアリングが有効な方法になります。荒井さんは、この標高差による栽培・収穫時期のズレを利用した農薬散布ロボットや収穫ロボットなどのシェアリングが、中山間地で荒廃していく園地を食い止めるために必須と考えています。

ラポーザから車で10分ほど離れた場所にある標高の高い園地

小区画のリンゴの圃場は、今回案内された長野市を中心に各地に分散しています。荒井さんによると、中山間地では特に小規模の農家が多いそうです。このような農家は高齢化と人手不足に悩まされていますが、その解決手段として個別に高価なスマート農機を所有することは困難です。

小規模農家がスマート農機導入コストを下げるには、前述のとおりスマート農機のシェアリングが欠かせません。さらに、このシェアリングサービスを実現するためには、それを実施する組織が必要と思われます。

今後、ラポーザはさらに実証試験を行い、園地のリンゴ園をすべて「スマート果樹園」に変える予定だそうです。また、中山間地など地域でのシェアリングサービスの計画も進めているそうです。今後のラポーザの動きに注目したいです。



株式会社ラポーザ
http://raposa.jp/
株式会社イーエムアイ・ラボ
https://emi-lab.jp/
【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。