有機栽培に農薬が使われている!?「有機JASマーク」の盲点をしっかり知ろう

あなたは農産物の「オーガニック」という言葉の定義、詳しく知っていますか?
「有機栽培」でも農薬が使われていることがあると聞いて、驚く方もいらっしゃるかもしれません。

今回は、日本で「オーガニック」や「有機」ということばがどのように定められて使われているのか、その実情についてお伝えしていきます。


野菜やお米などの農産物を買うときに目にする「オーガニック」という言葉。特に、マルシェや自然食品店、素材にこだわるレストランなどで使われている「オーガニック」には、ナチュラルでヘルシーな印象を感じますね。

英単語の“organic”の意味を辞書で引くと、「有機的な」「有機肥料を用いた」「化学肥料を用いないで育てた」[1] などの意味が出てきます。ならば、「オーガニック」は、化学肥料を使わずに有機肥料を使う「有機栽培」で作られた野菜やお米に対して使われる言葉……と、言いたいところではありますが、実際はもう少し複雑です。


「オーガニック」の使用条件は法律で決められている


日本では、化学肥料を使わず有機肥料で育てた農産物であれば何でも「オーガニック」と呼べるわけではなく、その言葉の使用には条件があります。

「オーガニック」や「有機」といった言葉をパッケージや商品説明などに使用できるのは、【農林物資の規格化等に関する法律(JAS法)】に基づき農林水産大臣が制定した【日本農林規格(JAS規格)】の中の【有機食品のJAS規格(有機JAS規格)】に適合すると認証をうけた事業者によって【有機JASマーク】を貼付されたもの [2] だけです。

簡単に言うと、【有機JASマーク】付きのものだけが「オーガニック」や「有機」という言葉を使っていい農産物。
反対に、【有機JASマーク】が付いていないものは、たとえ化学肥料を一切使用せずに育ったものであっても「オーガニック」や「有機」という言葉を使うことはできません。

4つの有機JAS規格


有機JASマークは、【有機JAS規格】と呼ばれる格付けに適合したもののみが表示できる印です。

【有機JAS規格】には、4つの有機食品(有機農産物、有機加工食品、有機飼料、有機畜産物)に関する規格が定められていますが、ここでは【有機農産物の日本農林規格(有機農産物JAS規格)】に絞って見ていきましょう。

有機農産物は「自然に優しい」農産物


まずは「有機農産物」の定義です。【有機農産物JAS規格】では、こう書かれています。

“有機農産物は、次のいずれかに従い生産することとする。農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力(きのこ類の生産にあっては農林産物に由来する生産力、スプラウト類の生産にあっては種子に由来する生産力を含む。)を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産すること。採取場(自生している農産物を採取する場所をいう。以下同じ。)において、採取場の生態系の維持に支障を生じない方法により採取すること。
引用元:有機農産物の日本農林規格[PDF]

化学合成農薬や化学肥料を使わないところは「オーガニック」のイメージ通りですが、ここでのポイントは、なぜそのような生産方法をとるのか、というところです。

【有機農産物JAS規格】には、「農業の自然循環機能の維持増進を図るため」「農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を」と書かれています。つまり、「自然に優しい農法」としての有機栽培の基準を定めたものといえます。

したがって、有機JASマークは、「環境へ与える負荷の少ない農法で育てられた農産物」であることを消費者に示すための印です。これは、消費者が「オーガニック」に対して持つイメージとは、多少異なっているように思います。


多くの消費者は「オーガニック」を健康と結びつけているが......


2018年に行われた農林水産省のアンケート調査 [3] によると、有機食品のイメージについて、回答者の86.0%が「安全である」、79.5%が「健康によい」と答えています。

“購入している有機食品のイメージについて、週1回以上有機食品を利用すると回答した者に聞いたところ、「安全である」(86.0%)、「価格が高い」(82.8%)、「健康によい」(79.5%)、「理念に共鳴できる」(65.8%)、「環境に負荷をかけていない」(62.5%)、「残留農薬などの心配がないので皮をむかなくても食べられる」(60.0%)、「総合的に満足している」(57.9%)の順に多かった。
引用元:平成 29 年度 有機食品マーケットに関する調査結果[PDF]

しかし、有機農産物JAS規格の中には、人体への安全性や健康への効果などは一切書かれていません。「オーガニック=健康」というイメージは、あくまでつくられたイメージということができます。


オーガニックの3つの「あるある」


このように、「オーガニック」という言葉の扱い方には複雑な事情があります。有機農産物に対して消費者が持つイメージと、実際の生産現場には乖離があり、生産者や流通関係者の中にはそのジレンマを抱えながら仕事をしている人もいることと思います。


消費者が知識をつけることは必要だとはいえ、有機農産物JAS規格は、多少農業の経験がある人でさえ、難解に感じる内容だと思います。上記の「人体への安全性を保証するための制度では無い」という点のほかにも、有機農産物には消費者のイメージとは異なる実態があります。

