アメリカで進化を遂げた「日本食」のいま【海外コラム・よないつかさのシカゴ 食&農レポート 第3回】

「SMARTAGRI」をご覧のみなさん。こんにちは。アメリカ(シカゴ)在住のよないつかさです。

今回は、アメリカで一般化している「日本食」の実態について調査していきたいと思います。

「和食」という言葉がユネスコ無形文化遺産にも指定されていますが、今回の記事の中の「日本食」は、一汁三菜といった文化を含む「和食」とは異なるものとして扱います。


訪日外国人をインタビューするテレビ番組などで、日本にきたアメリカ人が「日本食を食べることが楽しみの1つ」と言っている光景をよく見かけます。日本食は世界的に認められており、特に「寿司」はここアメリカでもかなり一般的な食べ物として流通しています。

ただし、訪日アメリカ人の「日本食を食べることが楽しみの1つ」という言葉には、裏を返せば「アメリカで流通している日本食は、本場の日本とは違う」という意味も含んでいると思います。

日本食レストランはアメリカの大きい街であれば必ずありますし、特に「寿司」は一般的なスーパーであれば寿司コーナーがあることがほとんど。つまり、寿司を通してお米の食事はかなり一般化してはいるのです。

そこで今回はアメリカの日本食について、日本の日本食とどのような違いがあるのかを調査して、日本のお米や食材の輸出をどうしたら実現できるのかを、消費者目線で考えてみたいと思います。

アメリカで最もポピュラーになった「日本食」 3料理


アメリカで一般的な日本食は、「寿司」「ラーメン(豚骨ラーメンが多い印象)」「餃子」などです。中でも「寿司」がずば抜けて人気ですが、「ラーメン」も負けていません。

ここでは、具体的にどのような違いがあるのか見ていきたいと思います。

寿司


寿司は先ほども申し上げたように、スーパーに寿司コーナーが設置されているほどに人気です。お店で食べられることも多く、専門店も点在しています。

しかし、にぎり寿司に加えて、日本人には想像し難い「スシロール」という海苔巻きも同様に一般的です。

日本でもだいぶ浸透してきたアボカドとサーモンのカリフォルニアロールをはじめ、エビの天ぷらにテリヤキソースをかけたものや、スパイシーソースをかけたものなどがあります。


今回は調査のために、地元で人気の寿司バーに行ってみました。


メニューにはにぎりの他にスシロールや日本酒、お味噌汁などが充実しています。

今回は、スシロールを2品注文してみました。



1つ目のスシロールは、鮭・アスパラガス・ねぎ・クリームチーズの海苔巻きが天ぷらの衣で揚げられ、甘いしょうゆタレがかけられています。(約1596円。12ドル。1ドル=133円換算。以下同。)

2つ目のスシロールは、まぐろ・サーモン・ホワイトツナ・アボカド・ハラペーニョ・パクチーが海苔で巻かれています。(1595円。11.99ドル)

どちらも日本の海苔巻きでは考えにくい組み合わせでありながら、とても美味しいです。

ベースが日本のものであるため食べやすく、クリームチーズやパクチー、ハラペーニョなども魚やご飯とマッチしています。また、海苔巻きではありますが、私が食べたものは酢飯ではありませんでした。


ラーメン


ラーメンも寿司に並ぶほど専門店が多く存在します。参考にシカゴの中心部を対象に「ラーメン」と検索してみたところ、いくつかのお店がヒットしました。


ラーメンがいかにアメリカに浸透しているかわかると思います。ですが、評価を見るとたまに日本人がレビューで酷評しているものを見かけます。

アメリカのラーメンは、アメリカナイズされた結果として日本人の舌に合わないのか、実際に地元のラーメン店で味噌ラーメン(約1988円。14.95ドル)を食べて調査していきます。


見た目は全く違和感なく、一般的な日本のラーメンとあまり変わらない印象です。具はコーン、ネギ、メンマ、海苔、チャーシューがのっています。チャーシューはほぐしたものか、塊のもの2種類から選べました。

チャーシューは分厚く、ほろほろでかなり柔らかく、特にアメリカナイズされている印象はありません。かなり美味しいです。

麺はおそらく、日本で言うところの市販の生めんと同じような食感に感じました。スープは味噌の味が感じられ、日本のラーメンほど複雑ではないものの、しっかりとした味わいで美味しいです。

