ドローン直播栽培が日本産米の輸出競争力を高める切り札になる【田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」vol.15】

海外産コシヒカリの栽培に30年前から米国・カリフォルニア州で挑戦しながら、オリジナルブランドを開発し定着・普及させた株式会社田牧ファームスジャパンの代表取締役、田牧一郎さんによるコラム

今回は、日本とカリフォルニアの流通コストや経路・ブランドの考え方を比較しながら、日本産米を海外で売るために必要な考え方と、田牧さんが提唱する国内で実現すべきことを解説しています。いま考えるべきは、いかにおいしい米を作るかではなく、いかに低コストで米を作るか、です。


カリフォルニアの単純明快なコメの流通経路


籾で流通させるアメリカのコメ流通事情」でも書きましたが、カリフォルニアでは生産から消費までの流通経路が非常に単純です。

「生産者」は、「精米業者」が仲介している品種と売買価格で栽培する種子を決定・購入します。水田に飛行機で種子を播き生産・収穫された籾は、大型乾燥所でまとめて乾燥されます。その籾を「精米業者」が工場で精米し、白米や玄米の「卸売り業者」に販売・出荷。あとは、買い手が国内か海外か、民間か政府かによって、売買するコメの品質・規格(スペック)や価格が決まります。

カリフォルニアでの生産から販売までのコメの流れ

コメの取引は、単純な売り買いです。そのため、生産から消費者に届くまで、間に入る業者が少なければ少ないほど、末端の小売価格は低く抑えられます。必然的に、短い流通ほど競争力を持ちます。

そして、流通経路のどの段階でも、価格や取引条件の決定は売買当事者間の交渉になります。低コスト生産で商品を作り、各段階でコストを意識して作業を行い生産された商品だからこそ、他の商品との価格競争に勝ち残り「儲かる商品」となって販売量も増えるわけです。

耕して砕土をした水田の、均平作業をするスクレーパー

生産者・品種によらず同一ブランドとして扱う「カリフォルニア米」


このようなカリフォルニアのコメ業界の生産と加工(精米)、そしてマーケットでの競争は、日本国内のコメ流通の参考にもなると思います。

カリフォルニアのコメ作付面積は、平年であれば約20万ヘクタール、白米ベースで約100万トンを上回る生産量になります。生産されるコメのほとんどは、カリフォルニア州北部のビッグス市にある、70年前に設立されたイネ育種試験場で開発育成された中粒品種です。

日本と大きく異なるのは、さまざまな生産者が栽培し、収穫された約100万トンの中粒種の白米は、その品種に関わらずすべて「カリフォルニア米」と呼ばれることです。

生産者が乾燥所に持ち込んだ生籾は、「他の中粒品種」の籾や「他の生産者」の籾と分けて乾燥されず、大きなサイロや倉庫にはいくつもの品種が混じった状態で、「カリフォルニア産中粒種」として保管されています。

こうして保管された米は、品種によって炊飯した時の粘りや香りに多少の差は出てきますが、1ポンド(約450g)の小さな袋をはじめ、レストラン用の大きな40ポンド(約18㎏)や50ポンド(約22㎏)の袋に玄米や白米の形で詰められ、さまざまな商品名が付けられて販売されています。一般的にはこの籾が玄米や白米となるので、その価格は当然低くなります。

品種や栽培方法によるブランド化は、籾所有者が独自に行う


一方、すでに確立されている「ブランド米」の品種や、無農薬栽培のような「特別な栽培方法」が理由で白米が高く売れる見込みがある場合、乾燥所が乾燥と保管を品種別の扱いにすることもあります。当然、この作業にかかる追加費用は、籾の所有者である精米業者の負担になります。

生産農場での大型機械を使った大規模作業は、スケールメリットが追求されています。そのために必要なのが「分業化」であり、短い時間で効率良く的確に作業を行うため、生産コストの大半を占めている作業コストが低く抑えられているわけです。

空からの作業、収穫作業と乾燥・保管は、高額な飛行機や収穫コンバインを複数所有している専門業者が請け負って作業を行う場合も多くあります。コメ生産者が捻出しなくてはならない機械類や設備類の投資を減らし、生産にかかる年間の機械類の原価償却費を減らすことにもなります。

均平作業後に、鎮圧と溝付けをするローラーかけ

海外産中粒種との価格競争力を保つために栽培コスト削減が必要


本連載では、アメリカのコメ事情だけでなく、日本でのドローンを使った発芽種子の直播栽培についても執筆してきました。私が日本で行っている新しいイネの作付技術は、必要な機械の購入や作業そのものを外部委託することで、個々の経営の中で完結する作業体系や栽培体系です。

強いて言うなら、日本で初めて行った本格的なイネの低コスト栽培技術の実践事例であり、この技術が面として広がることで、さらなるイネの低コスト栽培につながるだろうと考えています。

「マーケティング力がすべて」というアメリカ市場で競争する際には、生産量(市場への供給量)が明らかにならないと参加することもできません。そんな市場で、価格競争ができる高い品質レベルの商品が出てきてから、コメの市場も商品の差別化対策も含めたマーケティングの競争になりつつあります。

海外市場でも日本産米を含めた販売競争が起きれば、さらなる低コスト生産や流通経路の合理化によって、低価格でおいしいコメが購入者に選ばれるようになると思います。

そんな世界のコメ産地のブランド米との激しい競争の中で、手間をかけて栽培された日本産米を購入してもらうためには、日本のコメ産地ごとの生産量単位(生産ユニット)も重要です。

同程度の品質レベル・価格帯で販売可能な量は、市場への供給量や価格競争の結果として、自然に決定するものです。しかし、目標を定めて生産と販売を行えば、商品の良さや産地の強さを発揮できる説明が可能となり、市場で生き残る商品を作れるようにもなります。


