リジェネラティブ農業とは? 世界で注目されている農法を事例と共に紹介

環境問題の改善につながると考えられ注目を集めている「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」という農法をご存知でしょうか。

まだまだ聞きなれないという方も多いかと思いますが、今回はアメリカやヨーロッパを中心に取り入れられているリジェネラティブ農業について事例を交えながらご紹介したいと思います。


リジェネラティブ農業とは


リジェネラティブ農業は環境再生型農業とも呼ばれ、土壌の有機物を増やすことでCO2を貯留し、気候変動を抑制する効果があると考えられている農法です。具体的には、不耕起栽培をはじめ有機肥料堆肥の活用など古くからある農業技術がベースとなっています。

その中でも不耕起栽培は土壌へのCO2貯留という点においてだけでなく、農業従事者の省力化や土壌に生息する生物の多様性が促せるなどさまざまな面でメリットが多く、アメリカやヨーロッパで推奨され再生型農業として広く取り入れられている栽培方法です。

実際のところリジェネラティブ農業については明確な決まりがあるというわけではありません。そのためどんな技術を採用するかは実践者によっても違ってきます。

農業生産による環境へのリスク


化学肥料や農薬の使用、機械化などにより農業の生産性が高まっていった一方で、過度に生産性を追求した管理方法により、温室効果ガスの発生や生態系への影響など農業自体が環境への負荷の原因になってしまうこともあります。

日本においては異常気象による農作物の被害や生育不良など少しづつではありますが、地球温暖化による影響が表れてきています。また、世界的に見ると温室効果ガスをたくさん排出している先進国よりも発展途上国ほど大きな影響を受けるという予測もあり、実際に1人当たりのCO2排出量が日本の1/10程度であるアフリカでは、干ばつの発生などの異常気象により食糧不足が深刻化しているのが現状です。

世界的な大企業もリジェネラティブ農業を推進


アウトドアブランドのパタゴニアを筆頭に世界的な大企業もリジェネラティブ農業の拡大に力を入れ始めています。2020年には食品メーカーのネスレが気候変動に向けたロードマップを発表。温室効果ガス排出量を実質ゼロにするための取り組みとしてリジェネラティブ農業を推進し、2030年までにリジェネラティブ農業によって生産された原材料1400万トン以上の調達と需要の押し上げを行うと発表しました。

一方パタゴニアは、気候変動や食糧不足など、世界が抱える問題に対して最も効果的な方法のひとつとしてリジェネラティブ農業に取り組んでいて、2017年にアメリカの他社ブランドと協力し「リジェネラティブ・オーガニック認証」を制定しました。

リジェネラティブ・オーガニック認証制度の基準
・有機認証を取得すること
・不耕起栽培または省耕起栽培であること
・植物による土壌被覆が25%以上であること
・作物の種類と生育場所を周期的に変える輪作を行い3種類以上の作物または多年性植物を利用していること
・土壌の再生を促す農業技術を3つ以上取り入れていること

基準を見てみると土壌の状態を健全に保つことを重視していることがわかると思います。これらの条件をどの程度達成したかに応じて、第三者認証機関であるリジェネラティブ・オーガニック・アライアンスが審査しブロンズ・シルバー・ゴールドといったレベル別に認証ラベルを使用できるという仕組みになっています。

1996年からオーガニックコットンを使用しているパタゴニア。2020年からはリジェネラティブ・オーガニック認証のパイロットコットンを栽培するため、150以上のインドの農家と提携しました。そして現在はリジェネラティブ・オーガニックコットンを使用したTシャツの販売を開始しています。

主にアパレルビジネスを展開しているパタゴニアですが、地球温暖化などの環境問題を解決へ導くには人が生きていくうえで不可欠である食品生産システムに変革の必要性を感じ、食品事業を扱う「パタゴニア・プロビジョンズ」を設立。さらに、食品部門で世界で初めてリジェネラティブ・オーガニック認証を取得した、「RO チリ・マンゴー」の販売を開始しています。

日本では産学連携で研究が行われている


北海道を拠点に、放牧による乳製品や卵などの原材料を使用したお菓子を製造しているユートピアアグリカルチャーは、日本国内でリジェネラティブ農業に取り組んでいる数少ない企業のひとつです。

主な取り組みとしては平地や山間地を利用しての放牧、平飼いによる鶏の飼育をメインに、「放牧酪農でのCO2マイナスの実証への挑戦」と称し北海道大学と共同でリジェネラティブ農業や酪農における持続可能性を研究しています。

牛の排せつ物から発生するメタンが、環境に悪影響であると聞いたことがある方も多いと思いますが、狭い場所で無理な飼育を行うことで牛の排せつ物を微生物が分解できる限界を超えると、環境に影響をもたらすと考えられています。

ユートピアアグリカルチャーでは、畜産は本当に環境負荷の原因になっているのかを調査するなかで、持続可能な農業を行うことで生態系の保全に繋がることがわかってきたと言います。

特に畜産業では窒素やリンなどが大量に使われている傾向にあり、これらが過剰になると環境への負荷が高まってしまいます。土壌は大気や植物以上に炭素を貯めることができると言われていますが、最大限生かされているとは言えない状況であり、またその土の特性や環境などによってもどの程度炭素を貯めこむことができるのか異なります。

北海道大学の共同研究では、土壌中の炭素量の推移を予測できる「RothC」というモデルを使用し、気候や作物、肥料の種類などのデータを入力することで、CO2になる炭素と土壌に貯まる炭素の量を推測し適切な管理方法の検討を行っています。


リジェネラティブ農業はCO2の吸収と隔離を行うことで、地球温暖化の抑制に効果がある農法だということがおわかりいただけたかと思います。

取り組みは国や企業によってさまざまですが、地球が抱える課題を解決するための手段として今後さらに広がっていくと予想されます。消費者である私たちは、購入する製品がどういった方法で作られているかを知ったうえで選ぶことが重要になってくるのではないでしょうか。


農林水産省「環境へ全型農業の推進」
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_2_4_05.html
パタゴニアプロビジョンズ「なぜ、リジェネラティブ農業なのか」
https://www.patagoniaprovisions.jp/pages/why-regenerative-organic

パタゴニア「リジェネラティブ・オーガニック(RO)」
https://www.patagonia.jp/regenerative-organic/

リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス(英語)
https://regenorganic.org/
ユートピアアグリカルチャー
https://www.utopiaagriculture.com/
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    田中克樹(たなかかつき)。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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