進化する穀粒判別器等による農産物検査【特集・農業の構造改革「農産物検査」の現状と未来 第3回】

第2回では「農産物検査規格・米穀の取引に関する検討会」のとりまとめをもとに、農産物検査見直しの具体的な内容を見てきた。

今回は、穀粒判別器を使った検査の実際や、現在開発が進むAI画像解析等による次世代穀粒判別器について取り上げる。


目視検査の補助器として開発された穀粒判別器

近年、着色粒や割れ米などの被害粒の混入の割合を測定し、米の外観品質を評価することができる「穀粒判別器」の開発が進んできている。

穀粒判別器が初めて発売されたのは1984年(昭和59年)。製作したのは株式会社ケツト科学研究所で、光学識別方式を用いた先進性には大きな注目が集まった。

米麦等の農産物検査が民営化されると、2003年(平成15年)に株式会社サタケと静岡精機株式会社も独自の機器を発売。この頃の機器は農産物検査員が目視で検査する際の補助器として開発されていた。当時から測定項目としては、着色粒、死米、胴割粒、砕粒などが測定できていたものの、胴割粒を除くとメーカー間のばらつきが少なくなかったようである。

その後、穀粒判別器の仕様が決められ、電気水分計と同様の精度管理が規定されると、この仕様に合わせる形で改良が進んだ。その結果、新型の穀粒判別器では測定精度も向上し、着色粒、死米、胴割粒、砕粒など各測定項目について、メーカー間のばらつきも小さくなってきている。

さらに、農産物検査の一部項目(死米、着色粒、胴割粒、砕粒)について穀粒判別器による機械鑑定が可能となったことを受けて、機器メーカーでは機械鑑定用の仕様に合わせた新機種を投入。2021年9月現在、農水省により穀粒判別器として仕様確認された機器は、株式会社サタケのほか、株式会社ケツト科学研究所と静岡精機株式会社を入れて3社・5機種となっている。

サタケも穀粒判別器の機種をグレードアップした
各社の旧型の機種は3400台ほど普及したようであるが、新型は、2020(令和2)年度末時点で890台ほどが普及されているという。その価格については、旧型が60〜200万円程度だったが、新型では導入しやすさも考えて60〜90万円程度と全体的に安くなってきている。


穀粒判別器を使った測定でわかること

では、穀粒判器による鑑定とは実際にどのように行われ、何が判別できるのだろうか。株式会社サタケが農産物検査の仕様確認を受けた新機種(RGQI100型)を例に見てみよう(当サイトの窪田新之助氏による記事「穀粒判器とは何か(前編後編)」では、株式会社ケツト科学研究所の穀粒判別器を利用する農業法人と精米・卸業者のインタビューを取り上げている)。

本機での測定にあたっての操作は極めて簡単である。測定原料を機械の投入口に投入して、測定ボタンを押すだけ。そうすると、玄米の米粒を表・裏・側面の3方向から、次の5パターンで撮影してくれる。

表面は上から光を当てた反射像を撮影するほか、下から光を当てて透過した影像と斜めから光を当てて透過した影像の3パターンも撮影する。さらに裏面と側面からは、全体に光を当てた映像を撮影する。

操作は測定原料を機械の投入口に投入して、測定ボタンを押すだけ(農林水産省HPより)

穀粒の画像分析(農林水産省HPより)
これにより、裏表両面の着色部分を正確に判別でき、カメムシ被害などで着色部が裏面にしかないような場合でも測定が可能になるという。また、厚みも測定できる。

測定結果は機器の上面にあるカラー液晶タッチパネルに表示され、内蔵プリンターで印刷ができるほか、USBメモリにデータを出力することもできる。また、液晶画面では1粒ごとに画像の確認ができ、分類による絞り込みや撮像パターンの切り替えなども可能だという。

こうした出力データは機器本体に画像データ300件、判別情報としては1万件まで保存可能なメモリー容量がある。保存されたデータはUSBメモリやパソコンで出力もできるので、自分でデータをカスタマイズしての利用も可能だ。また、測定データはタブレットやスマートフォンでもWi-Fi接続によって閲覧することもできるという。

なお、この穀粒判別器で測定が可能な項目であるが、農産物検査規格で検査項目に挙げられている着色粒、死米、胴割粒、砕粒のほか、白未熟粒も測定可能だ。そのほかの情報として、1粒ごとに長さや幅、厚み、縦横比、面積、体積(推定)、白度も測定できる。

一方で、測定が難しい項目もある。多種多様な特性を持った玄米が存在するため、整粒やそのほかの未熟粒、さらに異種穀粒や多種多様な異物(種子、茎、モミ、土、石など)も、すべてを異物として測定することは難しいという。このあたりは引き続き目視に頼ることになると思われる。