日本の「産地+品種」は、海外ではまだブランド認知されていない


海外で日本産米を売るためにあらためて理解しておきたいことは、「魚沼産コシヒカリ」のような日本国内の“特定産地”の“特定品種”という宣伝文句だけでは、海外市場では価格競争力を得ることはできないということです。

「魚沼産コシヒカリ」の誕生後、「北海道のゆめぴりか」「秋田県のあきたこまち」などが生まれました。現在もその“産地”と“品種”で差別化をしながら、海外でも販売しようとしています。

しかし、海外市場から見れば「日本産の短粒種良食味米」であり、どれも同じように見えてしまっています。産地と品種で差別化を図るその効果が、どこまで出ているのかは疑問です。

現状の日本産米は、前述したカリフォルニア米などと比較して高コストで生産・流通されていることから、販売単価を高く設定しないと誰も利益の取れない商品になってしまい、継続した流通ができなくなります。結果として、あまりに高い販売単価では購入できる消費者も限られてしまうことになり、流通も消費もどちらも満足できる商品でないのが、「現状の日本産米」なのです。

実際、カリフォルニアに住むアジア系消費者の多くが買い物に行くスーパーには、「カリフォルニア産コシヒカリ」と「日本産コシヒカリ」の両方が販売されています。しかし両者は差別化はされておらず、産地について気にされることはありません。

日本国内の産地間競争を勝ち抜いてきたブランド米も、海外市場での認知度はまだまだ低く、あまり効果の出ていない競争をしているように見えるのです。カリフォルニアでは、日本産の美味しいとされるコメは、消費量も流通量も少なく「ニッチ」なマーケットでしかないと言えます。


海外から見た「日本産短粒種良食味米」は、いまや日本の多くの産地で当たり前のように生産されています。しかし、全国各地の生産者がどれだけコストや手間隙をかけていたとしても、海外から見れば直播栽培による低コスト生産の「カリフォルニア産コシヒカリ」と同じカテゴリーの商品とみなされてしまうのです。


低コスト栽培への転換で輸出競争力を高められる


もうひとつは、世界的に見るとニッチな日本産米というマーケットで、日本の特定地域の特定商品を販売する際の「産地から消費地への輸送コスト」、つまり輸出入に関わるコストの問題です。

コメの輸出入にはどの国も国境措置があり、輸入に関する書類や販売用袋(特に小売用)の各種表示義務など、厄介な手続きと費用のかかる検査もあります。そのため、輸出元と輸入先の関連業者に安定した利益が発生しないと必ずと言っていいほど競争に負け、消えていく商品になってしまいます。

利益を出さずに日本産米の輸出入を行い、店頭での小売り販売や業務用として流通させてくれるような業界は、世界中のどこにもありません。

幸いにも、日本国内のコメの物流コストを見ると、アメリカのニッチマーケットと比較的すると安価で安定しており、現在のような小規模産直でも採算が見込めます。なので、そこにさらにイネの低コスト栽培が普及すれば、国内市場でもより低コストの白米や玄米が日々消費される商品になるでしょう。

このように、輸出を見据えた価格競争力を問われながら生産されることで、国内でも低コスト=低価格なコメとなり、海外市場でも「日本産のおいしいコメ」として販売できる、国際競争力を持ったコメとなり得るのです。

ただし、この低コストな栽培方法は、大規模コメ生産者や先進的な農業生産組織でスポット的な試験として行われるようなレベルでは、本当の意味での国際競争力の発揮につながる成長とは言えません。

国際的な価格競争力を発揮するためには、「有名産地であるか」「おいしい品種か」を競い合うのと同じレベルでの、一定量の生産とその流通量がカギになります。


日本でもコスト削減のための「分業化」は実現できる


日本の圃場は規模が小さく点在しているため、作業効率がよくないと言われています。しかし、小さい圃場を逆手に取り、強みを出す作業体系を組むことで、大区画圃場に負けない作業効率を上げることも不可能ではありません。

カリフォルニアで飛行機や大型農機での作業が普及したように、ドローンを使用する作業がいま以上に増加すれば、ドローンでのコメ栽培作業を委託で行う専門業者がもっと増えます。さらに、ドローン作業請負業者が高度な専門知識と技術を習得して、効率よくイネ栽培関連作業を担うことで、コメ生産の重要な担い手になると思います。

同時に、コメ生産者自身がドローンでの作業を行わず、イネの作付けに関連した機械や設備類を購入・所有せずに済めば、機械設備の償却費や修繕費なども節約できます。

ドローン直播用の播種床作りも、安価な小型〜中型のトラクターさえあれば、地域の作業を請け負う播種床請負業者を始めることができるかもしれません。そうすれば、生産者は播種作業と同じように機械類の原価償却費の節約ができます。

さらに二次的な効果とも言える、作業の担い手を育てることにもつながります。コメ作りへの参加・参入も、収量や販売価格の変動に伴う経営リスクを負わない「受託作業による現金収入を主としたコメ作り」となるはずです。安価な中古や小型〜中型機械類の購入あるいはリースによる初期投資額を小さくした経営で、コメ作り作業の経験を積むことができるのではないでしょうか。

農業従事者の高齢化が進んでいるにもかかわらず、大型機械を使うコメ作り作業には著しい労働力の不足が生じています。私はドローンでの作業を増やし、短時間でコメ作り作業を行うことが一番の対策だと思います。

人は重い物を持ち上げない、高額な大型機械も極力使わないことを考えながら、コメの生産システムを作り実践することが、コメ生産地域の生き残る一つの道になるのかもしれません。


【連載】田牧一郎の「世界と日本のコメ事情」
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。