農研機構、いもち病に強く耐倒伏性に優れた水稲新品種「あきいいな」を育成

農研機構は、多収で葉いもちに強く、耐倒伏性に優れた新品種「あきいいな」を育成したと発表した。同品種を導入することで、飼料用といった新規需要米の低コストで安定的な生産が期待される。

「あきいいな」の株標本 左から「あきいいな」、「ホシオアバ」、「ヒノヒカリ」
(参照:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/162373.html)

耐病性に優れ倒れにくいため安定生産が可能に


近年、主食用米の国内需要が年に10万トンのペースで減少していて、この現状に対応するため、農林水産省では、米粉用や飼料用といった新規需要米向けの多収品種の作付けを推進している。

多収品種は、肥料投入量を増やすことで一般品種より大幅に収量を増大することが可能だ。しかし、窒素の多施用により、いもち病などの病害虫や倒伏が発生しやすく、結果的に収量の減少、防除コストの増加、作業効率の低下を招くという問題があるという。

これまでに育成されている新規需要向け多収品種にも、いもち病に強い品種はあったが、いもち病の中でも特定の系統のみの感染を防止するものであり、違う系統のいもち病が蔓延すると感染してしまう例が報告されていた。

そのため、新規需要米をより低コストかつ安定的に生産するには、いもち病菌の系統が変動しても安定的に効果を発揮する抵抗性や、耐倒伏性に優れる多収品種が求められていたという。

 「あきいいな」の草姿 左から「あきいいな」、「ホシオアバ」、「ヒノヒカリ」
(参照:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/162373.html)

農研機構が育成した「あきいいな」は、種子親として耐倒伏性が強く多収の飼料用系統「飼45」、花粉親としていもち病ほ場抵抗性、耐倒伏性が強く、縞葉枯病抵抗性があり多収の主食用品種「たちはるか」の組み合わせで育成された品種。収穫の秋に十分な水準の収量が確保できることから、「あきいいな」と命名された。

今回の研究では、飼料米に適した多収品種「ホシアオバ」と、主に西日本で栽培されている良食味品種「ヒノヒカリ」を同時に栽培し、品種特性の比較が行われた。

「あきいいな」の特徴として、ほ場抵抗性遺伝子であるPi39を持つと推定され、葉いもちや穂いもちにも強く、幅広い系統のいもち病のほか、縞葉枯病にも抵抗性を持つため収量の安定化が期待される。また、多肥条件であっても、倒伏は「ホシアオバ」よりやや少なく、「ヒノヒカリ」より少ないことから、耐倒伏性はやや強いことが確認された。

収量については、「ホシアオバ」と同等で、「ヒノヒカリ」より約20%多い。

育成地である九州北部では、出穂期は8月21日ごろ、成熟期は10月19日ごろと、「ヒノヒカリ」とほぼ同様に。

その他の栽培特性や栽培上の注意点は以下の通りだ。

・温暖地の平坦部および暖地での栽培に適している。
・稈かん長ちょうは100 cm程度と「ホシアオバ」と同様に長く、穂長も「ホシアオバ」と同様で、穂数は「ホシアオバ」並からやや多い。
・多肥栽培に適しているが、極端な多肥は、いもち病などの病害虫の発生や倒伏の恐れがある。
・穂いもちほ場抵抗性は”やや強”だが、穂いもちの多発が予測される場合は、予防的に薬剤散布を行うなどの防除を検討する必要がある。
・白葉枯病抵抗性が不十分なため、常発地での栽培は避ける。

「あきいいな」は今後、山口県で飼料用米としての栽培が見込まれている。原種苗については、品種利用許諾先で、2024年度に種子増殖を行い、2025年度から生産者へ種子を提供する予定だ。

農研機構
https://www.naro.go.jp/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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