GAP取得を支援する農家発のシステム「MOG-GAP」──ミヤモトオレンジガーデン<後編>

愛媛県八幡浜市で温州ミカンなどの柑橘を栽培するミヤモトオレンジガーデンの宮本さんが農家の経営改善の切り札と考えるのは、農業生産の工程を管理するための認証の導入。関連する認証が国内外に数多く存在するなか、導入したのは世界で最も普及しているグローバルGAPだ。

宮本さんは、GAPの取得は「これからの農業界に必要なこと」と断言。より多くの農家が挑戦できるようにと後押しする。グローバルGAPを低コストかつ簡易に取得できるシステムを開発し、誰もが使えるよう普及を始めている。

後編では、同社が手がけたGAP取得支援システム「MOG-GAP」について紹介する。

■前編はこちら
家族経営を10人規模の法人経営に――ミヤモトオレンジガーデン<前編>
GAPを取れば、経営改善につながるだけでなく、販路の拡大にもなる。ミヤモトオレンジガーデンの場合、取得したことで複数の大手量販店に販路が拓けた

見える化、効率化にグローバルGAP

家族経営の延長ではない法人経営を目指した宮本さんは、就農後まもなく農業大学校の授業でGAP(農業生産管理工程)の存在を知った。GAPは「Good Agricultural Practices(適正な農業の実践)」の略。農作物の安全性や労働環境、環境についてのさまざまなチェック項目がある。

「自分たちの業務の見える化とか標準化とか、社内の体制を組織として強化するのに、こういうこと(農作物の安全性や労働環境、環境)のルールをまとめる必要があると思っていました」

さっそく、日本版のGAPであるJGAPの指導員になるべく、東京まで講習を受けに行き、GAPを知った数カ月後にはその資格を取った。その後、世界120カ国以上で使われているグロ―バルGAPの取得を目指すことにした。グローバルGAPが事実上の国際認証になっているのに加え、JGAPに比べて求める管理のレベルが高かったからだ。

200を超えるチェック項目に対し、どういう対策を講じるかを自分たちで考え、認証取得のための書類を作った。農業コンサルタントは入れず、準備は社内で進めた。書類は、数百枚の文書を綴じる厚さ5センチはあるファイルに4冊の量になった。2014年11月にグローバルGAPの審査を受け、2015年に柑橘類としては国内で初めて認証を取った。

こう聞くと、GAPについて勉強したことのある人の中には「ん?」と疑問に感じる向きも多いのではないか。グローバルGAPは取るのが難しく、審査費用のほかに、取得の準備に高額なコンサルティング費が数十万円以上はかかるとよく言われる。しかし……。

農家の集合知でGAP取得を支援

「コンサルタントが入らないとダメということはありません。よく準備が大変だと言われていますが、実際はそんなに大したことではありません。(求められるのは)どれも当たり前のことばかりです」

実際以上に難しいという話が広まっているというのだ。

「グローバルGAP自体、審査で落とそうとするものではなくて、審査員も一緒に農業を良くしていきましょうという考え方です」

当時の宮本さんたちは農業コンサルタント並みにグローバルGAPを理解していたわけではない。だが、自前で準備して審査を通った。分厚いファイルに4冊というのも、初めてのことで取得方法が分かっていなかったために、書類の内容の重複や、やりすぎの部分が多かった。

グローバルGAPの取得後、宮本さんはコンサルティング費用の高さに頭を悩ます農家の多さに気づいた。

「GAPは、コンサルタントの商売のためにあるものではなくて、農業界が経営を良くするためとか、農業する人たちや、消費者のためにあるものではないかと思っています。そして、『自分たちが取り組んできたやり方をシステム化できないか』と思いつきました」

農家が自力でGAPを取りたいと思ったときのための選択肢を提供したい。そんな思いから作り上げたのが、クラウド上でノウハウを共有する、農家発のコンサルティング機能を持ったGAP取得支援システム「MOG-GAPシステム」だ(「MOG」は「ミヤモトオレンジガーデン」の略)。

