農研機構、家畜ふん尿由来液肥を効果的に散布できるスラリーインジェクターを開発

農研機構は、株式会社北海コーキ、株式会社北海道クボタと共同で、家畜ふん尿スラリーやメタン発酵消化液などの液肥を効率的に土中に注入できるスラリーインジェクターを開発した。大型機と小型機の2機種が用意されており、既存の機械を活用して低コストでの導入が実現する。

 

低コストで液肥の有効利用を実現


北海コーキは、農業機械の製造・販売を手がける企業。主に圃場の排水効果向上を目的とした製品の製造販売を行っている。

北海道クボタは、株式会社クボタのグループ会社として1964年に設立。農業機械の販売・サービスを提供し、地域農業の発展に貢献している。

近年、北海道では乳牛の飼養頭数の増加に伴い、ふん尿の発生量が増加している。また、2012年の再生可能エネルギー固定価格買取制度の開始以降、メタン発酵施設の導入が増え、特に十勝地方では45基が稼働している。

その結果、メタン発酵の副産物である消化液の量が増加し、その全量を牧草地で消費するのが難しくなっているという。また、化学肥料の使用量低減や地域資源循環の観点から、畑作での液肥利用が求められているが、従来の表面散布ではアンモニアの揮散が多く、十分な窒素施用が困難とされている。

そこで農研機構、北海コーキ、北海道クボタの3者は共同で、アンモニアの揮散を抑制し、液肥を土中に施用できるスラリーインジェクターの大型機と小型機の2機種を開発した。

大型機は、北海道の畜産農家が一般的に所有している、4~20t容量のスラリータンカーに後付けするタイプのインジェクター。トラクター後部の三点リンクに本機を接続して、その後方にスラリータンカーを配置して挟む形で利用する(図1左)。

液肥を土中施用する部分は、土中に空洞を形成する刃、液肥注入部、土壌を転圧するローラーから構成される(図1右)。大きな空洞を成形するよう改良された刃により、多量施用時でも安定的な作業が行えるという。適用馬力帯は90馬力以上だ。

図1 大型インジェクター(左:全体、右:土中施用ユニット)

また、空洞形成刃の種類を変え、土中に大きさや形状の異なる空間を形成することにより、液肥を施用量4~8t/10aの範囲で土壌中に施用できる設計となっている。実際に5t/10aの条件で消化液を施用したところ、想定通り深さ10~20cmの位置を中心に施用できることが確認されたという。

インジェクターで消化液を土中施用した場合、消化液が表面に露出することなく、ほぼ全量を土中に施用できるので、アンモニア揮散量はほぼゼロになる。一般的に消化液を土壌表面に施用した場合には、窒素成分の最大3割程度がアンモニア揮散によって減少することが知られているが、インジェクターを用いることにより、その問題を解消し、消化液の肥料効果を最大化できる。

さらに、農家が所有するスラリータンカーに接続することで低コストで利用可能なほか、液肥を土中に施用するため、臭気がほぼ発生せず、悪臭が問題となっている地域においては、悪臭対策としても有効とされている。

小型機は、既存の農地排水改良用全層心土破砕機をベースとしたインジェクター。機械上部に約400~600L容量のタンクを積載し、機械下部に1~3連で配置したV字の心土破砕刃で作成した溝内にタンク内の消化液を注入できる構造を有する(図2)。小型機の適用馬力帯は70~120馬力となっている。

図2 小型インジェクター

小型機では、土中5~50cm深さに破砕刃の後方に空間を作り、液肥を表面露出させずに施用できる。土中に空間が作られること、土壌の破砕により土壌が膨軟化して吸水性が高まることにより、施用量4~10t/10aの範囲で消化液の土中施用が可能だ。

既存の農地排水改良用全層心土破砕機にタンクと配管を追加した構造のため、一般的なインジェクターと比較して低コストであり、小規模メタン発酵施設にも導入可能だという。また、消化液の施用を行わないときは、農地の排水改良用機械として利用することもできる。

スラリーインジェクターはメーカーからの市販化を予定しており、主なユーザーとしては、酪農家、農協等の農業団体、メタン発酵事業者を想定している。農研機構は、普及のために各地域での実演や現地実証に取り組んでいくとしている。


農研機構
https://www.naro.go.jp/
株式会社北海コーキ
https://hokkai-koki.sakura.ne.jp/
株式会社北海道クボタ
https://hokkaido-kubota.co.jp/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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