シカゴで実感したアメリカのインフレと日本食【海外コラム・よないつかさのシカゴ 食&農レポート 第1回】

みなさま、はじめまして! アメリカ(シカゴ)在住のよないつかさと申します。

大学卒業後は農協に5年勤めておりましたが、夫の転勤でアメリカへの帯同を機に退職しました。新米ママでもあり、0歳の男の子と一緒に暮らしております。


今回縁あってSMART AGRI編集部の方から、アメリカのリアルな食や農業の情報を書いてほしい、とのご依頼をいただきました。私の日々の生活の中で書ける範囲ですが、海外の食と農の話題や、海外に住むことで見えた日本の食と農の話題について、発信していきたいと思います。

シカゴの冬

アメリカで感じた驚きの物価高


アメリカでの生活や子育てなどは、わからないことだらけでした。0歳児用のチェダーチーズスナックがあったり、赤ちゃんが熱を出しても、まずは病院に行かず、市販薬で治したり……(医療費が高いため)。

そんな中、最も強く感じたのは物価の高さでした。

日本のニュースでも、「ラーメンが1杯2800円」など、アメリカのインフレによる物価高については報道されていると思います。日本と同じようにアメリカも地域によって、外食の値段に差がありますが、ニューヨークやロサンゼルス、シカゴの都市部はチップも高くなることから、とにかく外食費が高いです。

実際こちらに来てみると、生活に欠かせない食材などから、日本との物価の差を感じました。

シカゴで売っている卵

ここシカゴではなんと、卵が12個1パックで約760円(5.69ドル。1ドル=133円換算。以下同)。これはオーガニック卵でもブランド卵でもなく、日本でいう大手スーパーの一番お手頃なプライベートブランドの商品なのです。

値段の高さもさることながら、値上がり幅にも驚いております。なんと1年半前、同じ商品の卵1パックは250円ほどでした。この短期間で約3倍も値上がりしたのです……。

この現象は、「インフレーション」とかけて「エッグフレーション」と呼ばれています。鳥インフルエンザにより4900万羽以上が殺処分されたことも背景にあります(※1)。

アメリカでの1カ月の食費


私は家族3人暮らし、夫(30代)、私(20代)、息子(0歳10カ月)で食費は月平均600ドル、日本円にすると約7万5000円です。

あれ? 物価高の国にしては意外と安いな、と思われた方もいらっしゃると思います。

ですが、悲しいことに外食は月に1回しかしておらず、夫も私も、朝・昼をまとめてシリアルやバナナでやり過ごしています。つまり、まともに食べているのは夜のみです。

子どもは離乳食を手作りして、1日3回食べています。まだアメリカに来たてで子どももいない頃、なにも考えずに買い物をしていた時期には、食費が月13万円になったことがあります。これではやっていけないということで、今の節約生活に至りました。

日本よりも安い食品は、アメリカ現地生産食品


アメリカは物価が高い、とよく言われますが、実は日本より安いか、同じ価格帯の食品はあります。

例えば、アメリカで国内生産されている小麦などを使用した商品です。

バタ―

参考価格(1ドル=133円換算)
  • 食パン(560g)  2.49ドル=約330円
  • バター(454g)  4.99ドル=約670円
  • パスタ(454g)  0.99ドル=約133円

これらの食料品の身近さは、日本で言うとお米や緑茶などですね。円安を加味しても非常に安く感じませんか?

アメリカ小麦は世界的な大規模農場である上、生産コストと販売価格の差額に不足が発生した場合には一部差額を補填する(価格損失補填)などの農業保護策があります(※2)。そのため、安定した価格で小麦製品を提供できていると考えます。

これとは逆に、日本製品はいくつか普通のスーパーでも見かけますが、本当に高く手が出せないモノになっています。


アメリカ人になじみのある日本の食品といえば?


私の住んでいる地域は特別日本人が多い場所ではありません。それでも、普通のスーパーにも日本のモノが並んでいます。

例えば、しょうゆ、海苔、豆腐、お寿司、カップラーメン、ハイチュウ、ポッキーなどがあります。

日本のお菓子

しょうゆ

緑茶

参考価格(1ドル=133円換算)
  • キッコーマンしょうゆ(444ml) 4.29ドル=約570円
  • ポッキー(2袋入り) 2.39ドル=約320円
  • 緑茶(190ml) 2.29ドル=約305円

