東京で生産量日本一の農産物? 新宿で広がる「内藤とうがらし」

東京都内でとある農産物の生産量で全国一を目指すプロジェクトがひそかに動いている、というと驚くだろうか。

農地の面積が少ないのに、そんなことできる品目があるのか、と。それはトウガラシ。仕掛け人はオムロン株式会社 元常務で、現在は地域開発プロデューサーとして活動する成田重行さん(77)だ。

エスプレッド村にて撮影。右に映るのが成田さん(提供:内藤とうがらしプロジェクト)


町の繁栄に伴って忘れられていったトウガラシ

成田さんがいま普及しているトウガラシは八房系の「内藤とうがらし」。名前の通りに房なりするほか、いまではメジャーとなった「鷹の爪」系に対し、辛味が弱くてうまみを感じるのが特徴だ。成田さんは都内の農家だけではなく、新宿区を中心に住民や企業、団体に働きかけ、家庭や職場で育ててもらっている。

八房系のトウガラシと新宿のつながりは江戸中期にまでさかのぼる。内藤家の下屋敷、現在の新宿御苑で栽培が始まると、新宿中の農家がこのトウガラシを作るようになる。というのも江戸は人口の大半が男性。侍や職人などの単身者が多く、彼らは自炊するよりも屋台で飯を食うことを日常としていた。とりわけ手軽に食える蕎麦屋がはやった。そして蕎麦の薬味として提供されたのが七味トウガラシだったのだ。

提供:内藤とうがらしプロジェクト

しかし、その栽培は長く続かなかった。新宿が宿場町として繁栄するに従って、甲州街道や青梅街道の並びには問屋や流通業などが出現して宅地化が進み、次第に農地は消えていった。拍車をかけるように、八房系よりも辛みがずっと強い鷹の爪系が登場した。その刺激にひかれた農家は八房系に代わって鷹の爪系を作るようになったのである。いつしか八房系は忘れられた存在となってしまった。


江戸時代に親しまれた味をふたたび

成田さんは八房系のトウガラシを復活させるべく、2010年に農研機構・次世代作物開発研究センターから八房系の種子を譲ってもらい増やしてきた。都民や企業、団体などに苗を配布して、育ててくれる人を広げてきた。収穫物は集めて、新宿の老舗や全国の土産物店などにそれを原料にした加工品を開発してもらい、新宿を中心に販売するなどしている。

このほどその功績が世界で認められた。欧州一のトウガラシの産地であるフランス南西部、スペインとの国境に位置するバスク地方はエスプレット村。人口わずか2000人の村で半世紀以上前から、毎年10月最後の土日開催の収穫祭で2019年、成田さんは外国人として初めて騎士の称号を村から贈られたのだ。

エスプレッド村での叙任式の様子(提供:内藤とうがらしプロジェクト)

収穫祭に成田さんと同行した大学生らはその様子を撮影し、記録映像を制作。12月9日に新宿の映画館「武蔵野館」で初公開する。同館とシネマカリテでは12月の一部期間、新宿武蔵野館の開館100周年記念として「スパイスはいかが」と題し、バスク地方にちなんだ映画を上映する。さらに学生が制作する記録映像は新宿区内の学校で順次公開する予定だ。内藤とうがらしにしびれたい方にはぜひ観賞してもらいたい。


内藤とうがらしプロジェクト
https://naito-togarashi.tokyo/
12月「スパイスはいかが~新宿名物!内藤とうがらしとバスクを巡る旅」上映作品決定!| 新宿武蔵野館 100周年記念企画
http://shinjuku.musashino-k.jp/100th/news/1539/

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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