世界の気候の類似性から栽培可能性を判断する「TWINZ」がリリース

Penguin Labs合同会社は、世界中の気象データをAIで分析し、地球上の「気候の双子」を発見するサービス「TWINZ(ツインズ)」をリリースした。世界150カ国75万地点におよぶ気象ビッグデータ(日本気象協会提供)をAIで解析し、気候パターンの類似性から栽培可能性を判断する。

気象条件の似ているエリアを同じ色で塗り分けた世界地図

気候パターンの類似性から新たな可能性を見出す


Penguin Labs合同会社は、世の中に散在するデータを集めてAIで解析し、農業・宇宙・教育といった分野のソリューションを提供する企業。

同社は、過去から未来まで100年近くの気象データを解析し、遠く離れた地域であっても、似通った気象パターンを持つ「気候の双子」が存在することを発見した。

例えば、長野県のある地点には、南半球の南アフリカに「気候の双子」が存在するという。また、高知のとある場所には、中東のイランに似た気候を持つ地域が、そして東京のある地域は、アメリカの大地と同じ気象パターンを持つ場所が存在する。

近年、異常気象の増加と地政学的リスクの高まりによって、世界の食料供給網の脆弱性が顕著になっている。このような状況下において、農業生産の多様化と地域のレジリエンス強化が喫緊の課題となっている。

これまでの農業では、「この地域では昔からこの作物が育つ」という経験則や、「この緯度ではこの作物が適している」という一般的な知見に基づいて作物を選択してきた。しかし、このような従来型の考え方では、気候変動による栽培適地の急速な変化や、各地の固有の気象条件を十分に活かすことは難しい。

今回Penguin Labsがリリースした「TWINZ」は、この課題に対する新しいアプローチを提案するサービスだ。

世界中の気象データをAIで精密に分析し、地理的な距離や緯度に関係なく、気候パターンの類似性から栽培可能性を判断する。この発想の転換により、これまで見過ごされていた農業の可能性を発見し、各地域の農業ポテンシャルを最大限に引き出すことが可能になるという。


上図は、高知市と同じグループに属する地点から、特に類似度の高い5万地点をマッピングしたもので、インドやネパールにも気候の双子が存在することがわかる。紫に近いほど、類似度が高いことを示している。

青森市戸崎と似たエリアTop50のリスト

国内のみではあるが、動的な気候変動予測との連動が可能。2100年までの各種気候変動シナリオに基づき、現在の気象条件がいつまで有効か、その「賞味期限」を予測できる。また、時間軸に沿った気候の双子の移動をトラッキングする。

2040年の日本

2070年の日本。最も温暖化が進むシナリオでは、温暖なエリアのピンク色が2040年と比較して増えていることがわかる。

希望する作物による「逆引き」検索も可能で、世界各地で栽培されている作物データベースにアクセスし、土壌条件まで考慮した精密なレコメンデーションを行う(国内のみ)。これにより、収益性の高い新規作物の提案による経営多角化支援も可能となる。


実際に、青森市と同様の気象パターンを持つルーマニアの都市スリナで育つ珍しい野菜を提案し、今後栽培がおこなわれる予定となっている。

コールラビは中身がカブのように白いが、味はキャベツという不思議な野菜

自社での実証実験では、東京都杉並区で、1万km離れたアメリカのウエストバージニアで栽培されている「コールラビ」の試験栽培に成功した。

また、株式会社マイファームが兵庫県丹波市で運営する社会人向け農業スクール「みのりの学校」では、在校生が「TWINZ」を使用した。

生徒がピックアップした中国安徽省の珍しいフルーツ

香川県のannfarm果樹園では、気候変動によって今後栽培が可能となる品種を同社から提案し、今後の生産に向けて検討が始まっている。

「TWINZ」は、データの掛け合わせにより幅広い産業に応用可能だという。具体的には、食品メーカー向けの原料調達の最適化や商品開発支援、金融機関向けの気候リスク評価や投資判断支援のほか、小売業や物流業、観光業などで活用できるとしている。

Penguin Labs代表 赤塚慎平氏のコメント
「私たちは、気候という目に見えない糸で世界中とつながっています。その糸の存在に気づき、たどることで、これまで誰も想像していなかった可能性が見えてきます。TWINZは、その可能性を発見するための道具です。気象データは農業以外にも、様々な産業・サービスとリンクしています。ぜひ、皆様の想像力で面白い事業を一緒に進めましょう!」


Penguin Labs合同会社
https://penguin-labs.com/
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
パックごはん定期便