カゴメとNECが合弁会社「DXAS Agricultural Technology」で目指す農業革新

カゴメ株式会社と日本電気株式会社(NEC)は、AIを活用して加工用トマトの営農支援を行う合弁会社「DXAS Agricultural Technology(ディクサス アグリカルチュラル テクノロジー)」を、2022年7月(予定)に、ポルトガルに設立することがオンライン記者会見にて発表された。

カゴメとNECは2015年より、NECが開発した「CropScope(クロップスコープ)」を用いた加工用トマトの営農支援事業を、ポルトガルをはじめとする海外で実施してきた。新会社のDXASで、カゴメのアグロノミーとNECのテクノロジーの融合により農業革新を起こし、環境に優しく収益性の高い営農を促進することで、世界各国での持続可能な農業に貢献するとしている。

株式会社カゴメ 取締役専務執行役員の渡辺美衡氏(左)、同社スマートアグリ事業部長で、DXASのCEOに就任予定の中田健吾氏(中央)、NEC執行役員常務兼CEOの藤川修氏(右)

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国連食糧農業機関の2020年の調査によれば、世界の野菜の生産規模はトマトが最も大きく、次いでジャガイモ、ブドウ、リンゴと続いていく。中でも加工用トマトの生産は、新興国を中心とした人口増加や経済成長に伴い今後も拡大が見込まれるが、持続可能なトマト栽培には、生産者減少への対応や環境負荷低減など様々な課題に取り組む必要がある。

食用とされる生鮮トマトは、施設栽培により環境が管理された中での栽培が可能な一方で、加工用トマトは基本的に露地栽培で、広大な圃場で栽培し収穫機で一気に収穫するやり方をしているが、生産者の経験に頼る従来の生産方法だけでは、人手不足の問題や、水不足や熱波といった環境要因にも大きく左右され、安定した生産・供給が難しいという課題があった。


こうした状況のなか、カゴメとNECは、環境に優しく収益性の高い営農の実現を目指して、2015年よりAIを活用した営農アドバイスの技術開発や事業検証に着手。ポルトガル、スペイン、オーストラリア、アメリカで実証試験を重ね、7カ国(2022年6月現在)で事業を展開してきた。

2020年4月には、両社は戦略的パートナーシップ契約を締結し、カゴメ内に新設されたトップ直轄組織「スマートアグリ事業部」を中心に、NECの農業ICTプラットフォーム「CropScope」を使い、さらなる営農アドバイスの機能・品質の向上を図るとともに、営農支援事業のマーケティングと将来の可能性を研究している。

CropScopeの機能と提供価値

営農指導のイメージ
圃場可視化のイメージ
このような経緯を経て、営農支援事業における技術開発のさらなる加速、営業活動の強化を目的として、新会社「DXAS Agricultural Technology」を2022年7月に設立。カゴメのトマト営農に関する知見と、NECのAIを用いた分析・予測技術を融合させ、主に欧州、米州、オーストラリアの加工用トマト市場における営農支援を加速していく。さらに、将来的には日本での事業展開も目指して、検証を続けていくという。

ここまで聞くと、AIやセンシングといったスマート農業の技術だけですべてが実現したように見えてしまうが、DXASのCEOに就任予定の中田氏は、「ポルトガルでも最初から受け入れていただけたわけではなく、現地の農家とコミュニケーションをとり、彼らのやり方も聞きながら信頼を作って認めてもらえました」と、現場で話を聞きながら時間をかけるという丁寧なプロセスの上で実現したという。実際に「CropScope」を活用してもらえないこともあったと言い、現場に足を運んで話を聞きながら、「最終的には人間同士のコミュニケーションが大切」とも語っている。

AIによる営農アドバイスと圃場の可視化を実現


DXAS Agricultural Technologyが目指すのは以下の3点だ。

DX ソリューションで、世界の農業に革新を。

熟練の営農技術をAIに取り込んで作った最適なソリューションをそれぞれの畑に届けることで、誰もが、正確かつ効率的に農業を行える時代に変えていく。そして、気候変動に適応するサステナブル農業、Low input high output、生産効率の向上を実現する新しい農業の確立を目指す。

加工用トマトの栽培ノウハウに関しては、生産者のノウハウももちろんだが、すでに大学などでの研究により効率的な栽培方法は世界中にある。ただし、それらは栽培条件やセンシングなど、現実のコストに見合わないようなケースも多く、そのままでは実装は難しいものも多い。

そのため、「CropScope」ではカゴメとの協業の中でAI技術を蓄積し、肥料などの資材の使用を抑えつつ、収穫量をアップできるようになってきたという。


技術開発の加速

この間、カゴメとNECで蓄積してきたAI技術から新たな価値の創出、サービス強化を加速させていく。今後の取り組みとしては、AIと灌漑設備等との連携により営農作業をさらに効率化し、トマト加工会社および生産者の負荷軽減に貢献します。

さらに、カゴメの農業研究成果から作物生育に重要となる土づくりから収穫までの栽培手法を改善することで、環境 に優しく収益性の高い営農支援をサービスとして提供することを目指すという。


サービス提供体制の強化

DXAS Agricultural Technologyでは、アグロノミーの知識や経験を持つ要員がユーザーの農業現場を理解し、最適なサービスの提案やテクノロジーの適用を支援する体制を世界各国で整備するなど、サービス提供体制も強化する。

また、農業業界におけるパートナーシップも強化し、さらなる事業展開の加速を行っていくとしている。

カゴメ、NECのコメント


カゴメ 取締役専務執行役員 渡辺 美衡氏
「持続可能な環境と収益性の高い営農を同時に実現する「CropScope」を活用したこの事業は、私たちカゴメと同じように、トマトのおいしさや栄養価値で人々の健康に貢献したいと考える生産者の願いを叶えるものだと考えております。本事業を通じて、環境にやさしいトマト栽培の実現やお客様の食と健康といった社会的価値への貢献を、新会社ならびに当社の成長に繋げてまいります」

NEC 執行役員常務 兼 CFO 藤川修氏
「温暖化や気候変動、土壌汚染、水・肥料の高騰といった厳しい地球環境の中、消費者に安全な食を届けなければならない生産現場に対し、AIなどの先進技術を活用することで何か価値を提供できないかと言う想いでカゴメと一緒に開発を続けてまいりました。NECの技術により社会に対し直接的な価値を提供し、世界の食と農に貢献し続けていくことを新会社とカゴメとともに目指してまいります」


DXAS Agricultural Technology概要


所在地:リスボン(ポルトガル)
会社名:ディクサス アグリカルチュラル テクノロジー
事業開始時期:2022 年7月(予定)
代表者の役職・氏名:CEO 中田健吾(現カゴメ スマートアグリ事業部長)
事業内容:AIを活用した営農アドバイスサービス・圃場可視化サービスの販売、マーケティング、プロモーション、顧客開拓、サービス企画
資本金・株主比率:3億円相当ユーロ(カゴメ:66.6%、NEC:33.4%)


CropScope
https://jpn.nec.com/solution/agri/service/farm_analysis.html

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。