バイオスティミュラント(BS剤)は本当に元が取れるのか? 効果とROIの確かめ方

「肥料は作物のごはん、農薬は病害虫から守る薬。では、最近よく聞くBS剤や、葉面散布に使う資材は、何のために使うのでしょうか?」

バイオスティミュラント(以下、BS)は、高温や乾燥などの環境ストレスへの耐性や、養分の吸収・利用効率の改善を目的とする新しい資材です。作物や土壌がもともと持つ働きを補助することから、いわば「植物のやる気スイッチを支える資材」と考えるとイメージしやすいでしょう。

一方、いくら収量や品質が改善しても、資材代や散布作業費を回収できるとは限りません。導入を判断するには、製品の効果だけでなく、実際に手元に残る金額が増えたかを確認する必要があります。

この記事では、BS剤と葉面散布の違いを整理し、製品を選ぶ際の確認点や、資材代を回収できたかをROI(Return On Investment。投資収益率)から判断する方法を解説します。



BS剤の正体|植物専用の「サプリメント」


農林水産省が2025年5月に策定した「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」では、BSについて「農作物または土壌に施すことで、農作物やその周囲の土壌がもともと持つ機能を補助する資材」と定義しています。また、効果や使用方法の表示、根拠情報、安全性について、事業者が確認すべき事項を示しています。

BSは、それ自体に含まれる栄養成分とは別に、次のような働きを改善し、結果として品質や収量の向上につなげることを目的としています。

  1. 土壌中の養分の吸収性
  2. 作物による養分の取り込み・利用効率
  3. 乾燥、高温、塩害などの非生物的ストレスへの耐性

肥料を作物に養分を与える「食事」に例えるなら、BS剤は作物や土壌が持つ働きを補助する「サプリメント」に近い資材です。

ただし、BS剤は肥料の代わりになるわけではありません

資材主な役割
肥料 農作物に必要な栄養成分を供給する
農薬 病害虫や雑草の防除、農作物の生理機能の増進・抑制などに使う
BS 養分の吸収・利用効率や、非生物的ストレスへの耐性を改善する

BS剤のなかには、高温や乾燥による品質・収量の低下を抑える目的で使われる製品があります。対象作物、使用量、使用時期、使用回数、効果が出やすい条件などは製品ごとに異なるため、購入前に確認する必要があります。

なお、BSは独立した法的な登録区分ではありません。原材料や用途によって肥料や農薬などに該当する場合は、それぞれの法令に基づく登録、届出、表示が必要です。


葉面散布の正体|根っこがバテた時の「点滴」


液体にした肥料やBS製品などは、作物の葉に散布する「葉面散布」という方法で使われることがあります。

土壌へ施す肥料を「普段の食事」とするなら、葉面散布は葉から成分を補う「点滴」に近いイメージです。

農林水産省が掲載する微量要素欠乏対策では、鉄、マンガン、ホウ素、モリブデンなどの欠乏症が発生した場合に、応急的な措置として葉面散布を行う例が示されています。土壌pHや土壌水分の変化によって、養分が作物に利用されにくくなる場合があるためです。

ただし、葉面散布は施肥や土壌管理に代わる方法ではありません。散布濃度によっては作物に障害が生じる可能性もあるため、製品の表示や対象作物ごとの使用基準に従う必要があります。

また、葉面散布による効果は、製品、作物、散布時期、気象条件などによって異なります。「収穫前に散布すれば糖度が上がる」「色つやや秀品率が改善する」と、葉面散布全般に共通する効果として考えることはできません。

自分の作物に近い条件で行われた試験があるか、収量や品質にどのような差が示されているかを見て判断することが重要です。


バイオスティミュラントのROIシミュレーション


BS剤の採算は、導入によって増えた販売収入から、製品代や追加作業費を差し引いて判断します。

追加費用には、BS製品の代金だけでなく、散布にかかった人件費、燃料・機械使用費、増収によって増えた収穫・選別・包装・出荷費なども含めます。

導入後に残った金額
=使用区と無使用区の販売収入の差-追加費用

ROI(%)
=導入後に残った金額÷追加費用×100

例えば、BS剤の導入に1万円かかり、使用区の販売収入が無使用区より3万円増えた場合は、次のようになります。

導入後に残った金額 2万円
=3万円-1万円

ROI 200%
=2万円÷1万円×100

この場合、投入した1万円を回収したうえで、さらに2万円が手元に残るという計算です。

採算を判断するときは、葉色や草勢、糖度などの変化だけでなく、販売数量や等級別の受取額が実際にどれだけ増えたかを確認しましょう。



公表資料に見る、BS剤の費用対効果とROI評価の事例


BS剤については、収量や品質の改善を示した試験は増えています。一方、製品代、散布費、収穫・出荷費まで含めたROIを公表している事例は、まだ限られています。

ここでは、ROIを考える際に参考になる公開事例を紹介します。


事例(1)ナス・イチゴで約1.2倍、バレイショで約1.1倍に増収


農研機構の生研支援センターが紹介する研究では、開発したBS資材を定期的に散布した結果、ナスとイチゴで約1.2倍、バレイショで約1.1倍の収量増が報告されています。

