「第10回農業Week」で見つけた注目アイテム<お手頃価格のスマート農業ソリューション>

2020年10月14日(水)~16日(金)、第10回農業Weekが千葉県幕張メッセで開催された。日本最大級の農業関連イベントであり、今回は、農業資材EXPO、次世代農業EXPO、6次産業化EXPO、畜産資材EXPOの4展で構成されていた。

とは言え、コロナ禍のことである。今春に開催予定だった第4回関西農業Weekは来春に延期されている事実もある。そんな最中での開催ということで、入り口では全来場者に検温を実施しつつマスク着用を必須化。会場には主催者側のみならず出展者も自社ブースに除菌用アルコール等を設置。関係各位がイベント開催のために最大限の努力をしていることに感謝しつつ取材を行った。

さて第10回のテーマは「今こそ農業のスマート化を」である。「スマート農業なんて聞き飽きた……」などと会話している来場者もいたが、それは間違えだ。スマート農業は私達が聞き飽きるほどに広がりを見せた普及期にあり、今まさに発展している。

今回の展示会は新製品の発表こそ多くなかったものの、低価格化やリニューアルを施すことで魅力を増した製品・サービスが数多く展示されていた。そうした視点から当サイトが注目したアイテムをご紹介して行こう。

アシストスーツの低価格化が進んでいる


最初にご紹介するのはダイヤ工業が展示していたアシストスーツ『DARWIN Hakobelude(ダーウィン ハコベルデ)』。昨年の同展示会記事アシストスーツ編でお伝えした通り、アシストスーツはまさに普及期に入ったところ。動力源の多様化とともに低価格化が進んでいるが、『ダーウィン ハコベルデ』は、その象徴と言える存在だ。

開発・販売を行っているダイヤ工業は福祉用サポーター等の開発が本業。1963年創業というから実績も十分。そんな同社が新たにアシストスーツに目を付けたのは10年ほど前のこと。2014年には竹中工務店と共同開発による同社初のアシストスーツ『職人ダーウィン』をリリースした。ここでご紹介する『ダーウィン ハコベルデ』は、そんな同社の新製品である。



持ち上げは高反発ゴム、中腰姿勢の維持には人工筋肉を使うアシストスーツである。肩から腰と脇から腰にかけて特殊高反発ゴムが、また腰から大腿部にかけては特殊高反発ゴムに加えて人工筋肉が配置されている。 腰を落として屈むことにより背後から引っ張られ、ゴムの収縮力が発生して 自然と上半身を起こしてくれるようなアシストが得られる、という仕組みだ。これにより、重い荷物などを持ち上げる際に背中から大腿部にかけての筋肉を補助する。



人工筋肉は使用時に専用ポンプで5回ほど空気を送り込むことで、人の筋肉と同じように収縮してパワーを発揮。 これにより中腰姿勢を維持するときに使う背面の筋肉をサポートしてくれる。

無電力だから当然のことながら充電等は不要であり、また軽量化も可能となった。総重量は僅か800gと驚きの軽さを誇る。軽量でありながら、自然なアシストを実現してくれるという本製品だが、注目すべきは圧倒的な低価格だ。標準価格は85,800円(税別)である。電力を使用せずに作動するため、屋外での利用も可能だから、農業向きと言えよう。これは農業生産者に注目して欲しいアイテムだ。


統合環境制御も低価格化


続いてご紹介するのは、暖房機でお馴染みのネポンのブース。既存製品の組み合わせにより魅力を増した好例として紹介しよう。その組み合わせとは、農業用クラウドサービス『アグリネット アドバンス』と統合環境制御盤『MC-6001』の同時利用である。


一般的な「単機能型」の環境制御盤では、それぞれの制御盤で別々のセンサーを用いて、窓やカーテン、暖房機などのハウス内設備を動かす。これでは作業効率が悪いうえ、センサーにも個体差があるため環境にムラができやすい。そこに「統合型」の環境制御盤のメリットが出てくる。共通のセンサーを使用して、一つの制御盤で設備を統合的に制御するため、設定等の操作=環境制御を効率的に行うことが可能である。

今回のネポンの提案は、この統合環境制御盤とクラウドサービス『アグリネット アドバンス』との組み合わせ利用である。センサー類が計測した数値がクラウドにあげられることにより、ハウス内環境の見える化、(PC・タブレット端末・スマートフォン)からの遠隔制御、それに監視と警報までもが可能となる。

注目して欲しいのは、その価格である。一般的に統合環境制御を導入しようとすると300万円は下らない。ところが、このネポン『アグリネット アドバンス』+『MC-6001』の同時導入ならば、100万円を切る金額で実現可能だという(暖房機やカーテンといった各ハウス内装備の購入費、『アグリネット アドバンス利用料』は別途昼用)。

これは老舗暖房機メーカーであるネポンが、コロナ禍にある農業界をサポートすべく実現させた破格のサービス価格と言えよう。


土壌診断は総合的なコスト低下を実現する


自動車界の巨人・トヨタは、豊作計画を前面に打ち出した展示を行っていたが、当サイトが注目したのは、近年特に話題に上ることが多い土壌分析サービス。サービス名は『リアルタイム土壌センシング』である。



