地域活性化と農家の収益アップを目指す「6次産業化」ってなに?

少子高齢化は、地域社会にさまざまな形で暗い影を落とし始めている。若者が都市部に流れ、高齢者が多く残された集落で過疎化が進行していることなどは顕著な例といえる。

こうしたなか、農林水産省が力を入れる地域活性化の政策のひとつが「6次産業化」だ。6次産業とは、東京大学名誉教授の今村奈良臣氏の生み出した造語といわれており、地方の過疎化を食い止め、地域産業の立て直しと安定化を図る施策として、今、注目を集めている。


6次産業化は掛け算の利益をもたらす

6次産業とはどういうものなのか。まずは、その言葉の定義から見てみよう。


1次産業とは、農業や漁業、林業といった自然の恵みから得られた農林水産物を扱う産業のこと。あらゆる生産物の最も基礎的な部分を担う産業である。

2次産業とは、製造業や建設業といった産業を指す。自然から採掘した資源を加工することで、より高い価値を生み出すのが特徴。1次産業で採れたものを缶詰や冷凍食品といった形に加工したりするのが2次産業にあたる。

3次産業とは、1次産業、2次産業に分類されない産業のことで、商業、通信、金融などの業種を含む。最も代表的なものはサービス業である。

日本では1次産業の従事者が年々減り続ける一方、3次産業の従事者は逆に増える傾向にあり、現在では全産業に占める就業人口比率において、7割近くの就業者が3次産業に属しているという数字もある。

なお、これらはイギリスの経済学者であるクラークの提唱した産業の3分類がもとになっている。

6次産業とは、1次産業である農業に従事している農家が、自身の生産した生産物をもとに、2次産業の分野である食品加工を行い、3次産業の分野である流通や販売までを手掛けることをいう。

6次産業が提唱された当初は「1+2+3=6」といったイメージだったようだが、今日では「1×2×3=6」という掛け算の概念で説明されることが多く、6次産業の生み出す利益やメリットに対する期待の高さをうかがわせる。


課題は商品開発後の販路

では、内閣府大臣官房政府広報室が紹介しているもののなかから、6次産業化に取り組んだ具体的な成功事例を見てみよう。

・ひふみ養蜂園(千葉県)

千葉県のひふみ養蜂園株式会社は、ハチミツの製造・販売を行っている。
製品の付加価値をさらに向上させるため、同社はハチミツを使用したジェラートやドレッシングなどの加工品を開発。自社で開発した加工品を販売するための直営店舗を開設し、さらなる販売強化と利益向上を目指している。

・株式会社青研(青森県)

リンゴの栽培・加工・販売を行っている青森県の株式会社青研では、取り扱うさまざまな品種のリンゴのブランド化を果たし、生果だけでなくリンゴジュースや飲用酢などを開発。インターネットでの直売に乗り出し、海外展開の実績を積み始めている。

こうした成功の影で、6次産業化において難しい問題に直面する事業者も少なくない。

日本政策金融公庫が2012年2月に公表した「平成24年度農業の6次産業化等に関する調査」によれば、6次産業化を進めるにあたり「新たな販路開拓のための人材やノウハウ」が不足していると感じていると、事業者の6割近くが回答している。

6次産業化での失敗例としてよく挙げられるのが、農作物を利用した加工商品を作った時点で満足してしまうというもの。
いかに美味しい加工品が出来上がったとしても、それだけでは不十分で、そこから先が重要になる。開発した加工商品をもって収益化し、事業として長く展開していくためには、販路の確保が不可欠であり、この視点が欠けているケースが多いという。在庫を抱えるリスクや、食品などの場合は衛生面での管理が必要になるといった、新たな負担はデメリットとも言える。
また、6次産業化によって事業を黒字化するのには、非常に時間がかかるということもわかってきている。

日本政策金融公庫の同調査には、黒字化までに平均で4年以上かかるという結果が掲載されている。これはあくまでも平均で、10年や20年といったスパンでようやく黒字化された例もある。事業を安定化させ、黒字にまで持っていくのは、決して楽ではないということがわかる。


