「太陽熱処理」を題材に、農業IoTについて考える 【「有機農業とワタシとITと」第4回】

暑い⽇が続いています。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
埼玉県小川町の久野農園園主、久野裕一です。
連⽇35度を超える中、秋冬菜の準備作業が続いています。

ロボットドローン、センサー、植物工場などハードの進化は素晴らしいものがあります。⼀方で、そのようなハードを活用して儲かる農業につなげるソフトの部分については、ブラックボックスとなっている部分が多いのが実状です。

IoTと儲かる農業経営の間に横たわる溝について考察するコラム
今回は、「太陽熱処理」をテーマに、農業現場におけるIoTの使い方と試験場での使い方の違いや、もう少し現場的な観点からIoTの活用手法について考えてみたいと思います。


有機農法のひとつ「太陽熱処理」とは?

太陽熱処理とは、薬剤による⼟壌消毒や化学的農薬散布による病害⾍対策を選択しない有機農業の世界で、以前から注目されている栽培工程管理手法の⼀つです。⼀言で太陽熱処理といっても、目的や効果が地域によって様々ですので、あらためて太陽熱処理に関して最大公約数的な考え方をまとめてみました。

⼿法
施肥、畝作りを行った畑に潅⽔し(あるいは降雨を待って)⼟中⽔分を確保し、透明ビニールマルチを張って高温を⼀定期間維持する土壌処理方法

効果
土作り(団粒構造化促進や、養分の変化を加速する等)、阻害要因の除去(雑草のタネや病原菌、害⾍虫等の死滅)の二つ

課題
自然エネルギーを活用する技術(太陽光、熱、水、微生物等)であるため、従来の臭化メチル活用の⼟壌消毒等と⽐べ、環境負荷低減の観点から注目されている⼀方、天気に大きく影響を受けるため、作業性や効果をコントロールしにくいところが難点

農業IoTによるセンシング技術を活用した「陽熱プラス」

この太陽熱による土壌処理手法は、従来は勘と経験をもとに⾏われることが多かったのですが、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業の共同研究によってセンシングを活⽤した「陽熱プラス」という栽培体系も発表されています。

この研究によって、センサーを使って土中の温度の推移を計測し、気象データと合わせることで、おおよその必要な被覆期間の予測を立てられるようになったのです。

試験場ならではの正確性を持ちながら汎⽤的に活用しやすい、素晴らしい研究成果だと思います。このような基礎研究を試験場で⾏ってくれると⾮常にありがたい。現場サイドとしては、基礎研究結果とセンサー、データロガー等を使って、より現場レベルで作業の省⼒化、精度向上につなげていきたいわけですから。

センサーを埋め込むことで、被覆期間の確認が容易になります

私の農園における「太陽熱処理」の手法

私の農園では、この「太陽熱処理」を当初は秋冬人参の初期雑草抑制のために利用し始め、今では年に一度、ほとんどの畑で⾏うことで、抑草、病原菌減少、害⾍減少、⼟の物理性化学性向上等の効果を狙っています。

また、2017年からは土壌の温度、湿度、⼤気の気温、湿度を計測するセンサーとデータロガーも活⽤し、マルチの被覆期間と効果、積算温度や⾼温累積時間等の関連性を調べて、作業性向上に役⽴てています。

そうは⾔うものの、科学的に確⽴され、マニュアル化された⼿法になっているかといえば、全くそんなことはなく。⼿探りで現場レベルの改善を進めている状態です。

現場レベルでの実状

「陽熱プラス」の資料を読めばわかりますが、温度、湿度、積算温度、菌、虫、養分などなど、すべてがデータの塊。科学的に⾒ようとすると知らなくてはならない項目がたくさんあります。現場レベルでは、私も含めて基礎知識を持たないまま「太陽熱処理」を⾏っている農場がほとんどではないでしょうか。

さらに言えば、この「太陽熱処理」の作業は、現時点ではかなりブラック労働的(属⼈的かつ属環境要因的)技術です。環境影響が少なく、⾃然エネルギーを活⽤しているなど、よそ向けの顔はいいのです。しかし、現場の⼈間の労働環境はなかなか過酷。暑い中、条件の整ったタイミングに⼀気に作業を進めなければならず、暑くて、汚れるし、⻑時間労働です。まさに有機農業ですね(笑)。

