コメ生産を諦めないための「低コスト生産」の条件を考える(後編) 【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.19】

コメ販売価格の低下や国内消費量の減少、コメ生産者の年齢による体力の衰え、高性能作業機械類の高額化といった諸事情からコメ生産者が減少し、否応なしに生産者1人当たりのコメ栽培面積が拡大していることを、前編で書きました。

その対策として、ある程度の機械力があれば生産者1人当たり30~50ha、2人の作業者が効率よく作業ができれば50~100haのコメの栽培が可能ではないかと提案しました。

今回は、日本のコメを賄える圃場面積を156万haと想定し、より具体的な作業や必要機材などについて考えてみたいと思います。


イネ栽培とコメ生産の作業にいま必要なのは「創意工夫」


1人あたり50haの水田を耕して収穫可能と仮定すると、全国で3万人のコメづくり生産者がいれば、150万haでのコメ生産が可能となります。1人当たりの生産量にすると、50ha × 5.5トン=275トンです。

今年の移植イネと直播イネの状態。良好に育っている

この275トンの玄米を、1㎏あたり100円(1トンあたり10万円)の単価で販売すると、275トン×10万円=2750万円の売上になります。

この売上で、経営者あるいは作業者1人の人件費800万円を支払い、残り1950万円で減価償却費とすべての費用を賄うことを想定すると、面積10aあたり3万9000円。この金額は、現状の肥料・農薬代金と照らしてみると「不可能」だと言われることでしょう。

大切なのは、この現状のままでいることを前提とせず、低コスト栽培を実現するにはどうすればいいか、創意工夫をすることです。例えば、
  • どのくらいの肥料・農薬であれば経営は可能なのか
  • 借地料はいくら支払えるのか
  • 反収増加の対策はないのか
といった低コスト栽培の作業体系や栽培技術を検討することで、実現の可能性も見えてきます。

今、日本での低コストコメ作りの実現に求められていることは、コメ生産現場の「知恵」であり、イネ栽培とコメ生産の作業も含めた「創意工夫」だと思います。


シーズン中の直播栽培に必要なこと


続いて、本連載でもたびたびご紹介してきた移植栽培から直播栽培への変更を例に考えてみましょう。

ドローンを使って空から直播栽培を行えば、30aの水田に5分で播種(作付け)作業が可能です。育苗関連機械類と苗の運搬や苗箱洗浄に使う機械類も、片付けなどの作業も含めて必要がなくなり、イネの作付け作業時間の大きな短縮になります。

単純計算になりますが、シーズン中のドローン播種の作付けが可能な面積と必要な機械装備は以下の通りです。

■必要なもの

●発芽種子播種装置を取り付けたドローン1機(操縦装置や交換用バッテリー等も含む)
●ドローンを積んで運ぶ軽トラック1台
●2人の作業者

■作業期間

通常、移植の場合は種まき適期の4月下旬から5月下旬までの30日間が作業可能日となります。しかし、直播の場合は雨が降らず風の弱い日という条件が必要となるため、作業可能日も50%=15日間と想定します。

この15日間で作業員2人で100 ha の播種作業を行うには、100 ha÷15日 = 6.5 ha/日。田んぼ1枚が30aとすると、6.5 ha÷0.3 ha=22枚で作業時間は22枚 x 5分=110分/日となります。早朝の風のない時間帯に1日約2時間のドローン播種作業により、実現は可能になります。

■播種準備

直播栽培の場合、ドローンで散布する種子に温湯浸法による種子消毒と発芽処理を行います。発芽処理は、播種日に合わせ発芽した種子の表面を乾かしておくだけなので簡単です。

温湯浸法による種子消毒は、種子消毒用の湯を60℃前後にして10~15分間程度浸します(※温度の維持機能があるかないかで、消毒に必要な時間は変化します)。その後、出芽機を使って温度と時間をセットするだけです。

湯を入れる容量と出芽処理機の能力にもよりますが、出芽機への種子の出し入れにかかる時間は短く、1人の作業の場合でも1時間で100~200㎏前後の種子処理が可能です。

10a当たり3~4㎏の種子が必要となるため、100 haにまくには3,000~4,000㎏となり、種子処理には計算上合計20時間程度かかります。播種スケジュールに合わせて1人での種子準備も、1日1~2時間の作業で100 haの水田にまく量の処理が可能です。

