スマートグラスの進化と「遠隔収穫体験」という新しい農業ビジネスへの挑戦【富有柿農家・水尾学のスマートグラス活用日記 第5回】

滋賀県北西部の高島市今津町で「富有柿」を栽培している柿農家の3代目、水尾学です。

2019年に柿の栽培や収穫でスマート農業を活用したコラムを投稿してから、3年が経過しました。スマートグラス・遠隔作業支援システムを利用した技能伝承や、ドローンを利用した内容を投稿していました。

スマート農業も「センサー機器によるデータ管理」「ドローンによる農薬散布」「トラクターなどの自動運転」など、従来農作業の延長作業がスマート農業の代名詞のように普及してきた感があります。

「ドローン」や「スマートグラス」も大きく進化し、AI搭載モデルなども出てきました。2016年ドローン導入時は、地上との距離を保つセンサーや音波型センサーが付いていたレベルでしたが、その後の技術の進化で自動飛行は当たり前になり、測位システムの進化により誤差範囲が数cmという、高い精度での運用が可能になってきました。

遠隔作業支援ツールを使った果物の収穫体験


農園とつながった画面を見ながら収穫して欲しいイチゴを探す子どもたち
当社は、遠隔作業支援システムを中心にIoTを生かした展開を進めてきました。その中でも遠隔作業支援では、農業技術の技能伝承目的をさらに拡張し、農作物を作り出荷するビジネススタイルから、より顧客に近い形でビジネスができるのではないかと模索してきました。

きっかけは、自宅・事務所にいる指導士の方と、農園で作業をしている方を「遠隔作業支援ツール」を使って作業を行った際、収穫できる環境になった圃場を見たことです。

そこから「指導士の方がいた側を“お客様”に変えることで、遠隔収穫体験ができるのでは?」と考え、2017年から地元の子ども会に協力してもらい、遠隔収穫体験のテストをスタートさせました。さらに全国の農家さんも当社の提案に賛同してくださったので、各種実験を繰り返して来ました。

2018年、2019年には東京・日本橋にある滋賀県物産館「ここ滋賀 -COCOSHIGA-」で、来館されたお客様を対象に遠隔収穫体験を実施してきました。2019年からのコロナ禍により、リモート社会が形成され「遠隔作業」も身近な存在に受け取られて来ました。

参考記事:農産物を直接「目」で見て買える安心感 ──スマートグラスの新たな活用法
https://smartagri-jp.com/smartagri/146

今回は、スマートグラスを農業で使い始めた頃から現在までの機材の進化と、スマートグラスを活用した新しい農業ビジネスへの挑戦をご報告させていただきます。


スマートグラスのハードウェア性能が大幅に向上


まず、利用しているスマートグラスなどのハードウェアが、利用開始した飛躍的に使いやすくなりました。2017年当時の機材と比較すると、最新OSを搭載したことで、反応スピードが向上。さらに、高解像度表示により細部まで確認できるなど、判断効率・精度も上がってきています。

また、ネット回線を通じた反応スピードが速まりました(※同一ネット回線の比較で体感的に約2倍の反応スピード)。一般的には、スマートフォンの新機種の反応スピードが速くなっていることをイメージしていただければわかると思います。

EPSONのスマートグラス「MOVERIO BT-40S」。これをかけるとFull HD・120型相当の高精細・大画面で見ることができる
「スマートグラス」の特徴
  • 基本動作はスマートフォンで取り込んだ映像。視聴にスマートグラスを運用する
  • 解像度がフルハイビジョン(1920×1080ピクセル)表示が可能に
  • スマートフォンのカメラと組み合わせることで、見にくい箇所も確認できる
  • 圃場全体を見回らなくても、モニター画面に圃場を映し出し、気になる部分は拡大して見ることが可能
  • 屋外での画像・映像視聴は、太陽光との戦い。少しでも目と画面の間に光が回り込むと判断しづらいこともある
  • 逆光でスマホやタブレットのモニターが全く見えない場合など、スマートグラスが非常に便利

EPSON「MOVERIO BT40S」とスマートフォンを組み合わせることで、見えにくい部分のチェックが可能(対応スマートフォンはEPSONホームページを参照のこと https://www.epson.jp/products/moverio/bt40s/list.htm


少し話は脱線しますが、ドローン運用に関しても同様のことが言えます。

2017年当時、ドローンの送信機モニターはスマートフォンやタブレットをつなげて使うのが主流で、モニターの遮光フード(日除けなど)は短いものが準備されていました。しかし、屋外での作業はモニターが見にくいため、モニターの遮光フードも段々長くなり、水中を観察する際に使用する“タコめがね”のような長いものが販売されるようになりました。

さらに、屋外の逆光でもモニターが見える高輝度の送信機専用モニターや、モニター上での反射の避ける反射防止シールなども販売されました。つまり、“周囲の光がどれだけモニター判断に影響を与えるか”が問題視されていたということです。

市場での運用の中からさまざまな改善が行われ、補助アイテムや新機能のモデルが登場しています。そして、ドローン運用の場合にも、このスマートグラスを日除け作業の手段として運用でき、利用シーンは増えてきています。


「スマートグラス」を活用した新しい農業ビジネスへの挑戦


当社が利用・販売している遠隔作業支援システム「Optimal Second Sight」は、もともと遠隔作業で最も重要な「マーキング機能」に秀でていました。位置判別がずば抜けて良く、効率良い意思疎通が可能です。そこで、このツールをダイレクトに使って「遠隔収穫体験」に取り組んでいます。さらに、リモート会議システムとの連動で広範囲な使い方が可能になり、機動性を拡充できます。