地中に差し込んだセンサーをトラクターで牽引・移動して約30項目の土壌成分を測定。GPS位置情報とあわせて解析し、土壌成分マップを作成・数値化することで、タイムリーな診断と改良提案が可能となる。



説明してくれたのはアグリバイオ事業部 豊作計画推進室 事業・システムグループ主幹の清水克哉さん。

「従来法では診断・処方までに時間がかかり、土づくりが作付けに間に合わない場合がありましたが、本サービスは数日で結果が出るため、土壌診断を行った結果を土づくりに生かすことが可能になります。

ご存知の通り、日本では農地の集約化が進んでいますが、複数の圃場を管理している方が多くいらっしゃいます。その場合、圃場ごとに土壌のバラツキがあるものです。それをそのままにして土づくり→作付けと進めてしまうと、本来得られるはずの収量を確保できない場合があります。そうした農業生産者さまにとって特に、魅力的なサービスになるのではないかと考えています」

本サービスは実証段階にある。課題としては、圃場ごとのバラツキ、圃場内でのバラツキを把握した後、どのように施肥を行うのか、であるという。可変施肥の精度を高めるか、あるいは測定の精度を施肥機のレベルに合わせる必要がある。

当然のことながら農業生産者にとって、最終的な目的は収入の増加である。適切な施肥を行うことでコストと労力を減らし、同時に収量を増やす。より多くの農業生産者がそれを実現できるサービスとすべく、実証・開発が進められている。


作物を盗難から防ぐ新アイテム


ここ最近話題になることが多い農作物の盗難。その防止アイテムの新製品が展示されていたのは日本郵便メンテナンスのブースだ。



その仕組みは至ってシンプルだ。『ラジセン』という名称のセンサーを圃場に最大4個設置でき、これで侵入者を感知。無線を内蔵しており、侵入者がいた場合は100m離れた場所まで通知できる。


センサーはソーラーパネルにより発電した電力で駆動するから設置場所を問わないのも魅力だ。組み合わせて使う赤い部品は『ニコ UFO ミューボ』。警報機である。

元々は駐車場や工場、オフィス、建設現場や店舗などでの用途で使用されていたが、農作物盗難被害が頻繁に話題にのぼることから、農業向けを企画。近日発売を開始する予定である。

定価は『ラジセン』が1台4万6000円、『ニコUFO myubo』は1万9500円。人による巡回が不要になるうえ、抑止力にも期待できる。経営をトータルで考慮すれば、こうした防止策の導入を検討するのも良いだろう。

AI発芽検査は市販品活用で低コスト化


最後にご紹介するのは、NTTテクノクロスが展示していた『AI発芽検査』。熟練の技が求められる発芽率の検査を、AIが画像から発芽状態を判定支援することで、検査業務を大幅に効率化するソフトウェアである。

発芽検査とは、種苗法により品目ごとに発芽率の基準が定められており、市場に出荷されている種子は一般的にはその基準をクリアしている。ところが、この発芽検査は容易ではない。種が小さいこと、それに種同士で絡まってしまうなど、自動化が難しい。また判定には熟練した検査員が欠かせない。それでも種苗メーカー等は、多いところでは年間に数万件以上の検査を行っている、というのが現状である。

そうした背景のもとに、NTTテクノクロスとタキイ種苗とが協力して開発したのが、AIが画像から植物の種の発芽率検査を支援するソフトウェア『AI発芽検査』である。発芽検査に掛かる工数を減らすことが可能になる。NTTテクノクロスIoTイノベーション事業部 第一ビジネスユニット AI・データ分析担当マネージャーの森川高志さんにお話をうかがった。


「現在行われている発芽検査では、一度に種を100粒発芽させます。その後、正しく発芽しているかを判定するのですが、その作業には熟練した検査員でも1回1分程はかかります。

そこで開発したのが『AI発芽検査』です。事前にAIに発芽状態を学習させておき、カメラで撮影した画像を読み込み、自動で一粒毎の発芽状態を判定させることができます。『AI発芽検査』なら撮影から判定結果を出すのに掛かる時間は僅か10数秒ですから、経験の浅い検査員が担当しても通常の5倍以上の効率化が見込めるんですよ。

人間が発芽状態の良否判定や検査スピードを行うと、どうしても熟練の検査員に頼ってしまいます。現在はどの業界も同じだと思いますが、人材育成や技術の承継は容易ではありません。『AI発芽検査』は熟練者の判定を学習することができますから、誰が担当しても高い検査精度を保つことができるんですよ。実際に検査員と比較したところ、98%の判定一致率でした」

と教えてくれた。



当サイトが注目したのは、その構成要素が市販品がベースであること。カメラとPCは誰でも手に入る市販品であり、これさえあれば、後は契約してソフトウェアさえ入れれば、すぐにでも導入できる。大規模な設備=投資が不要なのだ。


ダイヤ工業
ネポン
トヨタ
日恵製作所
NTTテクノクロス

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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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