これらは日本企業の商品(しょうゆはキッコーマン、カップラーメンは日清やマルちゃん、緑茶は伊藤園)であることが多く、アメリカでも人気があります。

さらに興味深いのが、アメリカでは「Teriyaki」という名前のソースや味付けが人気なのです。スシロール(アメリカナイズされた日本の海苔巻き)に、テリヤキ味のソースがかかっていることがよくあります。
てりやきソースが乗ったエビの天ぷらロール

「テリヤキ」という言葉はアメリカ人に言っても必ず通じる、数少ない日本語なのでは……と感じます。

ですが、こんなにテリヤキが一般的であるにも関わらず、マクドナルドには日本と同じテリヤキバーガーはありません。言葉や味付けとして一般的ではあるものの、ハンバーガーと組み合わせるほどのテリヤキリテラシーはないのかな、と感じました。

お米=日本というイメージの根強さ


また、こちらも興味深いお米の話です。

明らかにアメリカ産であり、アメリカ企業が生産しているにも関わらず、日本語の商品名を付けていることが多くありました。

アジアンスーパーに行かない限り、日本米の購入は基本的にできません。お米が主食の生粋の日本人である私は、渡米したての頃は苦労しました。

アメリカの高級スーパー(ホールフーズ・マーケット)に行った時に、「Sushi Rice」という商品を見つけたので、「すし! 日本語だ! これは美味しいかも」と思い購入しました。しかし、日本米とは関係なく味が薄くて硬く、日常的に食べていたお米とはほど遠かったです(好みの問題かもしれませんが、私はいわゆる日本米のほうが好きでした)。

「Sushi rice」

そんな時に出会ったのが、「錦」というカリフォルニア米です。中粒種のカリフォルニア米に日本語で商品名を付けて販売するというのは、アメリカでもお米=日本というイメージが定着している証拠のひとつだと思います。

「錦」のパッケージ

この「錦」は、我が家と同じようにアメリカに駐在している日本人の中でも人気が高く、肥えに肥えた日本米大好きな私の舌でも、普通に美味しく食べられます。ですが、日本米のあのもっちり感と甘味にはかなり劣ると言いますか、違うものに感じます。

このように、普通のスーパーにも日本語で名付けられた、アメリカ産のお米が並んでいます。


さまざまな種類のお米


日本では、スーパーのお米の棚のほとんどが日本米だと思いますが、アメリカでは私たちに馴染みのあるジャポニカ米のほかに、長粒種のインディカ米も普通の選択肢として販売されています。

参考価格(1ドル=133円換算)
  • 「Sushi rice」(907g)  8.99ドル=約1200円
  • 「錦」(4.54kg)  6.73ドル=約895円
  • インディカ米(454g)  1.29ドル=約172円

さまざまなバックグラウンドの方が住んでいますから、各方面で需要が高いのだと思います。

ですが、アメリカでの主食は主にパン。牛乳を1本3.89リットルで販売するほどなんでもサイズの大きいアメリカでも、お米の1パックのサイズは日本人から見ると小さめです。先ほど紹介した「錦」は1パック4.54kgしかありません。

ちなみに、我が家の炊飯はガスコンロで炊く土釜炊飯器を使用していますが、アメリカで販売されている炊飯器では、
  • 白米
  • 玄米
  • もち米
  • 長粒白米
  • ジャスミンホワイトライス
  • バスマティ白米
  • スチールカットオーツ麦
  • キヌア
  • ワイルドライス

など、たくさんの種類のお米の炊飯に対応しています。ここでも文化の違いを感じますね。


アメリカナイズの面白さ


こちらで紹介した商品の値段等は、地域によって異なる場合があります。ニューヨークではもっと高いかもしれませんし、郊外などはもっと安い可能性があります。あくまでシカゴを基準に執筆しましたが、アメリカで最初にスーパーに行った時は、「こんなに小さなお米しか置いてないの?」と驚きました。

カップラーメンにはテリヤキ味があったり、日本発祥のモノだけれど日本人の感覚にないような商品もあり、アメリカナイズの面白さを楽しんでいます。

もし読者の方々の中で、日本とアメリカでどんな違いがあるのか、知りたいことがありましたら、ぜひSMART AGRI編集部までお寄せください。

今後も、シカゴから現地のリアルな情報をお届けしたいと考えています。またお会いしましょう。


※1 国際安全衛生センター U.S. Approaches Record Number of Avian Influenza Outbreaks in Wild Birds and Poultry
https://www.cdc.gov/flu/avianflu/spotlights/2022-2023/nearing-record-number-avian-influenza.htm
※2 農林水産省 米国の農業政策
https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_seisaku/usa.html


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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