また、作業が⼤変なだけでなく、「太陽熱処理」を⾏うまで、あるいは⾏ってから播種するまでの段取りには緻密な計画が必要になります。いざ、シーズンに⼊ると即断即決の毎⽇。天気予報と播種計画、畑管理の進捗状況を⾒て修正しながら、海兵隊的判断⼒および⾏動を求められます。マニュアル&サラリーマン的感覚ではとても対応できない手法でした。

果たして、農業IoTを活用した「陽熱プラス」という手法は、過酷な現場作業に光明をもたらすのか? 私は「太陽熱処理」が属人的・属環境要因的技術であるからこそ、農業IoTの効果が期待できると思っています。

試験場と農家では研究の⽅向性が違う

試験場の基礎研究である「陽熱プラス」はかなり親切で汎⽤性を持った研究内容ですが、そっくりそのまま作業に移せるかというと少し難しい面があります。
なぜなら、⼟質、気候、作物、農場の設備機械等、農業現場の条件は地域によってあまりにも違いがありすぎるから。それが故に、汎⽤性を持たせる必要のある基礎研究は、作業レベルにまで落とすと「やりすぎ」であったり、「ひと⼿間⾜りない」といったことがたくさんあります。

農家レベルでは、必要な成果を最小限の作業で上げたいところ。なので私としては、試験場の汎⽤的な研究成果をそのまま活かすのではなく、⾃分の農場に合わせて「仕⽴て直す」ことをお勧めします。試験場の研究はいわば“ZOZOスーツ”のようなもの。そこで得られた標準的なデータを使って、“ひとつひとつの農場オリジナルの既製品”を⼤量⽣産できればいいわけです。

研究開発はどこまでいっても固定費で、いわば未来への投資です。品質向上や省力化、⼤量⽣産につなげて、価格向上や数量アップを実現することは農業現場の仕事です。そして、“ZOZOスーツ”の基本データからオリジナル製品を作るための思考プロセスの目的は、⼀般的、汎用的なものを、“各農家のサイズに合わせたオリジナルかつ必要最⼩限かつ最⼤効果の上がる服”に仕⽴てること。そのために⼀番大事なことは、⾃分⾃身がどうなることが望ましいか? もしくはどんなことに困っているか、を認識することです。

具体的に「太陽熱処理」を事例に⾒ていきましょう。

農家が「太陽熱処理」に期待する効果とは

⼀般的に「太陽熱処理」の効果として、
  1. 抑草
  2. 害⾍を減らす
  3. 病原菌を減らす
  4. 団粒化・化学性改善等の⼟作り効果
という、主に上記4つが期待されます。

このうち私が農園で期待する効果はどれかといえば、もともと(1)と(2)が実現されればまあ良しとしておこうと思ってきました。(3)(4)を徹底的に求めると、作業工数、時間やコストがかかりすぎるので、あまり期待していない、というのが私の農園での実状です。例えば、(4)は太陽熱処理に頼らずとも代替⼿段はたくさんあり、代替作業の作業性も悪くないですから。

しかし、「陽熱プラス」を含め、研究データの多くは(3)(4)を対象にしているものが多い。であれば、(3)(4)の効果を捨てても作業性が⼤幅に向上するならばそれでいいではないか(これはあくまでも私の農園での考え方です)。

しかも、実は私が⼀番頭を悩ませているのは、「太陽熱処理」の事前準備として欠かせない畝間の草対策なのです。中耕したり、リビングマルチを使ったり、全⾯マルチにするなど、いずれも⼿間がかかります。畝間の草対策が必要なのは、太陽熱処理の期間が1カ月程度必要だと⾔われてきたため。もし、処理期間が5⽇でいいならば、畝間の草対策の代替⼿段は格段に増えるし、やらずに済ませることも可能。あるいは、(1)の効果は求めたいが、⽣育初期のみ雑草に負けなければいいのでは、とも思えてきます。

その上で、私の経験から、太陽熱処理について、
・真夏日が1週間ほどあれば抑草効果は得られる(ことが多い)
→病害虫、⼟作りの効果に関してはわからない
・マルチ張り時の環境要因と作業精度が重要
→⼟壌が湿っている、かつ、マルチ張りの基礎技術が大事
・展張期間が⻑くなるほど作業性(畝間の草対策、マルチ除去の際の作業性)が落ちる
と思っています。

ですが、上のふたつについてはあくまでも私個人のなんとなくの感覚でしかありません。「展張期間が長くなるほど作業性が落ちる」については、今まで通りの作業をするならば、という前提で、こちらは真実に近いと思います。作業性が落ちて実際に大変な思いをしているので、明確に困っているわけです。

「太陽熱処理」に農業IoTを導入することで何が変わる?

