農産物を直接「目」で見て買える安心感 ──スマートグラスの新たな活用法

「SMART AGRI」にて、技能承継のためにスマートグラスの活用法や課題についてのコラムを執筆いただいている株式会社パーシテックの水尾学さんが、11月19日、東京・日本橋にある滋賀県のアンテナショップ「ここ滋賀」にて、スマートグラスの実演デモを行いました。


といっても、今回のデモは父から息子への技能承継のデモではありません。日本橋のアンテナショップから、遠く離れた水尾さんの農園にある富有柿を選び、収穫する、というものです。

■水尾学さんの連載「富有柿農家のスマートグラス活用日記」はこちら
IoTを駆使した柿栽培への挑戦
スマートグラスが高齢農家にもたらすもの
スマートグラスを農業で活用する2つの目的

スマートグラスを活用して消費者自身が柿を選ぶ

前述のとおり、水尾さんが取り組むスマート農業アライアンスのプロジェクトのひとつ、「Optimal Second Sight」は、富有柿を長年作ってきた父から、スマートグラスの映像を通して枝の選定や間引き、摘果の時期などを遠隔地から指示するというものです。農園まで足を運ぶのが難しい父親でも、インターネットとパソコンさえあれば的確な指示が出せます。このような使い方のため、スマートグラスを活用するのは主に収穫前まででした。

「富有柿の育成段階では、摘果や間引き作業などを(父などの)指示を受けてやっていたんですが、柿が実って収穫段階に入ってもこのシステムが使えるんじゃないかと気がついたんです。それで、昨年知り合いの子どもにスマートグラス越しに自分が欲しい柿を選んでもらったら、とても楽しそうだったので、今回『ここ滋賀』さんでデモをやらせていただきました」


店頭デモの流れはこうです。

水尾さんの農園のスタッフがスマートグラスをかけて滋賀県の農場に待機します。「ここ滋賀」のお客様はパソコンから良さそうな柿を選び、マウスでクリックしたり囲んだりして指定し、選んだ柿にシールを貼ります。そのシールを貼った柿が、注文した人に郵送で届くという仕組みです。

実際にデモも体験してみましたが、スマートグラスを通して見た柿の色やかたちはしっかり確認できましたし、見えない場所に移動して確認してもらったりすることも簡単です。見ている木とは別の木を見せてもらったり、実際に会話しながらおいしそうな柿のアドバイスをもらうことだってできます。


「私たちの富有柿もネット購入はよくありますが、いい柿が採れなかったり、送られてきた柿が良くなかったという話もあります。スマートグラスを使うと、お客様自身が買いたい柿を見て、選んでいるという安心感がありますし、なにより自分で好きな柿を選んで採る喜びもありますよね。

それから、(スマートグラスを使うことで)遠隔地が大消費地のマーケットにダイレクトに入っていけます。それによって、地方の農産物がPRできるんですよね。新たな流通というか、ダイレクトに商品を見てもらえて届けられるという点は非常に大きいです。

実際、『ここ滋賀』のような都道府県の施設などでやらせていただいて、評判がよければ他の農産物でやることもできますしね」

農産物のネット通販に自由と安心を

「今年はたび重なる台風の影響で富有柿の収量もかなり落ちた」という水尾さんですが、ドローンによる画像認識やスマートグラスによる技能承継などを駆使して大切に育てられた「スマート柿」は、富有柿というブランドとスマートグラスのデモのおかげもあってか、アンテナショップに訪れたお客さまからの注目度も上々でした。

「Optimal Second Sight」を活用すれば、地方の農家がインターネットにつながったスマートグラスをかけるだけで、全国どこからでも現地の農産物を直接目で確認し、自分が欲しい農産物を指定して購入することだって不可能ではなくなります。

現実には、水尾さんの農園でも、このようにスマートグラスを活用した富有柿の販売はしていません。現状のハードウェアやネットワークのコストなどを考えると、インターネット経由で気軽に農産物を選べるようなシステムはまだまだ難しいでしょう。

しかし、農業IoT技術は今後、農家の高齢化や技術伝承・承継の課題解決だけでなく、相手が見えない消費者と農家とを直接結びつけることで、信頼感と安心感のある農産物の流通にも一役買ってくれるかもしれません。


<参考URL>
株式会社パーシテック
Optimal Second Sight
スマート農業アライアンス
ここ滋賀 -COCOSHIGA-

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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。