研究資料では、開発資材の普及によって対象作物が5%増収した場合、全国で約640億円の経済効果が期待されると試算しています。


事例(2)水稲への肥料削減とBS剤施用で、収量が10%増加


農研機構の生研支援センターが2025年度から進めている水稲の研究では、植物内生酵母の利用によって、収量が平均10%以上増加したとされています。

2024年に京都府で行われた「ヒノヒカリ」の試験では、通常栽培で20%発生した白未熟粒が、BSの散布によって3.4%まで減少しました。

この研究では、肥料を30%削減しながら収量を10%増やすことを目標とし、生産者圃場で収入や栽培コストへの影響を評価する計画です。最終的なROIはまだ公表されていませんが、販売収入の増加だけでなく、減肥による費用削減も含めて経済性を評価する事例といえます。


事例(3)レタスで10a当たり資材費2660円で、収入が12万5680円増


AGRI SMILEがJAなどと行った実証では、北海道・JA道央のレタスで年間収量が約30%増加し、10a当たりの資材費2660円に対して、収入が12万5680円増えたと報告されています。

同社は、売上増加分を資材費で割った費用対効果を47倍としています。

本記事の簡易ROI式に当てはめ、追加費用を資材費2660円のみと仮定すると、次のようになります。

ROI 約4625%
=(12万5680円-2660円)÷2660円×100

ただし、この計算には、追加で発生した収穫、選別、包装、出荷などの費用は含まれていません。

また、この実証は民間企業やJAなどがデータを提供・検証したものです。農林水産省の情報交換会資料では、全国32都道府県、106JA、318地区、69品目で試験を行い、圃場で80%の再現性を確認した事例として紹介されています。

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いずれも、特定のBS剤を使用した、作物、地域、年度における結果ですが、資材費以外の散布、収穫、選別、出荷費が含まれていない事例もあります。

同じ資材でも、気象、土壌、品種、施用時期などによって結果は変わります。公開された数字をそのまま自分の経営に当てはめず、自身の販売記録と追加費用を使って採算を確認することが重要です。


資材に頼る前に、まず圃場条件の確認を


BS剤は、排水、土壌pH、施肥、かん水、日照などの基本的な栽培条件を改善する代わりにはなりません。

水がたまっている、土壌pHが適正でない、施肥やかん水に問題があるといった場合は、資材を追加する前に、生育不良の原因となる圃場条件を見直しましょう。

購入前に確認したいのは、次の5点です。

  1. 何を改善するための製品なのか
  2. 対象作物、使用量・濃度、使用時期、使用回数が示されているか
  3. 使用区と無使用区を比較した試験結果があるか
  4. 原材料や安全性に関する情報があるか
  5. 製造・販売者、問い合わせ先、法令上必要な表示を確認できるか

製品資料に試験結果があっても、自分の圃場で同じ結果が得られるとは限りません。

導入時は、初めから全圃場へ広げず、小面積に使用区と無使用区を設けます。品種、施肥、かん水、防除、収穫時期などの条件をできるだけそろえ、BS剤を使用したこと以外の差を小さくします。

記録しておきたい主な項目は次のとおりです。

  • 製品名
  • 使用量、希釈倍率
  • 施用日、天候
  • 販売数量
  • 等級別の受取額
  • 追加作業時間
  • 収穫、選別、包装、出荷に増えた費用

これは、製品の効果を科学的に証明するための試験ではなく、自分の圃場と経営で、継続して使う価値があるかを判断するための比較です。



BS剤は「なんとなく」ではなく「戦略的」に使おう


BS剤を導入する際は、まず何を改善したいのかを明確にします。そのうえで、製品の試験結果や使用条件を確認し、小面積から試します。

判断の基準は、葉色や草勢がよく見えるかどうかだけではありません。販売数量や等級別の受取額がどれだけ増え、製品代や追加作業費を差し引いた後に、実際に手元へ残る金額が増えたかを確認します。

自分の販売実績と作業記録をもとに、使用を続けるか、範囲を広げるかを判断することが、BS剤を戦略的に経営へ取り入れるための基本になるでしょう。


参考資料
農林水産省|その他(バイオスティミュラント)
農林水産省|バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン
農林水産省|「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」に関するQ&A
農林水産省|「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」を策定しました
農林水産省掲載|微量要素欠乏対策
農研機構「バイオスティミュラントを活用した革新的作物保護技術の実用化」
農研機構「気候変動に対して高品質な米作りを持続可能にする新たなバイオスティミュラント製剤の構築と社会実装」
AGRI SMILE「全国106JA・69品目・1500haの実証データを活用した費用対効果の検証」
農林水産省情報交換会資料「バイオスティミュラント普及に向けた活動紹介」


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。