豚骨ラーメンについては、だしをとる文化がないと言われているように、日本の専門店のような奥深さはないですが、バランスが良くクセが抑えられていて美味しいです。豚骨が苦手な方でも食べやすいラーメン、という印象ですが、いわゆる本格的な豚骨ラーメンが好きな方には物足りないかもしれません。

それでもここは地元で1番人気のラーメン店なので、アメリカ人はいわゆる本格的な日本の専門店のような味を求めているわけではないのだと感じます。もしくは、アメリカ人の好みに合わせた「アメリカ人好みのラーメン」を生み出したのかもしれません。


餃子


アメリカで有名なTrader Joe’sというスーパーの冷凍食品コーナーには「Gyoza」という名前で野菜餃子(約454gで約637円。4.79ドル)とエビ餃子(約454gで約730円。5.49ドル)が販売されています。



どちらの餃子も食べやすい1口サイズです。餡については、にんにくもしょうがも控えめで、皮も薄すぎず厚すぎない印象です。

アメリカでは餃子を手作りすることは一般的ではないため、餃子の皮やにらなどは普通のスーパーで見かけることはできませんが、冷凍食品という形で家庭で親しまれているほどに知られている日本食となります。特に、野菜餃子は、ヴィ―ガン食としても需要が高いです。


なぜ「日本食」がアメリカで定着できたのか


寿司はスシロールとして独自の進化を遂げており、日本の寿司や海苔巻きとは別の物として、一般的に広まっています。アメリカナイズされたスシロールは日本人としても新しく、もはやアメリカ料理にすら感じます。自国(日本)料理で比較する対象がないため、新鮮な気持ちで驚きと美味しさを感じることができました。

ラーメンなどについては、アメリカ人が日本でハンバーガーを食べると物足りなく感じることがあるように、日本人としては同様の感想を抱くことがあるかもしれません。

ただしそれは、日本の味そのままを再現することが必ずしも必要とされているわけではなく、アメリカに馴染む折衷案としてクセがない本格的すぎない味で提供されているのだと感じました。

味を本格的にすれば、臭みやだしが強くアメリカ人にはかなり馴染みのない味になってしまう上、材料費や技術も必要となりコスパも悪いと思います。100%日本の味を再現しないことも一種のアメリカナイズだと感じました。「ラーメン」「餃子」などがこれに当てはまります。

また、こちらでは寿司(にぎり)もラーメンも餃子も主食ではないので、マーケットが小さく競争も少ないことが、日本人の慣れ親しんだ専門店の味との違いを感じてしまう原因だと感じます。


「日本食」の輸出を実現するために


現地で日本食が一旗あげるには、日本の味そのままを伝えることが正義ではなく、現地人の文化に溶け込む味を目指すことが大切だとあらためて感じるきっかけになりました。

また、味噌ラーメンや野菜餃子を「ヴィーガン食」という視点で考えてみるのも、日本食を外食や内食においてより一般化する1つの糸口として可能性が残されているかもしれません。

日本産米の可能性については、現時点で日本料理屋や高級寿司店などでは使用されている店舗もあると思いますが、スーパーのスシロールやローカルの寿司店などではコスト面や需要の低さに鑑みて、アメリカ産のお米が使われていることが多いようです。スシロールのような、具の存在感が強くソースの味も強い料理であれば、土台であるお米のクオリティが高い必要がないのかもしれません。

日本産日本米でいえば、「こしひかり」は味のバランスも良く粘り気もそこまで強くないため、口の中でほどける食感が個人的には寿司には合うと思います。

また、寿司を一般家庭で作る際に、レシピサイトなどには「Sushi Rice」「カルローズ米」を使用すると良いと書いてあったりします。中には「日本米を探すといい」と書いてあるレシピサイトもありますが、一般的なスーパーには基本的には置いてありませんので、上記の「Sushi Rice」や「カルローズ米」などで代用する家庭がほとんどです。

Perfect Sushi Rice|allrecipes
https://www.allrecipes.com/recipe/99211/perfect-sushi-rice/

生食用の海産物は、アメリカ文化においては需要が低いため値段が高いです。そのため、お家で寿司やスシロールを楽しもうという家庭はある程度裕福であるため、日本産日本米が一般的なスーパーで売っていれば、多少値段が高くても寿司を家で楽しむ際の選択肢となる可能性はあります。

現時点で「Sushi Rice」や「カルローズ米」と「日本産日本米」では値段はそこまで変わらないことから、日本産日本米の購入のハードルを下げることができたら、寿司とともに日本産日本米を家庭で身近に楽しんでもらえる日が来るのではと思います。

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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