では、これらの「太陽熱処理」の作業にIoTを活用することで得られる改善効果、目的はなんでしょうか。
  1. 感覚値の精度の向上
  2. 省力化(効果に対して最⼩限の⼿間とコスト)
  3. 状況の⾒える化(条件が変わった際の参考データとして)

中でも、(1)と(2)が⼤きな⽬的です。気持ちとしては、「感覚値の精度」が上がれば、即時に的確な判断がしやすくなりますし、IoTを活⽤するのに「省⼒化」できなければ意味がありません。そして、「状況の⾒える化」ができれば、⼀層の省⼒化ができそう、とこのような感じ。

そこまでわかれば、まずは困りごとを解決し、次に感覚値、経験値の精度を上げていこうと、⽅向性を決められます。抑草はできればOKで、100%でなくても⼤丈夫。被覆期間はできるだけ短い方が作業性の観点から望ましい。しかし抑草に絞って研究成果を見てみると、該当するような研究成果が見当たらないことがよくあります。そういう時こそ経験値でうまくいった時の状況をセンサーで⾒える化してみよう、と考えてみます。センシングやデータの取り方、予測の手法等は全部真似ができますからね。

つまり、「太陽熱処理」にセンシング技術を導入するポイントは、「楽を⽬指す! 徹底的に⾃分都合主義。楽に楽に」ということ。

持っている機械、資材、知識、これらの制約条件(リソース)を最⼤限に活⽤して、⼈間様はできるだけ⼿足を動かさず、もっとも都合の良い環境に持っていくにはどうしたらいいか? センシング等研究から得られるデータに汎用性、正確性を必要以上に求めない。⾃分たちが求める成果だけを絞って考えればいいのです。
※※※※※

今回の記事は、実際にIoTを使ってセンシングを始める前に、どんなことを考えているかという内容でした。
⼀方、センシングで得られたデータを分析する際には、全く違う方向からのアプローチが必要になります。

データをありのままに⾒ること、そしてデータをして語らしめること。
情報の見方、加⼯の仕⽅、すなわち情報処理能力が求められます。

というわけで次回は、実際のデータを使いながら、データベースと問題解決⼿法について考察します。それではまた。

■今回のまとめ
「太陽熱処理」を題材に、IOT活用の視点について考える
・試験場や研究機関においては、データの精度、正確性、汎⽤用性が問われる
・農業現場においては、目の前の状況把握、今後の変化予想が的確に行えるか。つまり、進捗管理に活用できて、望ましい成果(儲かる)につなげることが要
・自分の農場の困りごと解決(作業が大変、時間がかかる、難しい、うまく行きにくい等)をまずは優先してみる
・どちらも、見えないものを見る努力が必要。その最適な道具がIoT

<参考URL>
太陽熱土壌消毒効果を活用した省エネ・省肥料・親環境栽培体系「陽熱プラス」の確立
http://www.affrc.maff.go.jp/docs/gaiyou/pdf/25060c.pdf
BLOF理論について|有機農業、肥料設計、土壌分析等の資材販売、コンサル-ジャパンバイオファーム
http://www.japanbiofarm.com/report/entry-354.html
太陽熱土壌消毒における土壌水分
https://www.pref.wakayama.lg.jp/bcms/prefg/070109/gaiyou/001/documents/dojyoushoudoku.pdf
簡易なモデル化による露地太陽熱処理時地温の推定
https://www.naro.affrc.go.jp/org/warc/research_results/h17/08_yasai/p277/
太陽熱利用土壌消毒とネットトンネルによるキャベツ等アブラナ科野菜の美山認証金ランク露地栽培マニュアル
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/taiyounetu.pdf
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  1. かくやさゆり
    サンマルツァーノトマトに出会い家庭菜園を始めた半農半ライター。農業、食、アウトドアを中心にライターとして活動中。主に固定種の野菜を育てています。
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    川島礼二郎(かわしまれいじろう)。1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。
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    すぎやまなおき。1988年生まれ。愛知県で有機農業を本業として営む。「伝えられる農家」を目指して執筆業を勉強中。目標は、ひとりでも多くの人に「畑にあそびに行く」という選択肢を持ってもらうこと。「とるたべる」という屋号で、日々畑と奮闘中。
  5. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。