アメリカにおける日本の野菜とオーガニック【海外コラム・よないつかさのシカゴ 食&農レポート 第4回】

こんにちは。シカゴ在住のよないつかさです。


今回は、「アメリカにおける日本野菜」について、地元のスーパーをもとに現地調査しました。

ここアメリカでは、意外なものが日本語と同じ名前で販売されていることをご存知ですか? 例えば「だいこん」「えだまめ」「豆腐」「しいたけ」「みそ」「もち」などがあります。

アメリカの野菜陳列



アメリカの野菜や果物の陳列は日本とは違い、ほとんどの野菜がパッキングされておらず、平積みとなっております。基本的には量り売りで、野菜を指定のビニール袋に入れ、その重さに応じて料金を支払います。アメリカの野菜も日本と同様に、多少の大小の差はあるものの、規格を守った野菜が販売されています。

野菜の売り方において衝撃だったことは3つあります。

1つは、量り売りバナナの場合、好きな分だけもぎって買ってよい点です。

最初にスーパーに来た時は、売られているバナナの本数がまちまちであることが気になりました。6本でちゃんと1房になっているもの、明らかにもぎ取られて2本になっているものなど、日本の陳列風景とは異なる光景がそこにありました。量り売りのため、自分の好きなバナナを好きな量購入することができるのです。


2つめは、日本で当たり前に売られている野菜のほとんどが、販売されていないことです。

例えば、小さいピーマン(パプリカならあり)、なす(かなり大きい米なすならあり)、長ねぎ、れんこん、さといもなど、挙げ始めたら止まらないほど、かなりの種類の野菜が私の住んでいる地域のスーパーには見当たりません。

日本では当たり前の野菜や食材がないため、息子の離乳食のレシピを日本語で検索してその通りに作ろうとすると、食材からつまずくことがたくさんあり、最初の頃は少し困りました。

その中でも、日本と同じ名前で売られている野菜や食材も、少ないながらもいくつかあります。

例えば、だいこん約454gで179円(1.29ドル。1ドル=138円換算。以下同)、しいたけ約454gで1455円(10.49ドル)、えだまめ約454gで318円(2.29ドル)、もちアイス(アメリカ企業アメリカ産)約210gで860円(6.19ドル)、豆腐などです。


豆腐は、アメリカ企業アメリカ産455gで276円(1.99ドル)、日本の森永乳業がアメリカで生産しているものが349gで276円(1.99ドル)。森永のものとアメリカ企業のものでは値段は同じですが、アメリカ産の方が量が106g多いです。



3つめは、オーガニック野菜が充実していることです。

普通のスーパーにも必ずオーガニック野菜のコーナーがあり、値段もそこまで変わらないため、かなり一般的です。冷凍野菜にもオーガニックと非オーガニックの選択肢があります。

オーガニックと非オーガニックの価格比較(オーガニック/非オーガニック)
バナナ 454g 122円(0.89ドル) / 95円(0.69ドル)
ブラックベリー 170g 689円(4.99ドル) / 482円(3.49ドル)
ぶどう 454g 689円(4.99ドル) / 551円(3.99ドル)

ヴィーガン食材の豊富さ


さらに、スーパーにはたくさんのヴィーガン食の選択肢があります。ここアメリカでは豆腐はヴィーガン食として有名です。



大豆ミート(インポッシブルミート)から赤ちゃん用の粉ミルクまで、植物由来のものが普通に販売されています。


アメリカの野菜事情


なぜアメリカではこんなにもオーガニック野菜が一般的なのでしょうか。

1つには、アメリカの保険制度に起因する「健康意識の高さ」が挙げられるかもしれません。

アメリカでは医療保険は自分で入る必要があり、その保険プランによっては自己負担額が信じられない額になることもあります。日本は国民皆保険制度のおかげで、病院に対するハードルがかなり低いですよね。実際に私も日本に住んでいるときは風邪などでも病院に行っていました。