この「Optimal Second Sight」の最新モデルとして、「農家バージョン」も登場しました。これは農家特有の利用環境に合わせ、必要な時期に必要な期間(月単位)で利用できるというものです。天候による作業のスライドにも柔軟に対応しており、収穫時期に複数台を利用するなど、作業の効率アップも期待できます。

この「農家バージョン」については、国内で弊社が唯一販売させていただいています。詳しくはホームページをご覧ください。

これらの技術を使って、下記のような農業の課題をクリアしていこうと、挑戦を開始しました。

  1. ネットショップによる商品ベースの「生産者⇔消費者」という販売の形は、双方の顔が見づらい
  2. 写真で判断したものと違うレベルのものが届くこともある
  3. 「物」から「体験」への移行が進んでいる
  4. コロナ禍で、観光農園などへの来客が減少している
  5. 子どもたちへの食育活動が制限されている

2017年当時、遠隔システムを利用した技能伝承の作業が終わり、農園では収穫作業のみとなったとき、私はこの技術を使えば「遠隔で収穫体験できる!」と気が付きました。そして、子どもたちに体験してもらってその反応に驚きました。

リンゴ狩りに夢中になっている子どもたち
2017年から実施してきた収穫体験(デモ)対象果樹は、自前のカキ・ナシ(富山)・リンゴ(長野)・イチゴ(滋賀)・ブドウ(福岡)などでした。農家(生産者)と顧客をダイレクトにつなぐことで、どちらにとっても以下のような多くのビジネスメリットが生まれています。

顧客側のメリット
  • 農家さんの顔が見えて安心
  • 農家さんのアドバイスを受け、自分で選んだ果物が収穫できる
  • 遠くて行けない場所でも果物の収穫体験が可能
  • 長距離移動できない、小さいお子さんを抱えたご家族や高齢の方が参加できる
  • 移動時間が要らないので、効率的な時間運用ができる

農家側のメリット
  • お客様の顔が見えて安心できる
  • 農業を身近に感じてもらうことができ、興味を持ってもらえる。ファンになるお客様が増える
  • 子どもたちへの食育に寄与できる
  • 固定客につながる可能性が高い(大口顧客につながったケースも)
  • 「収穫作業」自体が収益につながる
  • 観光農園では、実際に収穫体験に来てもらうきっかけになる

作業から見える課題も多々あり、機材導入ありきではこれらの運用はスムーズに行えません。ここ数年で各種実験を行ったことで改善点などもあり、その都度関係者と改良してきました。

遠隔収穫体験では、自分でマークをつけることで、現地に足を運んで選ぶのと同じ体験ができる
遠隔システムを使っていかに臨場感を出し、農園での収穫を楽しんでもらえるか。これには農家の物づくりだけでなく、お客様への接客が必要になります。観光農園を営まれている方からは、重要なポイントであるとお聞きしますが、全く同じです。

また、収穫対象物によって見え方なども異なります。ハウス栽培露地栽培、棚物など農園環境の違いにより、さまざまな工夫をして楽しんでもらえる数々のノウハウを蓄積してきました。


「学校などで実施してほしい」というご提案も


収穫体験だけでなく、「花が咲いた」「実ができた」など、収穫に至るプロセスを子どもたちに見せてほしいとの要望も出てきました。まさに食育の新たな手法になると考えています。

この取り組みは、コロナ禍により課外授業等で農業イベントに参加する機会が減った子どもたちに対し、食育の一環として興味深い取り組みであると、農水省関係者からも評価いただいています。

2年前からのコロナ禍では外出が控えられ、観光農園にも一部影響が出ているようです。これからは農家が情報発信し、ダイレクトに顧客とつながる時代だと考えています。求められるのはネットによる商品販売だけでなく、“事”ビジネスに付加価値を求められる時代です。

さらに企業ではテレワークが推奨され、最近では随分定着してきました。一部では、リモート旅行なども展開されています。当社は現在、運用販売している遠隔作業支援システム 「Optimal Second Sight」と、会議システムを連動させ「家にいながら農家とつながれる、マーキング機能を使った収穫体験」を取り組んでいます。

ちなみに「Optimal Second Sight」の連動運用は、技能伝承においてもベテランの技術をさまざまな方に簡単に伝承できます。

遠隔作業支援システム「Optimal Second Sight」と会議システムを連動させ、家にいながら収穫体験を行った様子
2020年に開催された、食と農林漁業の祭典「ジャパンハーヴェスト 2020」 (JTB主催/農水省協賛)で行われたイベント“お家で果物狩り”ではカキ・リンゴ・ナシ農家と連携し、全国の多くのお客様に参加・体験してもらい、お子さん達にも、大変喜んで頂きました。今後、この形態のビジネスを強化・拡大して行く予定です。

今後も当社はこのような便利なツールを運用し、農業に新たな付加価値ビジネスを展開していきます。

「生産者は、強し!」です。顧客との直結ビジネスをどんどん広げて行きますので、当社の取り組みに興味ある農家さんは、ぜひご連絡いただければと思います。


Optimal Second Sight
https://www.optim.co.jp/remote/secondsight/
株式会社パーシテック
https://persitech.securesite.jp/

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。