夏場のねぎ防除はドローン委託でどう変わる? 10aあたり約10分、こと京都が語る作業負担軽減の価値 【前編】

夏場のねぎ栽培では、防除、定植、収穫、出荷準備などの作業がどうしても重なりやすくなります。特に高温期の農薬散布は、作業時間だけでなく、作業者の体力や安全面にも関わる負担の大きい工程です。

九条ねぎの生産・加工・販売を行う「こと京都株式会社」では、夏場の防除作業の一部をドローンによる委託防除に切り替えています。同社の管理面積は35ha以上。そのうち5〜7haほどを対象に、5月から10月まで継続してドローン防除を依頼し、年間のべ30ha程度の散布を委託しているといいます。

今回は、こと京都がなぜねぎのドローン防除を委託するようになったのか、従来作業との違いや実際の作業負担の変化について、同社の池島孝将さんにうかがいました。


こと京都株式会社の池島孝将さん(写真:こと京都)

夏場の防除は「時間」だけでなく「体力」の負担も大きい


こと京都では、11月から翌4月ごろまではラジコン動噴やブームスプレイヤーを使って自社で防除を行い、5月から10月までの高温期は、ドローンによる防除委託を活用しています。

きっかけになったのは、夏場の労力を少しでも軽くしたいという思いでした。

「『夏場の労力を軽減できるのではないか』というところが最初です。ねぎの防除は、一般的なラジコン動噴やブームスプレイヤーで散布していても、葉の表面に白いワックス層があるので、どうしても薬液をはじきやすい部分があります。その分、10aあたりの散布水量も増えやすく、移動や散布の負担も大きくなります」

ねぎは葉が立ち上がる作物のため、葉面に薬液が残りにくい性質もあります。従来の散布方法には従来の良さがある一方で、高温期に防護服を着て長時間作業する負担は小さくありません。

実際に、こと京都では人力で散布する場合、10aあたり300Lほどの散布を想定すると、作業に30〜40分程度かかるといいます。一方、ドローン防除では10aあたり5〜10分程度で作業が完了します。

「毎年、防護服を着て人力で薬剤散布をすると、熱中症のような体調不良者が、どこかの地域で1人、2人は出ていました。作業環境によっては42〜43度になるような中での作業なので、それを避けられたことは大きかったです」

ドローン防除の価値は、単に散布時間が短いことだけではありません。高温下での作業を減らし、作業者を別の工程へ回しやすくすることも、会社として委託を続ける理由になっています。

10aあたり10分で散布が完了する(写真:こと京都)

防除を任せることで、作付けの遅れを取り戻しやすくなる


ねぎは、1回植えて収穫したら終わりという作物ではありません。こと京都では、年間を通じて作付けと収穫を回しており、春から翌年春までに3〜4作ほど収穫することもあるといいます。

そのため、防除に時間を取られると、次の作付けにも影響が出ます。

「繁忙期の5月から10月は、防除に時間を割いてしまうと、他の作業が後手に回ってしまうんです。作付けが1カ月遅れれば、収穫予定も1カ月遅れます。出荷に穴が空くと取引先に迷惑がかかりますし、防除を怠れば品質にも影響する──そのバランスをなんとか取りたいと思っていました」

たとえば、2025年6月には1.5haほどの作付けがあり、定植は機械を使っても10aあたり2人で1〜2日ほどかかります。慣れたメンバーであっても、まとまった面積を植えるには一定の日数が必要です。

防除を委託することで、従業員を定植や作付けの準備に回しやすくなることは、こと京都にとって単なる省力化にとどまりません。年間の作付け計画を大きく崩さないための、重要な手段にもなっていました。

作付けされたばかりのねぎの苗(写真:こと京都)
株式会社オプティムでこと京都のドローン防除を担当する柳さんも、委託の価値は単なる散布作業の代行だけではなく、時間の使い方にもあると話します。「我々が防除を請け負うことで、こと京都さんの人的リソースを別の作業に回していただけます。繁忙期に遅れがちな工程を取り戻せることは、現場にとって大きいのではないでしょうか」


