スマートグラスを農業で活用する2つの目的【富有柿農家・水尾学のスマートグラス活用日記 第3回】

滋賀県北西部の高島市今津町で「富有柿」を栽培している柿農家の3代目、水尾学(みずおまなぶ)です。2代目である父の成(しげる)と共に、日々農業に励んでいます。

前回のコラムでは、私がスマートグラスを利用する目的についてお話ししました。

今回は、先日私が農業関係団体・農業法人・農家さんたちとスマートグラスに関して意見交換した際にうかがった、スマートグラスの利用用途について整理してみます。私自身、スマートグラスを利用する目的によって、さまざま効果を期待できることについて知る機会となりました。



農業関係者がスマートグラスに求めるもの

意見交換会で皆さんからいただいたスマートグラスに求める要望を集約すると、スマートグラスには「技能の伝承」と「作業の時間短縮」という2種類の用途が考えられます(2種類が連動するケースもあります)。

●技能の伝承

まずは「技能の伝承」についてですが、以下のようにさらに2つのケースに分けることができます。

  1. 農業従事者の育成全般にわたる技能伝承
  2. 特定の工程だけに特化した技能伝承

農業従事者の育成全般にわたる技能伝承
こちらは、私が代表を務める株式会社パーシテックで展開している、一連の農業従事者育成の過程で必要な作業を遠隔で教えていくケースです。新人の教育など、ベテランが一連の作業を幅広く伝授する目的で利用しています。

このケースでは、遠く離れた圃場・関連会社の園地や、100kmを超える圃場での作業指示の要望などもあります。

また、作物は一斉に成長しますので、複数の圃場に対してベテラン作業者が多くの圃場を管理したい(1対複数の指示がしたい)という要望もあり、その場合にも使えます。イメージとしては、“鵜飼い“の『鵜匠』と『鵜』のような感じです。

作業指示の場合、作業内容にもよりますが、ベテラン作業者は複数台のモニターを周辺に置いて複数個所の圃場に指示するような形です。作業の指示順などをあらかじめ決めておけば、簡単な指示であれば3~4カ所に対して連続的に指示を出すことも可能になると思います。

特定の工程だけに特化した技能伝承
こちらは、大規模農業法人などが収穫時期に一気に大量のアルバイトを採用した際に、彼らに収穫判断のみを教えていくといったケースです。

現在使っている遠隔システムは、マーキング指示など言語にとらわれない対応が可能であることから、外国人作業者を採用した場合でも大きな効果が期待されます。

この用途に関しては、私自身が展示会で説明員として参加した際に実感しました。私たちの運用事例を見ていただいたときに、海外の方が非常に多かったからです(10名中6~7名くらい)。

実際に、スマートグラスを介してマーキングを指示したサンプル果物の“間引き体験”をしていただきましたが、ビジュアルでの指示のため、共通の言語を持たない相手でも作業の意図が問題なく理解できることが実証されました。

●作業の時間短縮

スマートグラスの2つ目の大きな使用目的は、情報伝達のツールとして作業の時間短縮を目的とするケースです。「技能の伝承」と同じように、さらに2つに分類できます。

  1. 通常作業の一環として利用するケース
  2. イレギュラーな作業に利用するケース

通常作業の一環として利用するケース
大規模農業法人で多くみられるケースですが、広大な土地で農作業を行っている場合、複数の圃場・園地を見回る・管理するために、たくさんの時間を要してしまいます。そのようなケースにおける時短目的での採用です。

圃場ごとに、圃場リーダーに遠隔で情報を映像で送るようにしたり、作業開始時間を決めたりしておけば、複数の圃場から効率良く情報が送られ、確認できるようになります。

イレギュラーな作業に利用するケース
一方、圃場の作物が病気による被害を受けたときなど、農業関連組織の専門担当へ作物が持ち込まれるケースがあります。

そういった場合、専門担当は病気が発生している現場へと足を運ぶことになりますが、事前に圃場から作物の状態や周辺環境などの情報が専門担当に伝わっていれば、専門担当も現状を把握しやすくなり、原因・対策の絞り込みができるという見解が寄せられています。

農家さんから第1報で映像情報が送られれば、従来行っていた現場確認作業を含め、専門担当が現地へ足を運ぶ回数を削減できると期待されています。イレギュラーな対応を減らせれば、削減できた時間を他の作業へ振り替えられるなど効率化にも繋がるでしょう。


ソフトウェアが実現するスマートグラスの優位点


「技能の伝承」にしても「作業の時間短縮」にしても、現場レベルではスマートフォンやタブレット端末でも対応可能なケースもあります。収穫すべき時期を写真や動画で参照したり、リーダーが各アルバイトに作業指示を送るといったケースです。

しかしこれらのハードウェアにはない“両手を自由に使える”という特徴が、スマートグラスが農業現場で支持される最大のポイントだと思います。

前回のコラムで、私と私の父の経験を通じ、スマートグラスによる遠隔指示機能が農業従事者の現役期間の延長を期待できることについてお話ししましたが、このスマートグラス用ソフトウェアには他にも、マンパワーに依存する従来どおりの方法にはない、以下のような優位点があります。

  • 作業中の画像・映像を録画できる
  • 録画した画像・映像を作業者が判断に迷うケースや新人教育のために利用できる
  • 作業位置(視点)を三次元的な角度から指示できる

スマートグラスは作業の邪魔になるのでは? と心配に思われる方もいるかもしれませんが、私が使用している製品以外にも、天気を問わずに屋外で作業できる「防塵防滴タイプ」、長時間使用しても作業者への負担が少ない「軽量タイプ」、よりコンパクトな「片目で見られるタイプ」など、さまざまなスマートグラスが市場に出回っています。こうした製品のいずれも、私が使用しているソフトウェアで動作可能ですので、ご自身の農作業の特性に合った製品を選択すればいいと思います。

現代に生きる人々がスマートフォンを持ち歩くのと同じように、いずれ農業従事者がスマートグラスを持ち歩くことが当たり前の時代になり、効率のいい情報共有方法の下で指導を仰ぎ、仰がれる時代になると、私は考えます。

次回は、ドローンとスマートグラスについて、その便利な使い方をご紹介したいと思います。

<参考URL>
Optim Second Sight
株式会社パーシテック
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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