6次産業化は地域経済を活性化させる鍵

農水省では、6次産業化に取り組む上での課題の解決策のひとつとして、6次産業化プランナーの活用を促している。
6次産業化プランナーとは、6次産業化サポートセンターに登録された、各分野の専門家のこと。課題解決に向けた具体的なアドバイスを行うことのできる専門家で、サポートセンターは全国各地に設置されている。

いい農作物を作ることに長けた生産者がすなわち、いい事業を行えるとは限らない。適切な総合化事業計画やコスト管理などは、また別の能力を要求されることにほかならない。

そういった意味で6次産業化プランナーを活用して、自分に足りない部分を、専門家の知恵を借りて補っていくという視点は、今後の6次産業化の動きに必要な考え方のひとつといえるだろう。

また、国としても6次産業化のための支援策を多数講じており、ハードウェア、ソフトウェア、融資といった分野に分けて認定や補助金の交付も行っている。認定するための要件や条件は多岐にわたり、林業や漁業のほか、農産物の輸出に関する支援も用意されている。

先述した日本政策金融公庫が公表した調査によれば、6次産業化を行った7割以上の農業経営者が、所得の向上を実感している。そして、6次産業化は、地域の資源を活用し、利益の向上が図れるばかりか、事業の展開規模によっては新たに雇用をも生み出すものだ。疲弊する地域の産業を活性化させる原動力になる可能性を多分に秘めており、今後の農業を支える重要な鍵となっていくことは間違いない。


<参考URL>
農林水産省「農林漁業の6次産業化」
政府広報オンライン「生産・加工・流通販売を一体化して農林漁業の可能性を広げる。農林漁業者の「6次産業化」を資金面等で支援!
日本政策金融公庫「平成24年度農業の6次産業化等に関する調査」
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WRITER LIST

  1. 三好かやの
    みよしかやの。しがないかーちゃんライター。「農耕と園芸」「全国農業新聞」等に記事を執筆。八王子市ユギムラ牧場でかぼちゃの「いいたて雪っ娘」栽培中。共著『私、農家になりました。』(誠文堂新光社)、『東北のすごい生産者に会いに行く』(柴田書店)等がある。http://r.goope.jp/mkayanooo
  2. 山口亮子
    やまぐちりょうこ。フリージャーナリスト。京都大学卒、北京大学修士課程修了。時事通信社を経てフリーに。主に農業と地域活性化、中国を取材。
  3. r-lib(アールリブ)
    これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている、をコンセプトにインタビュー記事やコラムなどを発信するメディア。r-lib編集長は奈良の大峯山で修行するために、毎年夏に1週間は精進潔斎で野菜しか食べない生活をしている。
  4. 水尾学
    みずおまなぶ。滋賀県高島市出身。大学卒業後、電子機器関連業務に従事。2016年に自家の柿農園を継ぐと同時に、IoT農業の実現を目指す会社、株式会社パーシテックを設立(京都市)。実家の柿農場を実験場に、ITを駆使した新しい農業にチャレンジしています。
  5. 窪田新之助
    くぼたしんのすけ。農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。 2015年11月に発表される「農業センサス」で明らかになる衝撃の事実! 日本の農地は急速な勢いで大規模化され、生産効率も急上昇……輸出産業となる!! 日本経済団体連合会(経団連)も2015年1月1日、発表した政策提言『「豊かで活力ある日本」の再生』で、農業と食のGDPを合わせて20兆円増やせるとした。これは12兆円の輸送用機械(自動車製造業)よりも大きく、インターネット産業や金融・保険業に肩を並べる規模──日本のGDPは500兆円なので、農業が全体の4%を占める計算になる。「コメ農家は儲けてない振りをしているだけですよ」「本気でやっている専業農家はきちんと儲かっている」など、日本中の農業の現場を取材した渾身のレポートは、我々に勇気を与える。日本の農業は基幹産業だ!日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活自民党農林水産部会長の小泉進次郎氏は語る。「夜間に人工知能が搭載された収穫ロボットが働いて、朝になると収穫された農作物が積み上がっている未来がある」と──。21世紀の農業はAIやビッグデータやIoT、そしてロボットを活用したハイテク産業、すなわち日本の得意分野だ。その途轍もないパワーは、地方都市を変貌させて国土全体を豊かにし、自動車産業以上のGDPを稼ぎ出し、日本人の美味しい生活を進化させる。大好評『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』に続く第2弾!

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