MOG-GAPシステムのホームページ

対象は、グローバルGAPとアジアGAPだ。後者は、JGAPを運用する日本GAP協会がアジア共通のGAPプラットフォームにしようと運用しているもの。この2つは、国際的にも通用しやすく販路が広がることに加え、要求される管理のレベルがJGAPよりも概して高い。

地元の高校や農業大学校がGAPの取得や更新のために利用しており、インターネットで情報を得るのが普通の世代には、ITと農家の集合知で経営を良くするというシステムがマッチしているのではないかと考えている。

業務日報とコンサルティング機能を兼備

「MOG-GAPシステム」には、作業や農薬・肥料の使用記録、勤怠管理ができる「業務日報」の機能がある。加えて、GAP取得に必要な書類のフォーマットが共有されていて、自分に合う形に改良できる。

日ごろの業務の管理から認証取得に至るまで、スマホやパソコンで操作すればよく、ペーパーレスになる。宮本さんはグローバルGAPの更新時(認証を維持するには毎年更新が必要)、このシステムを使ってデータをすべてクラウド上に置いた状態で、A3の紙2枚だけを準備し、審査員に説明をした。農業現場に負担がかからないよう、無駄を徹底的に省いた使いやすさが強みだ。

大手システム会社の栽培管理システムは高価なものが多い。リーズナブルな栽培管理システムと同じくらいの価格帯でGAP取得までできるのが「MOG-GAP」システムの特徴だ

ミヤモトオレンジガーデンを含む利用者間で情報を共有し、互いに解決を助けるというスタイルで、数十万円から場合によっては数百万円かかるコンサルティング費用をカット。初期登録料とシステム利用料(プレリリース期間中の今は年間6万円~消費税別)のみで使うことができる。

「システム内では、利用者の疑問を掲示板で共有しています。みんなが同じようなところでつまずくので、自分たちの場合はこうだった、というのを、共有しながら運用しています」

教育機関向けは無償で、愛媛県内の高校2校がシステムを使ってグローバルGAPを取った。一校は農業科を持ち、もう一校はもともと農業学校と普通高校が合併してできている。いずれも校内の農園での複数品種の柑橘栽培が対象で、国際的な広い視野を持つ担い手の育成、東京五輪への食材の提供などを掲げて認証を取った。

教員や生徒からは「紙媒体が必要ないので、かさばらないし、必要に応じてどこでも見ることができる」「農薬散布と防護服管理等、関連する項目の入力忘れ防止のメッセージがとてもありがたい」「過去の記録もすぐに取り出せて、非常に便利」といった感想が寄せられている。

農家、地域と連携して農業盛り上げ

このシステムの運用を本格的に始めたのは、昨年のこと。複数の農業法人から問い合わせを受けている。より多くの生産者にアプローチしたいと、9月にプレリリースを発表したばかりだ。

ユーザーが増えれば、団体でグローバルGAPを取得するグループ認証を目指す。この場合、グループ内に各経営体をチェックする人員を置くことで、全経営体がいちいち審査を受けなくても、代表のいくつかの経営体が審査を受ければ認証が取れる。一経営体ごとに認証を取るのに比べ、審査の費用が大幅に安くなると見込める。同一の品目でなくとも、グループ認証を受けることができるそうだ。

「システムを使っている高校、農業大学校に対しては、認証を取った後に地元の農家や農業法人がGAPに取り組む場合の支援をお願いしており、ご承諾を得ております」

GAPの取得を通じて、より多くの経営体が「適正な農業の実践」をできるようにしてほしいから。GAPで経営を良くしていくという目標を共有できるユーザーと、サービスを改善・拡張していくつもりだ。

<参考URL>
ミヤモトオレンジガーデン
MOG-GAPシステム

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WRITER LIST

  1. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  2. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  3. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  4. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  5. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。