そこで、農産物販売の現場で働いてきた筆者が実際に経験した消費者とのやりとりから、オーガニックの「あるある」を整理してみようと思います。

あるある1:「有機肥料は体に優しくて、化学肥料は危険でしょ?」


ひとつめの「あるある」は、肥料の成り立ちによって人体への安全性に違いがあるのではないか、というイメージです。結論からいうと、これは間違いです。

肥料の主な目的は、窒素・リン酸・カリウムという、植物が大量に必要とする無機物を土の中に補給して作物に吸収させることです。その役割は、有機肥料も化学肥料(化成肥料)も同じです。

では、なぜ「化学肥料は危険」というイメージがあるのでしょうか。

化学肥料の危険性が話題になり始めたのは、20世紀半ば頃。化学肥料を過剰に与えた畑から、作物が吸いきれなかった肥料分が流出して地下水を汚染し、その地下水が家畜や人間の健康に悪影響を及ぼす公害が欧米で起きました。化学肥料由来の「硝酸態窒素」を含む水で作ったミルクを飲んだ乳児が窒息状態になり、死亡することもあったといいます。

その事例から、確かに化学肥料は使い方を間違えると危険なものだと言えます。しかし、それと作物自体に含まれる化学肥料由来の物質とは切り分けて考えるべきです。

肥料由来の無機物は、それが有機肥料由来でも化学肥料由来でも、作物に吸収された後には同じように使われます。問題は、少量では何の問題も起こさない成分が、肥料を過剰に与えた結果、植物体内に過剰に蓄積されることにあります。

化学肥料であっても適切な使用の範囲では安全といえるでしょうし、有機肥料であっても不適切に使用すれば危険となる可能性が無いとはいえないのです。

あるある2:「オーガニックだから無農薬でしょ?」


オーガニックなら無農薬、というイメージも、間違いです。そもそも、有機JAS規格では、一部の農薬の使用が認められています。

もちろん、化学合成農薬の使用は禁止されています。農薬を使わずに害虫や病気などを防ぐためには、品種選びや栽培時期を工夫したり、物理的に作物を覆ったり、害虫などが嫌う植物を周りに植えたり、虫が付いてしまったら手でとったり、などの地道な手段があります。

しかし、それらの方法で対処しきれない場合もあります。放っておくと重大な損害となってしまうような時、有機農産物JAS規格では、天然物や、天然物由来の一部の農薬に限り、使用することが許されています。

使用して良いとされる農薬は、【有機JAS規格 別表2】に書かれています。除虫菊から抽出した天然の殺虫剤や、害虫の天敵生物、生石灰や食酢など、私たちの生活の中にある身近な資材の名前も見つかります。天然物であっても農薬取締法に基づく「農薬」であることには違いなく、それらを使用すれば、「無農薬」はもちろん「農薬不使用」ともいえないのです。

あるある3:「認証マークなくても、有機は有機でしょ?」


最後の「あるある」は……難しいですね。

有機JAS認証を取得せずに、有機JASに準ずる生産方法で栽培をしている生産者は存在します。

筆者が実際にそのような方とお会いしたとき、会話の中で「なぜ認証をとらないのですか?」という質問をしたことがあります。その答えは人それぞれですが、多いのは「認証をとるのは時間的にも金銭的にも負担が大きい」という理由です。

有機JASの認証を取得するための申請書類は数十ページにも及びます。認証は畑ごとに申請するため栽培管理記録も畑ごとに必要ですし、過去2~3年に遡って記録が必要となります。

審査にかかる費用は手数料だけでなく、調査員の交通費や宿泊費などの旅費等も、申請した側が負担します。しかも、一度認証を取得すればそれで終わりではなく、有機JAS認証を継続する限りは、毎年これを続けなくてはなりません。

その大変さを想像すると、「あえて有機JAS認証を取らない」生産者の選択も尊重したい気持ちになります。

一方で、そのような「あえて認証を取らない」生産者の野菜を、理解のある消費者に届けることは簡単ではありません。なぜなら、一般流通では商品に「有機」「オーガニック」と表示して販売することができないからです。

「認証マークなくても、有機は有機でしょ?」という消費者が、間違っているとはいえません。むしろ、正しい知識の元にそう考えることのできる消費者がもっと増えてほしいとも思います。そのためには、市場流通だけでは限界があります。マルシェやネット直販など、消費者が生産者と直接話して買える手段が一般化することに期待します。


信頼できるオーガニック生産者と出会うために


「オーガニック」ということばを中心に、有機農産物JAS規格についてお話ししました。

有機農産物JAS規格は、環境に優しい農法としての有機農法の需要が高まった結果整備された農産物の格付けです。その基準は厳しく、たとえ基準を満たしていたとしても、認証を受けなければ、商品に「有機」「オーガニック」という表示をすることはできません。

そして、その厳しい認証の取得は、軽い気持ちでできるほど簡単なことではありません。有機JAS認証を取得している生産者の方々の努力には、本当に頭が下がります。

この記事を通して、正しい知識の元に自分に合った有機農産物を選べる消費者が1人でも増えてくれたらと思っています。

[1] organic とは 意味・読み方・表現 | Weblio英和辞書
[2] JAS協会_JAS制度とは
[2]有機食品の検査認証制度:農林水産省
[3] 平成 29 年度 有機食品マーケットに関する調査結果[PDF]


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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