IoTを駆使した柿栽培への挑戦【富有柿農家・水尾学のスマートグラス活用日記 第1回】

SMART AGRIをご覧のみなさん、初めまして。

滋賀県北西部の高島市今津町で「富有柿」を栽培している柿農家の3代目、水尾学(みずおまなぶ)です。2代目である父の成(しげる)と共に、日々農業に励んでいます。


実は、私が父と共に柿作りを始めたのは3年前からで、それまでは約30年間、電子機器関連の仕事に従事しておりました。

父は柿づくり歴60年の86歳で、現役柿農家です。近畿農政局長賞など、多くの賞をいただき、全国に多くのファンを持っています。銀座の飲食店などでも、多く取り扱われています。

当時、全国でお世話になった方々に実家の柿を配ったところ、たくさんの方からお褒めの言葉をいただきました。そして、ふと親の高齢化と、身近にこれほど競争力のある「富有柿」があったことに気づいたのです。多くのファンを持つ父の「富有柿」を受け継ぎたいと、実家で共に農業をしていくことを決めました。

しかし、これからの農業はITの時代と世間では騒がれています。なので、私は今までと違った承継の仕方をしてみようと考えました。今後、若者にとっても魅力のある農業になるように、そして地域PRにつなげるために、これまでの農業の立ち位置を変えるべく日々挑んでいます。

IoTと農業を結びつけたい

現在、実家の柿農地を実験場にした、IoTを駆使した農業の取り組みを展開しています。

まず、長年の感と経験からの“物づくりを”引き継ぐために行っているのが、“見える化”の実現を目指した3つの要素です。

1.センサー類によるデータの収集
2.ドローンによる、園地の映像データ記録
3.スマートグラスを用いた遠隔地からの作業指示による技能伝承
→最終目標は、AI化による農業の実現!

では、一つずつ具体的にご紹介していきます。

(1)クラウド型センサーで日々のデータを記録

うちの農園では、園地データの収集のためにハウス向けに開発されたクラウド型センサー(メーカー製品:県下初利用)を、露地向けに改造して運用しています。このセンサーで収集できるデータは、気温・湿度・土壌水分・日射量の4つ。これらを定点カメラで画像におさめて記録しています。

使用しているセンサーは、上述している通りハウス向けのもの。そのため、電源が確保しやすいハウスでの利用を想定して作られていました。そこで、装置の電源供給をバッテリー・ソーラーパネルに改造。雨・雪や、高温・低温に耐えられる機器収納・獣害による機器損傷対策などの工夫を重ねての運用です。


特に、露地は気候が一定していないので、果実の育成への影響がわかりづらいのですが、約3年間の運用で、感覚的だった判断基準を、データとのすり合わせによって “見える化“できつつあります。

また、このバッテリーシステムは、センサー類を作動させるだけのものではなく、農作業中にスマートフォンやタブレットなどを充電するいわば、充電ステーションとしての役割も担っています。農業関係者の休憩場所兼コミュニケーションの場としても一役買ってくれているようです。

(2)上空から確認でわかりやすく! ドローン活用によるメリット

現在、世間でも注目を集めているドローン。農薬の散布にも使用するという話を聞いたことがある人も多いでしょう。実は、私の農園でもドローンを使用しています。

しかし、使っている目的は農薬の散布ではなく、柿の実の育成段階を記録するため。木の上の方に実をつけた場合、作業漏れということがどうしても起こってしまいます。そんな漏れをなくすために、空撮映像を見直して確認をしているのです。


これによって、これまで見逃していた角度からも見ることができます。それによって生じるメリットの一例は、鳥害の発見です。果樹の場合、下からでは確認できない部分も多く、鳥害の被害に遭っている実を見逃している場合も多くありました。野鳥対策はしていますが、それも完全ではありません。鳥につつかれると、残念ながら商品にはなりません。これが早期発見できると、商品にならない実は早い時期に取り除くことができ、他の実に栄養を回すことが可能となります。これまで以上に、効率的に質のいい商品を作れるというわけです。


そして、先ほどご紹介したセンサーによって抽出したデータとドローンの記録映像を対比することで、年間の育成過程もさらに分かりやすくなります。

また、このドローンで撮影した映像には他にも使い道があります。それは、地域の柿のPR活動での使用。果樹の育成管理のためだけでなく、PR動画としても利用できるなんて、なかなかお得ですよね。

(3)離れた場所にいる父と作業をする!? ……ITの力でノウハウの伝承

父も86歳と高齢で、徐々に足腰が悪くなってきています。調子のいい時は園地に出向いていますが、そうでない時も増えてきています。本来ならば、若い間に同じ園地で作業ノウハウを伝承していくことが理想ですが、私はそれができませんでした。そこで、現在は「スマートグラス」を使っています。

スマートグラスは、グラスを通して見る風景と、グラスに映し出された映像を重ね合わせて見ることができるヘッドセットです。ポケットWi-Fi経由で4G(LTE)にてインターネットに繋いでおり、私が作業中にカメラ付きのスマートグラスを付けると、自宅のパソコン画面にはスマートグラスから送られたカメラ映像が映し出されます。その映像を見て、父が画面を通して私に指示を出します。


例えば、摘果作業や果実の間引き作業の場合、画面に映った果実の集まりに対して、父親がペンタブレットで削除する果実にマークを付けます。すると、付けられたマークは園地の作業者のスマートグラスにも表示され、削除すべき果実の識別が現場で行えるのです。私は、その送られてきた指示に従って摘果や果実の間引きをします。優れた専用ソフトにより、離れた場所からの作業が可能となっているのです。

ただし、この作業をスムーズに行えるようになるまでの道のりはなかなか険しいものでした……。

次回は、スマートグラスを取り入れることによって新たに生じた課題と、それをどう解決していったのか、ということについて詳しくお話ししていきたいと思います。


Optimal Second Sight
https://www.optim.co.jp/remote/secondsight/
株式会社パーシテック
http://www.persitech.com/

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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