いま取り入れたいイタリア発祥の「スローフード」とは

イタリア発祥の「スローフード(Slow Food)」を、安価で手軽に食べられるファストフードの対極の言葉として認識している方も多いと思いますが、日々の食生活を今一度見直すことで心から食を楽しもうという考え方が基本となっています。

今回は、スローフードとは何なのか、またどのような食べ物のことを指すのかをはじめ、日本で行われている取り組みを紹介します。

スローフードとは


「スローフード」は、イタリア発祥のその土地の食文化を守るための社会運動です。その土地ならではの伝統的な食材や郷土食を食べることを推奨しています。

日本の代表的なスローフードと言えば、お米をはじめ味噌や醤油といった調味料のほか、各地の伝統野菜、お正月などの年中行事の際に食べられる料理もスローフードのひとつと言っていいでしょう。

現代では食生活の欧米化や日々の忙しさから、このような食品を食べる機会が減ってきているのが現状です。簡単に時間をかけずに食べられる食品は忙しい現代人に欠かせないものではありますが、その地域でしか食べることのできない食材を守り、次世代につないでいくことが、持続可能な社会を築くために重要だと考えられています。


おいしい・きれい・正しいがキーワード


もともと、スローフードは1980年代にイタリアで始まった運動で、その後ヨーロッパの各国でスローフード協会が設立されました。現在では日本も含めた160カ国以上に広まる国際的な組織となっています。

スローフード協会では、「おいしい・きれい・正しい」をスローガンに掲げ、地域ごとに根付いた食材や食文化を継承していく取り組みを行っています。

おいしい(GOOD)
新鮮でおいしく健康的であること
きれい(CLEAN)
環境に負荷を与えない生産方法であること
ただしい(FAIR)
生産に関わる者すべてに適正な賃金と労働環境を提供すること

スローフードはいつもよりも時間をかけて食事を楽しむことだけではなく、生産量の少ない食材やそれらを提供する生産者を支えていくことにもつながります。


スローフードを取り入れるメリット・デメリット


スローフードを取り入れた生活を送るメリット・デメリットを見ていきましょう。

メリット


  • 健康的な食事につながる
スローフードは糖質・脂質・塩分が多いファストフードやインスタント食品と比べて、健康面での満足度が高い食事です。日本のスローフードとも言える日本食(和食)は、特に栄養バランスが優れています。

  • 環境にやさしい
その土地で採れた食材を積極的に食べるので地産地消にもつながり、食材を輸送する際に発生するCO2を削減できます。環境負荷の小さい方法で生産を行う小規模生産者の支援にもなります。

デメリット


食材にこだわって料理をしなくてはならないスローフードは、早さと安さが特長であるファストフードよりもどうしても時間とお金が必要になってしまいます。毎日の食事でしっかりと実践しようとすると疲弊してしまうかもしれません。時間に余裕のある休日など、いつもの食事を基本に少しずつ取り入れてみるのがおすすめです。


日本にはどんな食品がある?


スローフード協会では、伝統的な食材を守るプロジェクトとして「味の箱舟(ARK OF TASTE)」という取り組みが行われています。通称アルカと呼ばれ、このままではなくなってしまう伝統的な食文化や固有の農産物を守るために、世界共通のガイドラインを制定して生産や消費を支援していく活動です。

現在世界中の5000以上の食品が登録されています。

日本で登録されている食材を一部紹介


・北川村実生ゆず
高知県安芸郡北川村の全域で生産されている「北川村実生ゆず」は、ゆずの中では珍しく種から育てる実生栽培によって栽培されているのが特徴です。大きいものだと樹高が10mにもなる木が多い中、ひとつひとつ手作業で収獲するため作業が大変で、高齢化による生産者の減少も問題となっています。

・二ホンミツバチ
日本固有のミツバチである「二ホンミツバチ」は、セイヨウミツバチにはない独特のコクと風味を持ったはちみつを生成するのが特長です。棲み処としていた自然林が減少したことなどを原因に、二ホンミツバチの数も減少しつつあります。

・祖谷のソバ
「祖谷のソバ」は徳島県三好市東祖谷で代々受け継がれてきた在来種のソバです。徳島県では、脱穀したソバの実を煮て干した「そば米」など特徴的な食べ方がされています。この地域では少子高齢化が進み、住民自体も減ってきていることから農業の担い手が減少しているため、ソバをはじめアワやヒエなど雑穀生産が衰退し始めているのが現状です。

イタリアの食育とも言えるスローフードは、豊かな食文化を持つ日本でもぜひ広げていきたい取り組みですね。

忙しい毎日の中で完璧に実践するのは難しいと思いますが、食材や生産者に思いを馳せながら食事をしてみるのも有意義な時間の過ごし方になるのではないでしょうか。


日本スローフード協会
https://slowfood-nippon.jp/

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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