そのため、普段から健康を心がける人が日本よりも多い印象があり、その結果オーガニック食品の需要が高い可能性があります。なお、私も風邪やコロナに罹患した際は、極力市販薬を使い自宅にて療養しておりました。

参考までにアメリカで出産した私の場合、妊婦検診~出産費用(入院2日含む)を全額自己負担で払うと約1000万円ほどでしたが、妊娠~出産もカバーするプランに加入していたので、自己負担は50万円ほどでした。一方、日本では自治体のクーポン等や出産一時金を使わない場合でも、自己負担額は高くて100万円ほどだと思います。ここからも医療費の高さを実感します。

話は少し逸れましたが、健康的なイメージや農薬残留の心配がないオーガニック野菜の市場がアメリカで広がっているのは、少しでも医療費を抑えるために、普段から身体に気を遣いたいという心情が関係しているのかもしれません。

なお、OTA(米国オーガニック・トレード協会)によると、2022年のアメリカにおける野菜と果物の売上全体の約15%を有機野菜と有機果物が占めています。(※1)

ここでも、「人々は個人の健康や環境に配慮してオーガニック食品を購入している」と書かれていることから、アメリカでの意識の高さがうかがえます。

なぜ日本では普及しないのか


確かに、オーガニック先進国のアメリカと比較すると日本ではまだまだオーガニック食品は一般的ではありません。それは、ピザやハンバーガーなどに代表されるアメリカ食と比べて、日本食はそもそもの栄養バランスが良くカロリーも低いため、食生活を改めて意識するレベルにいない人がほとんどであることが考えられます。

このような社会的背景もあいまって日本はオーガニック後進国となっていますが、最近では健康や環境への配慮から、日本でも官民でオーガニックの普及が進められています。

例えば、農林水産省では「国産有機サポーターズ」という取り組みが行われています。また、首都圏を中心に展開するオーガニック専門店、ビオセボンでは、2021年からECサイトでの販売を開始したりと、オーガニック普及に向けポジティブに動き始めています。(※2)

アメリカの良さと日本の良さ


一消費者の観点から私が感じたことは、アメリカと日本にはそれぞれの良さがあるということです。

アメリカの良さは、「オーガニック野菜の豊富さ・手軽さ」「購入者が自分の必要な分だけ購入する量り売りのため、家庭内フードロスが少ない」「多様なニーズに応えるヴィーガン商品」。

日本の良さは、「数で値段を決めているためわかりやすい」「基本的に野菜などが個包装されているため衛生的」「お惣菜が豊富」。

私自身、日本に住んでいた頃はオーガニックをあまり意識する機会はありませんでしたが、アメリカに来てオーガニック製品と非オーガニック製品が横並びで陳列されているのを見て、「値段もそこまで変わらないし、子どもの食べるものくらいはオーガニックにしようかな」と、オーガニック製品を意識するようになりました。逆に言うと、オーガニック製品であるとうたえば、少し高くても売れてしまう状況にあります。

USDA認証オーガニック製品ではないものは、高く売りたいがために一部のみ有機栽培をしてオーガニックとうたっている可能性も考えられるので、注意が必要だと感じました。

また、栄養バランスがいいことと、農薬の影響があるということとは別の話です。農薬を使用していても栄養素は大きくは変わりませんし、健康的な食材でも残留農薬があればかえって不健康になってしまうかもしれません。

「多様性」が大きなテーマとなっている現代において、日本でもオーガニック野菜の選択肢を一般的にすることへの需要が高まっています。

オーガニック後進国と言われている日本ですが、農業における人手不足を次世代農業技術で解決し、消費者のニーズに応じて、オーガニック/非オーガニックを選択できるような未来が待ち遠しいと感じます。


※1 Organic food sales break through $60 billion in 2022 | OTA
https://ota.com/news/press-releases/22820
※2 農林水産省「有機農業をめぐる事情」 
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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