水田均平後の鎮圧作業の様子

■播種後の肥培管理、水と雑草の対策

播種後は施肥と水管理、雑草対策の除草剤散布作業になります。水管理はすでに普及し始めた安価な自動水位測定とそのデータ送信装置を使えば、常に水田の水位を確認可能です。水位の低い水田に直接行って水を入れる、あるいは深すぎる水田は排水の必要も出てきますが、水位に問題のない水田には行く必要がないので、水管理の時間は大きく短縮できます。

さらに、水口の開閉を自動化する装置を水位測定器に連動させられれば、常に一定の水位を保つように設定しておくことで、目標とする水位を保つことが可能となります。

除草剤はドローン散布であれば、1㎏剤を散布する事で播種作業の2~3倍の速さ(30a を2分前後)で完了します。

ドローン散布装置を使用する際、今まで除草剤がつぶれてしまうことがあったのですが、最近では新開発のドローン向けの除草剤が開発されています。除草剤散布にかかる時間も、30aの水田を2分で散布可能になります。340×2=680 分(340枚×30a=102 ha)で、合計約11時間弱で100ha の除草剤散布が可能です。

もちろん、これらはさまざまな気象条件や、圃場の形状や広さ、圃場間の移動時間などによっても変わってきますが、シミュレーション上では決して実現不可能ではないと思います。生産者の皆さんの率直な感想はいかがでしょうか?

■播種床作りの作業

50馬力前後のトラクターに幅2m程度の作業機を付けて、乾いた状態の土を耕して、砕土・均平の後に播種床を作って種をまきます。この作業も100haは150~200時間で完了します。

播種床つくりの完了後の水田の湛水は、播種の前か後かは水田の土質や鳥害の程度などを考えての対応も可能です。ドローン直播栽培に適した高反収品種が見つかり、その能力が発揮される栽培技術が確立されれば、移植栽培にかかる生産費を半減させることも可能になります。

■いざというときのバックアップ体制と、作業受託者としての準備

トラクターも作業機も、故障なく動き続けられるとは限りません。故障した時のためにバックアップを用意する必要もあります。この備えには、作業委託でカバーする仕組みを作っておくことが有効です。

生産者自身が水田機械作業受託者として、トラクターや一般的な機械を所有あるいはリースなどの仕組みで使えるように準備しておきつつ、大規模コメ生産農場からの作業委託を受けて優先的に作業を行うようにします。

大規模コメ生産農場で経営面積が増える場合、水田の機械作業を担うことも可能です。一定の行動半径の中で受託作業が可能であれば、機械類の故障等に対応するだけではなく、高齢のコメ生産者が事情で耕作を休む場合や辞めることになったとしても、地域での継続したコメ作りが可能になります。

受託作業に対応するための機械類は、中古などの安価な機械が使えるように手配をしておきます。ドローンなどの新しい作業にも対応できるよう、操作技術の習熟とドローンで可能な農作業を見つけ出すあるいは創り出すことも可能だと思います。

重労働からの解放と、生産物のコスト低減に寄与できる作業実施システムの構築を目標にすれば、農業地帯の重要な担い手になるでしょう。


新しい栽培技術確立の現在地と、コメづくり機械作業受託システムの必要性


ここまで100ha 規模のコメづくり作業を2人で行う前提でシミュレーションしてみましたが、50 haを 2 人で計画すると、作業計画はより立てやすくなります。

さらに、50 haの作業の一部を作業受託に出すことにして、作業面積と時期を決めておき、作業外注費としての費用を用意しておくことも有効です。自らが作業受託者であったとしても、手が回らない時には別の生産者に作業を依頼すればいいのです。

仮に経営面積の20%程度を外注することになっても、自分自身の圃場に関して栽培管理に集中する時間やコメの販売を考える時間が作れます。

また、コメ以外の作物の栽培と生産に時間を割くなど、経営の幅を広げるために使うことも可能になるでしょう。


2022年7月に撮影したドローン直播イネの初期成育。根の状態を見てもよく育っているのが分かる

次の世代の生産者を育てるためにいまできること


コメづくり経営の近くにいる若い農業者には、機械作業の実務経験を積み、栽培管理作業もできるようになってもらう必要があります。そのことが、日本のコメ作りを維持し、さらに増えると予想される大量離農と農地余りの中で、若手が農業で生きていくためのひとつの方法にもなると思います。

コメ作り作業に慣れ、機械操作の精度を高めることで、生産技術を向上させることが可能になります。受託作業の収入を得ながら、コメ作りの基礎である土を耕して種を播く作業の経験を積むことで、自身が大規模農業法人へと拡大して収益を上げることも、受託作業案件を増やすことで収益を上げることも可能になることでしょう。

【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。