日本のコメ生産コスト低減のカギは農作業用ドローンによる直播に【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.11】

海外産コシヒカリの栽培に30年前から米国・カリフォルニア州で挑戦しながら、オリジナルブランドを開発し定着・普及させた株式会社田牧ファームスジャパンの代表取締役、田牧一郎さんによるコラム

今回は、田牧さんがカリフォルニアで実際に行ってきた農業用飛行機や日本でのドローンを利用した「空から」の農業についてです。多機能な農業機械も便利ですが、コストがかかるのが最大の難点。「空から」の作業は以外とコストが抑えられることがわかります。これまで語られてきたように、日本でも研究が進められている直播栽培にするかどうかが、コスト削減の最大のポイントです。


世界中の農家がコスト低減策に悩んでいる


作業受託会社の農作業用飛行機前にて

時間と労力を削減できる一方、農機コストがのしかかる日本のコメ生産


今回は、コメの生産性向上対策を考えたとき、すぐに効果が見えそうな「生産費削減対策」を考えてみます。

日本はもとより、世界各国どのコメ生産者も、種子や肥料・農薬など生産に直結した資材の購入費用をはじめ、作付け・散布を行う機器の燃料費などなるべくコストを減らす努力をしています。

特に日本では稲作経営者自身が稲の種を播き、苗を作り、移植をして栽培。収穫した籾を玄米や白米の製品にして販売をしています。そしてその売上から生産や出荷にかけた費用を支払い、利益を確保します。機器や施設などの償却資産も生産物の売上から、毎年原価償却額を経費として計上し、生産物の経費として参入していると思います。

余裕がある生産者は、新しく開発・改良されたコメ栽培用の機械や器具を使って作業にあたります。日本の稲作はこの半世紀の短い間に、牛馬を使い手作業で行っていた作業のほとんどが新しい機器や専用の装置・作業器具などに置き換えられました。

その結果、今までかけてきた作業時間を短縮することができた上、作業面積を拡大することができました。

しかし時間と労力が減少した半面、農業機械の購入費用は金銭面での負担が大きくかかります。高性能の機器を使えば作付面積増による生産量、その売上が増加するので、作業受託による収入を得ることも可能になります。稲作経営者は期待できる収入増を検討し、熟考を重ねて生産と販売を行ってきました。


アメリカと日本で比べる空からのアプローチ

 

作業に使う機械の償却費比較では、日本で使われ始めた農業用ドローンも低コストでのコメ生産に大きく役立ちます。

世界の食糧生産地帯の中で、カリフォルニア州はさまざまな農作業に最も多く飛行機やヘリコプターを使っているそうです。特にコメ作りは、作付けをしているほとんどの面積で飛行機を利用した種まきを行っています。

耕起・不耕起での播種が可能な、グレインドリルを使った乾田直播もごくわずかですが行っている方もいます。しかし、これは作付面積全体の1%にも満たない面積です。

驚かれる方もいるかもしれませんが、除草剤の散布や追肥作業、そして殺菌剤・殺虫剤の散布など多くの作業を飛行機で行っているカリフォルニアのコメ農場ですが、農作業用飛行機を所有し、自ら作業をしているコメ生産農家はありません。

カリフォルニアの農業地帯には種や肥料、農薬などを散布する専門の作業会社が多くあります。農作業用の飛行機やヘリコプターを所有し、パイロットを雇用して散布作業を受託作業。コメ作り作業だけでなく、トマトやメロンなどの野菜畑、トウモロコシなどの穀物畑、そしてアーモンドや桃・プラム・オリーブなどの果樹園にも散布します。


農作業用飛行機の償却費


農作業用の飛行機には、操縦席の前に種子や肥料を入れるタンク(容量約5,000リットル)が取り付けられ、約2,500㎏の種子や肥料を積み、タンクの下に取り付けられた粒剤や液剤の散布装置を動かして、飛びながら散布します。農作業用飛行機は、70~80年前の複葉機が飛んでいた時代から製造され、空からの各種作業に使用されてきました。圃場に隣接する少し広めの農道を滑走路にして、離発着を繰り返します。重い種子や肥料を積み、短い滑走路で離発着をするために大きなエンジンを積んでいます。

現在、農業用に多く使われているタイプの新品飛行機本体の定価は約1億円(詳細は https://airtractor.com/ に紹介されています)。燃料や点検整備費など、飛行機で作業をするためにかかる直接的な費用、パイロットの給料と保険代・格納庫や滑走路の整備費などがかかります。それに加えて水田や畑に散布する種子・肥料や農薬などを飛行機に積み込む装置を取り付けたトラックの運転および維持費用もかかります。

