農業経営を支援するクラウド活用サービス【窪田新之助のスマート農業コラム】

5月9日から三日間にわたって大阪市内で開かれた西日本最大の農業総合展「関西農業ワールド2018」を取材してきた。今回紹介するのは主に経営支援のためのクラウドサービスだ。

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吊り上げるだけでいい格安の環境制御装置

施設園芸で収量と品質を向上させるには、より緻密な環境制御が必要とされている。ただ、そのためには高額な費用がかかるとされてきた。

ディーピーティー株式会社(名古屋市)が披露したのは、一台でハウス内の環境の測定と制御をする小型装置「e-minori(イーミノリ)」。特徴は取り付け工事の不要さと値段の安さ。設置はハウス内に吊るせばいいだけ。だから初期費用は環境データを測定するだけの機能なら10万円からと安い。オプションで制御機能も追加できる。その場合は20万円から。一般的な装置が測定と制御を合わせて200万円以上かかるので10分の1で済む。


測定できるのは温度と湿度、二酸化炭素、日射量、地温、含水率、電気伝導度、屋外の風向や風速など。一連の情報は収集されるやすぐにクラウド上のサーバーへアップされ、スマートフォンやタブレットなどで確認できる。

制御できるのは暖房機と二酸化炭素の発生器、かん水機器、天窓、側窓。それらの各種機器に制御ノードを取り付けるだけでいい。

畑や牛の見える化

露地栽培における緻密な管理の方法を提案したのはデータプロセス株式会社(大阪市)。同社の「アグリ―フ」は、利用者が畑にセンサーを設置して、スマートフォンやタブレットでいつでも環境データを確認できるクラウドサービス。いわゆる圃場の見える化だ。気温の積算を見ながら、収穫時期や病害虫の発生の予測にも役立つ。つか子の測定記録を読み出せるので、使うほどにその精度は増していく。


うたっているポイントはほかに二つ。水やりの自動化と作業の見える化である。

水やりの自動化は文字通りで、あらかじめ水やりの日時や時間の間隔などを設定すれば、電磁バルブが自動で開閉する仕組み。
作業の見える化に使うのは円形の小型発信機。これを畑や農機などに取り付けておけば、スマートフォンが検知する。結果、誰がいつ、どこで作業をしていかがの情報が集約、共有できる。


価格は圃場の見える化は初期費用25万円、月額利用料3000円。これに作業の見える化だけを追加すると初期費用は30万円、月額利用料は4000円、水やりの自動化だけを追加すると初期費用は45万円、月額利用料は5000円(いずれも税抜き、月額利用料は二年目以降)。

株式会社セントラル情報サービス(大阪市)は畜産業向けに牛体温監視システム「胃診電信」を披露した。利用者は円筒形をした小型の無線体温計を牛に飲み込ませる。これが計測する牛の温度データは5分ごとにクラウド上の個体別のデータベースに蓄積されていく。機械学習システムで牛が発熱するのを検知し、スマートフォンで知らせる。疾病を早期に発見できる。

IoTでコンテナ、パレットの行先把握

会場入ってすぐに目についたのは「IoTで物流を変える」と内容が書かれた看板。出展者の日建リース工業株式会社(東京都千代田区)はコンテナやパレットが使用後に紛失するのを防ぐため、二つの関連商品を並べていた。


一つは細長いタイプの絆創膏をさらに一回り小さくしたようなRFIDタグ。このタグは媒体で、そこに記録させた情報は近距離無線通信で読み書きできる。このシステムを利用するのはたとえばSuicaなどの交通系ICカード。このRFIDタグはコンテナに携帯させることを想定したもの。あらかじめ専用の読み取り機で誰が、いつ、何を、どのくらいの量を積んだのかを記録する。するとスマートフォンやタブレットでいつでも、その荷物の現在地を確認できる。同じような機能を持ったパレットタイプの「TranSeeker」も披露した。いずれもレンタルサービス専用だ。


<参考URL>
関西農業ワールド2018

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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