委託前に必要な準備は、従来防除と大きく変わらない


では、ドローン防除を委託する場合、農家側は何を準備する必要があるのでしょうか。

まず、こと京都では散布する圃場を選びます。そのうえで薬剤を選定し、農薬の使用回数が上限に達していないかを確認します。薬剤が決まったら防除委託を発注し、散布してほしい圃場の所在地をオペレーターに共有します。

その後、飛行高度、当日の天候、周辺環境などについてオンラインでオペレーターと打ち合わせ、最終的に当日の散布を実施してもらうという流れです。

「作業の流れは、ラジコン動噴で散布しているときとほぼ変わりません。薬剤の発注以降に、オペレーターとのヒアリングが追加で入るくらいです」


スプレイヤーを用いた葉面追肥の様子。広範囲に散布できる一方、炎天下では体力的な負担も大きい。※写真は農薬散布ではなく葉面追肥の場面のため、防護マスクや手袋は着用していない(写真:こと京都)
外部に作業を任せるため、最初のうちは圃場情報の共有や飛行条件の確認が必要になります。ただし、アグリポン」では地域によって同じドローンパイロットに継続して依頼することが多く、所在地や圃場の特徴を理解してもらいやすいため、打ち合わせの負担は徐々に減っていったといいます。

当日の立ち会いも、最初は現場で確認していましたが、回数を重ねる中で少なくなっていきました。ただし、薬剤の受け渡しについては、毎回当日の朝に立ち会っています。

「散布中・散布後の飛行状況や過去の履歴は、マップ上で確認できます。どこで飛んでいるか、どれくらい散布しているかを見られる状態だったので、そこは随時確認できて安心でした」

作業をすべて丸投げするのではなく、農家側が圃場、薬剤、使用回数、周辺状況を把握したうえで、散布作業を専門のオペレーターに任せる。委託防除は、そのような役割分担のもとで運用されています。


「効果は従来防除と大きな差がない」ことも判断材料に


ねぎのドローン防除で、導入を検討する農家が最も気になるのは「本当に効くのか」という点でしょう。

こと京都では、ヨトウムシやアザミウマなどの害虫対策を中心に、ドローン防除を行ってきました。ドローンで散布した区画と、ラジコン動噴などで散布した区画を比べたところ、害虫の個体数や品質面で大きな差は感じなかったといいます。

「ドローン防除で散布したところと、ラジコン動噴で散布したところで、ねぎの品質やヨトウムシ、アザミウマの個体数に大きな違いはなかったと感じています。差がないということは、ドローンでも一定の効果があると見ています」

ドローン防除をしたから必ず収量が上がる、という話ではありません。すでに被害が大きく出ていた圃場では、散布しても収量が落ちた区画もありました。

一方で、ドローン防除を継続した圃場では、単収が例年より上がった場所もあり、加工向けに出す際の「製品化率」が社内基準の70%以上をクリアした区画もあったといいます。

「ドローン防除のおかげで単収や製品化率が上がったと明確に言い切るには、まだ検証が必要です。ただ、継続して散布したところで、単収が例年より上がっている場所があることや、製品化率の基準をクリアした場所があったことは、少なくとも防除の効果としてしっかり体感できました」

ドローンで散布する効果を過度に期待しすぎる必要はありませんが、高温期や広い面積を管理する場面で、作業負担を見直す選択肢としては有効だったと池島さんも評価しています。


夏場はドローン、秋〜春は従来防除という使い分け


こと京都がドローン防除を本格的に委託したのは2025年からですが、池島さんは、夏場の高温期にはドローン防除の方が向いていると感じています。一方で、秋口から春先にかけては、従来の散布方法も有効に使っています。

「正直、時期によると思います。5月から10月までは、ドローン防除の方がかなり良いと感じていますが、秋口から春先の涼しい時期は作業効率も上がりますし、手動散布で使える薬剤も増えるので、従来の方法でも十分ではあります」

つまり、こと京都ではドローン防除を「すべての時期に置き換えるもの」としてではなく、「夏場の負担が大きい時期に使うもの」として位置づけています

こと京都の事例からは、ドローン防除の導入判断は、面積、時期、人員、作業計画とセットで考えることで、より有効になることが見えてきました。

後編では、ドローンを用いることによるねぎの防除効果や品質への影響について、さらに詳しくうかがっていきます。


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。