このタイプの農作業用飛行機の一般的な耐用年数(40年と仮定)と、年間作業面積(予測)による飛行機の償却費を、ドローンとの比較のために「1haあたりの償却費」としてシミュレーションしてみましょう。

飛行機での作業面積は1時間あたり約30ha。1日の飛行時間が6時間、年間作業日数が100日とすると、年間1万8000haもの作業が可能になります。40年間の合計作業面積は72万haです。

ここから、1haあたりの償却費を算出すると約139円となります。

●農作業用飛行機の償却費シミュレーション
  • 本体価格 約1億円
  • 耐用年数 40年
  • 総作業面積 72万ha

農作業用飛行機の総作業面積
30ha(時間)×6時間(日)×100日(年間作業日数)×40年(耐用年数)=72万ha

1haあたりのコスト(償却費)
約1億円÷72万ha=約139円


こちらも作業受託会社の農業用飛行機


農業用ドローンの償却費


一方、日本で販売されている安価な農作業用ドローンの1haあたりの償却費を、同じ基準で計算してみます。

播種ユニットなどを含めたドローン本体を約120万円、10年は使うと仮定します。ドローンは飛行機と比べて作業面積はかなり狭く、1時間あたり3haほど。1haの作業にかかる時間は20分ほどです。1日5時間の作業で15ha、50日作業したとすると年間で750haになります。耐用年数を10年とすると1台のドローンによる合計作業面積は7500haです。

これにより、ドローンの1haあたりの償却費は160円となります。

●農業用ドローンの償却費シミュレーション
  • 本体価格 約120万円
  • 耐用年数 10年
  • 総作業面積 7500ha

農業用ドローンの総作業面積(耐用年数10年の場合)
3ha(時間)×5時間(日)×50日(年間作業日数)×10年(耐用年数)=7500ha

1haあたりのコスト(償却費)
約120万円÷7500ha=約160円


前述の計算から、飛行機作業でコメ栽培を行った場合、飛行機と装置の償却費は1haあたり139円。日本でドローンを使用して作業した場合の償却費は160円になります。

この1haあたり21円の差は非常に小さく、種まきや肥料・農薬の散布作業において平均100ha を超えるカリフォルニアの大面積栽培のコメ生産と、日本でのドローンによるコメ生産でも、費用面での競争が可能と言えるでしょう。

このように、コメ栽培のスタートである作付けをドローンを使った種まきにすることで、移植栽培にかかる作業コストを大きく削減することが可能となります。コメの移植栽培は田植機での移植経費だけではなく、育苗から苗運搬、そして移植後の苗箱などの片づけにも労力が必要であり、経費がかかる作業だといえます。


ドローンを使ったコメ栽培の作業受委託システムの確立を


カリフォルニアでは、飛行機の償却費に作業実施のための直接・間接経費を加え、飛行機作業受託会社の利益も含めた面積当たりの作業費用は、生産者が自ら農作業用飛行機を持って作業を行うよりはるかに安価になります。

同様に、日本でもドローン直播作業を受託会社に依頼できるようになれば、コメの作付け作業コストは非常に安価なものになるのではないでしょうか。

ドローンでコメ作りの作業を行う場合、100万円前後のドローンを購入し、操縦方法や安全作業など必要な講習を受けた操縦者が、作業を行うことが可能です。飛行機のように滑走路や格納庫などの専用設備はいりません。必要なのは毎年の機体の点検整備費用程度で、安価な農作業の実施が可能になります。

面積当たりの受託作業単価の設定次第ですが、ドローン作業による利益も期待できます。仮に10a あたり2,000 円のドローン播種料金と設定した場合、種まき作業を1日5 haで年間30日の作業飛行を行うと、年間合計150ha の受託作業で合計300万円の売上になります。

これに肥料(元肥と追肥)や農薬散布などの栽培管理作業を、播種面積と同面積を同じ単価で受託することで、年間(約60日間)の売上が600万円を超えます。

受託料金や作業可能時間の計算の根拠となる数字については
  • 空からの作業にかかる各種準備時間とその経費
  • ドローン操縦者雇用の場合の人件費
  • バッテリーの充電コスト
などを精査することで、ドローン作業の導入判断に正確な根拠を得ることが可能になります。


海外の直播栽培ノウハウからも学べる「新しい直播栽培技術」


これからの日本のコメ直播栽培は、低コスト生産を実現するための技術として期待できるものだと思っています。そのためには海外で行われているコメ直播栽培ノウハウも含め、空からの直播栽培関連作業を積極的に学ぶことも重要で、その効果も大きいことが期待できます。


【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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