穀粒判別器の検査データ活用の可能性

このようにして測定できた検査データは、今後どのように活用していけるのか。

より幅広い分野での活用を図っていくにあたって必要な前提として、まず個々の穀粒判別器の検査データがクラウド上に集約され、そのクラウドサービスに接続することで、さまざまなデータが利用できるようなネットワーク環境が構築される必要がある。

それにより、例えば生産者であれば、イネの栽培情報と刈り取り後の原料玄米(もみすり後の原料)の品質情報をもとに、翌年以降、米の品質向上に取り組む際にこれらの情報を役立てることができるだろう。

また、精米・卸業者にとっては、検査による品質データをクラウド上に集積することで、調整後の製品玄米の品質情報が自動的に取得できるようになる。

逆に、生産者または出荷業者は製品玄米の品質情報をフィードバックしてもらうことで、原料玄米の品質情報と照らし合わせて、狙った品質の原料玄米の提供が可能になるだろう。

実際、それをすでに実践している例がある。茨城県五霞町で70haもの米づくりに取り組む農業生産法人有限会社シャリー(代表・鈴木一男さん)である(詳しくは、当サイト記事「農業法人で穀粒判別器を導入した理由 〜新型は政府備蓄米で利あり」参照)。

農業生産法人有限会社シャリーのホームページより
同社では、ほぼすべてを中食・外食関連事業者130カ所ほど(首都圏の給食センターや大学の学食、病院など)に直接販売している。登録検査機関に認定されている同社では、10年ほど前から穀粒判別器を利用しているが、目視による検査の補助器として等級決定に役立てるほか、要望に応じて定期的に精米品質データを顧客に送っている。

それだけではなく、それぞれの事業者に納品する製品をつくるのに検査データを生かしている。同社では一つの農家や集荷業者の米だけで製品にすることはなく、それらをブレンドして通年で品質の均一性を保っている。したがって、それぞれの原料玄米の検査データや品質管理データに基づいて、どの農家や集荷業者の米をどれくらいの割合で混ぜるのがよいのかというブレンドメニューをつくり、それに基づいて製品玄米をつくり、販売しているのだ。


AI画像解析等による次世代穀粒判別器の開発へ

こうした農業データ同士を連携させ、生産・流通の効率化や農家の所得増大につなげていく試みは、2017年(平成29年)年8月に国(内閣府、農林水産省など)の音頭取りで設立された「農業データ連携基盤協議会」(設立時209社参加)によって加速している。

同協議会では「スマートフードチェーン」の構築(2023年4月を目標に設定)に向けて、2019年(平成31年)年4月から農研機構を運営母体に、農業データ基盤「WAGRI」の本格稼働を開始している。

こうした動きを背景に、とりわけ水稲の生産分野(生産)では、ドローンによるセンシングや自動水管理システム、営農管理システム、収量コンバインなどを通じて生産・収穫に関わるデータの蓄積が進みつつある。

今後は、こうした動きがさらに強化され、流通・食品製造・輸出振興などの分野と強力に連携し、生産(川上)から流通・加工(川中)、販売・消費(川下)に至るデータの相互利用が可能な「スマートフードチェーン」が構築されていくことが期待されている。

データを活用した農業の将来像(農林水産省技術政策室「農業データ連携基盤について」より)
農林水産省(農林水産技術会議)では、2020年(令和2年)産米から農産物検査に穀粒判別器が活用されたことを受けて、2021年(令和3年)度から現場ニーズ対応型研究として、AI画像解析等による次世代穀粒判別器の開発に関する研究を推進している。

この研究では、穀粒判別器で測定した数値や画像などの検査データなどをビッグデータとしてデータベース化して活用し、精米歩留まりや被害粒(着色粒、胴割粒等)、未熟粒などを数値で精緻に示すことができる次世代穀粒判別器を、2025年(令和7)年度までに開発するとしている。

今後は、こうした次世代穀粒判別器の測定値などのデータを活用し、産地や生産者ごとの米の特徴を生かし、実需者や消費者のニーズに応じた米の取引が、従来の農産物検査による米の流通と並行して推進されていくことになるだろう。

第4回は、「農産物検査規格の見直しは何を目指すのか? 」と題して、今回の見直しをめぐる関係者・関係業界の評価や反応をみながら、今後見直しを受けて進められる米分野での「スマートフードチェーン」構築に向けた動き(2021年8月3日設立の「スマート・オコメ・チェーンコンソーシアム」によるJAS規格制度制定に向けた動きなど)を追う。

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。