日本最大の農業展示会「第9回農業Week」で見つけた注目アイテム<アシストスーツ編>

2019年10月9日(水)~11日(金)、第9回農業Weekが千葉県幕張メッセで開催された。同イベントは、国際次世代農業EXPO、国際農業資材EXPO、国際6次産業化EXPO、国際畜産資材EXPOの4展で構成される展示会だ。スマート農業関連製品、植物工場、農業資材、加工品販売機器やサービスなど、テーマに沿った製品やサービスが展示されていた。

そんな農業Week展示物のなかから、編集部の注目アイテムを紹介していく。

今回は「アシストスーツ」編だ。アシストスーツとは、外骨格型あるいは衣服型の装置のことで、電気や人工筋肉などの力により、荷物の持ち運びや歩行などの負担を減らすようにサポートする製品。


アシストスーツ市場は2019年から伸びていく

農業展示会においてアシストスーツを目にするようになって、もう何年も経つ。そのアシスト効果には少なくない期待が掛けられているが、農業の現場での採用例は、期待通りには増えていない印象だ。

それは数字上でも表れている。日本能率協会総合研究所が2019年2月に発表した推計によると、アシストスーツの市場規模は2018年度が2000台で、前年度から横ばいである。この数字には物流現場や介護での使用も含まれているから、農業分野での使用例が増えていない、という感覚は大きく外れていないようだ。

ところが同推計によると、アシストスーツの市場規模は2020年度には4500台、2023年には8000台と、2019年度を境に大幅に伸びていくと予想されていた。その理由が、この展示会でも明らかになったように思われる。では展示物を紹介して行こう。

「サポートジャケットEp+ROBO」
電動ながら圧倒的な軽量化と低価格を実現


最初に紹介するのは、物流パレットのレンタル・販売を主業とするユーピーアール株式会社(upr)の『サポートジャケットEp+ROBO』。同社による自社開発、自社生産品である。

物流の現場に極めて近い同社に対して、現場からアシストスーツへの要望が度々舞い込んだことから、新規事業としてアシストスーツ分野に参入。動力タイプと無動力タイプのラインナップ化を果たしていたが、今回の『サポートジャケットEp+ROBO』では、動力タイプにおける圧倒的な軽量化と低価格化を実現した。


「軽量化を実現できた秘密は、構造の見直しにあります。背面のフレームを廃して、前押し式としています。だから後ろから見ると、非常にスッキリしていますよね。

背面にフレームを配置すると、作業者が前にかがんだ際に“遊び”ができてしまうから、アシスト力が逃げてしまうのです。そこで当社では小型のフレームを横から前に向けて配置。前押しタイプという新しいアシストスーツを完成させました。


重量はバッテリー+モーターで駆動する動力型でありながら、わずか3.4kg(バッテリー込み)です。当社調べでは、業界最軽量クラスを実現したと自負しています」と教えてくれた。補助力は10kgf。動力タイプとしては控え目ながらも、必要にして十分のアシスト力は確保している。

もう一つの注目ポイントは価格。オープン価格であるため販売価格は販社により設定されるが、筆者の調べによると、一般的な動力型アシストスーツの半額ほどになると思われる。これは動力型アシストスーツ導入の障壁となっていた価格面で、一つのブレイクスルーになるのではないだろうか?

10月1日に発売が開始されたばかりだが、すでに多数の問い合わせが来ているという。電動タイプのアシストスーツの購入を検討している方には、ぜひ知ってほしい商品だ。


「マッスルスーツ Every」
圧縮空気を動力にすることで低価格化を実現


続いてご紹介するのは、ユアサ商事株式会社が展示していたアシストスーツ。ユアサ商事の創業はなんと1666年、会社設立は1919年というから、今年で設立100年周年を迎えた老舗企業である。

同社もまた上掲のユーピーアールと同じく、物流の現場からの要望に応える形で、2016年よりアシストスーツの販売を開始した。2019年11月1日に発売が開始される予定の新商品を解説してくれたのは、新事業開発部長であり執行役員の千葉岳雄氏だ。


「このアシストスーツは、東京理科大学発ベンチャー企業の株式会社イノフィスの製品で、商品名は『マッスルスーツ Every(エブリィ)』です。イノフィスとリコーエレメックス株式会社が生産受託サービス「REX DIA(レックスダイヤ)」を通じて量産を行う協業連携によって量産化に成功。13万6000円(税別)という大幅な低価格化を実現しています。

最大の特徴は、アクチュエーターに空気を駆動源とする人工筋肉(McKibben型人工筋肉)を使用していることです。これにより、なめらかで自然な動きでありながら、最大で25.5kgfという強いアシスト力を実現しています。


搭載されている手動式ポンプで圧縮空気を蓄えてから使用します。電力を必要としないので、屋外や水場での使用も可能ですから、農業でも安心してお使いいただけます」と解説してくれた。

本体重量は3.8kgと軽量な部類に入る。十分なアシスト力を有しながらも圧倒的な低価格化を実現した『マッスルスーツ Every(エブリィ)』。これもまた注目したいアシストスーツである。

「Way-sist 腰アシストスーツ」
バネの力とワイヤーロープでアシスト


最後にご紹介するのは、トヨフレックス株式会社の製品「Way-sist」だ。

同社の主業はミニチュアワイヤーロープ。医療機器分野や産業機器分野等、多岐に渡る業界、業種でワイヤーロープが採用されている。具体的には、自動車業界で車のスライドドアや窓の駆動用として、その他にもOA、建材、レジャー業界等で強くてしなやかなワイヤーロープが役立てられている。

そんな同社が2年前に新規事業としてアシストスーツに参入。企画から設計・開発・生産まで、全て自社で行っている。


展示していた「Way-sist」は腰をアシストするためのスーツ。製品の根幹を成す駆動部には、同社の強みであるワイヤーロープの技術が使われている。ワイヤーロープがぜんまいバネと組み合わされた、画期的かつシンプルな駆動部である。だから電力を必要としない。

立っている状態では、ぜんまいバネは巻かれた状態にあり、前かがみになるとバネが伸びる。持ち上げる時に発生するバネ戻る力で作業をサポートする、という仕組みだ。アシスト力は最大8.76kgfと控え目だが、実際に作業をアシストするには十分。重量は3.8kg、販売価格は34万8000円(税別)である。


今後は駆動部のスリム化と、普通の服のように着ることができる手軽さ、それに更なる低価格化を目指して開発を継続して行くという。独創的な電力を必要としない駆動部は農業向きである。今後の開発に期待したい。


動力の多様化と低価格化が進んだことで普及期に入る

機能的に有用なアシストスーツは少なからず存在していたが、その普及は価格により阻まれていたと言える。ところが本記事で取り上げた3製品が象徴的するように、アシストスーツの動力が多様化し、電気を使用せずとも十分なアシスト力を得られる軽量モデルが登場した。また、電動アクチュエーター搭載モデルでも、大幅な低価格化が進んだ。

今更言うまでもないが、日本では農業従事者の高齢化が進んでおり、労働効率の向上も喫緊の課題となっている。

アシストスーツは今後、農業の現場においても普及期に入って行くに違いない。


研究開発情報:トヨフレックス株式会社
サポートジャケット Ep+ROBO
腰アシストスーツ 「Way-sist」


【特集】「第9回農業Week」で見つけた注目スマート農業ソリューション
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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