ドローン 、無人ヘリ、スプレーヤーの防除効率と使い分け方【ドローン防除請負業者の本音 第3回】

北海道十勝地方は、例年通り4月下旬頃から各畑作物の植付けが始まり、さらに5月下旬から植付けと管理作業が重なるため人や機械が多く集まり、連日の作業の疲れから作業事故も起こりやすくなる時期です。

そして、この時期だからこそドローンをうまく使って欲しいと思っています。

この時期は、いろいろな畑作物の殺菌剤や殺虫剤、除草剤の散布が重なります。そのため、散布後にスプレーヤーのタンクなどの洗浄を入念に行わずに、違う薬剤が混じった結果薬害が起きたり、除草剤が混じり、せっかく植付けしたのに枯らしてしまう場合があるのです。

防除が重なるときには、作業負担の軽減や農薬混在のリスク回避をするために、うまくドローンを活用していただければと思っています。

(写真提供:Garden)

十勝地方での防除で増えているドローン 


北海道十勝ですと、5月中は畑作物の植付けや肥料散布、防除作業などが多く重なります。作業負担の軽減や農薬混在のリスク回避をするためにご依頼をいただき、農家の方は植付けしてすぐの圃場に肥料散布と除草剤の散布作業を行い、違う圃場の作物はドローンで殺菌剤と殺虫剤散布をしたこともあります。農家の方には、作業負担が減り、適期の作業が確実にできるようにうまく活用いただいている方もいます。

ただ、大規模農業でドローンは本当に使えるのかといった声は多いと思いますので、一部の例を活用して比較していきたいと思います。

北海道十勝で作付けされる小麦のほとんどは、主にうどんやそうめんなどの麺類に使用される「きたほなみ」という品種です。この品種は、9月中旬ごろに播種し越冬させ、翌年の7月下旬頃に収穫します。

1回目の防除は、11月頃に越冬後の病気を防ぐために雪腐病の防除を根雪前に行います。この11月の雪腐病の防除を、無人ヘリコプターや産業用ドローンによる空中散布で行う需要が増加傾向にあります。

背景としては、収穫や出荷時期に重なること、また夜は氷点下になることも多く、圃場がぬかるんで散布に入れなかったり、散布後にスプレーヤーに不凍液を入れないと凍ってホースが破裂する場合があることなどです。その手間や経費を考えた時に、空中散布の方が圃場条件が関係なく、作物も痛めない、機械のメンテナンスをしなくて済むということで需要が増加してきています。

越冬後は、6月中旬ごろの出穂揃期(穂の部分が穂首まで生えそろう時期)に赤かび病の防除を、その後は生育状況をみながら殺菌剤や殺虫剤を散布し、収穫時期の7月下旬ごろまでに3回前後の防除を行います。

ですので、北海道十勝では播種から収穫までの間に殺菌剤や殺虫剤、除草剤の防除作業を7回前後行っています。

防除ツールの使い分け


ここからは、ブームスプレーヤー、産業用ドローンと無人ヘリコプターについて、それぞれの特徴を説明していきたいと思います。

小麦に防除する場合の比較(例)
※表は合同会社garden独自調べ。メーカーの試験、実績、聞き込みなどの平均で算出。メーカーや規格、機種によって多少の誤差はあります。

ブームスプレーヤー

ブームスプレーヤーはマウント式、牽引式、自走式の3種類があります。

マウント式(写真提供:Garden)

マウント式とは、トラクターの後部に背負う形で取り付けるスプレーヤーで、ほとんどの生産者の方がこのマウント式を使用していると思います。

牽引式(写真提供:Garden)

牽引式は、トラクターの後部に牽引する形で取り付けるスプレーヤーで、大量に水を汲むことができ、広大な圃場を散布する際に、一気に散布することが可能です。

自走式(写真提供:Garden)

自走式は、スプレーヤー自体にコックピットがあり、そのまま操縦することができるスプレーヤーなので、トラクターへの付け替え作業をする必要がなく、すぐに散布作業ができます。

十勝では広大な圃場を効率よく散布するため牽引式が増えてきており、1回で5000L汲める大型の牽引式を使う方もいます。

ブームスプレーヤーは農薬に最適なノズルに変更もできるので、最も効果的にムラなくしっかり散布することができると思います。そのため、基本的にはブームスプレーヤーで散布するのがいいと思います。

ただ、大型化の影響もあり車重があるため、少しでも畑が湿っているとぬかるんだり、防除通路を壊してしまったり、傾斜地などの形の悪い畑では小回りがきかないなどの弊害もあります。また、牽引するトラクターの馬力も求められるので、トラクターの更新も行うと導入コストが非常にかかってしまいます。

産業用ドローン&無人ヘリコプター

(写真提供:Garden)

産業用ドローンはいろいろなメーカーで開発されており、積載量が5〜24Lまでと幅広くあり、完全自動操縦のドローンも発売され、完全自動操縦に限り夜間飛行も可能になりました。

無人ヘリコプターは主に、積載量16L、32Lというサイズがあります。

意外に思われるかもしれませんが、上記の表にあるように、産業用ドローンと無人ヘリコプターでは1ha辺りの作業時間は変わりません。しかし、積載量と連続作業時間は無人ヘリコプターの方が多くなります。そうなると1日の作業面積に影響が出てきそうですが、最初の記事でも記載した通り実際はそこまで大きな差は出ていません。

産業用ドローンと無人ヘリコプターで大きく差が出るのが、ダウンウォッシュによる作物へのダメージです。プロペラは飛ぶために下方へ風を作り出しており、この吹き下ろされる風のことを「ダウンウォッシュ」といいます。このダウンウォッシュは強烈な風で、台風並みの風力を発生させます。また、浮き上がる時の重さによってもダウンウォッシュの風力は変わります。

このため、畑作物の上を飛行させるときには機体と散布する物の比重を含めた全体の重さも考え、規定の高さより高く飛ばさないと、作物が倒れたり折れたりして逆に病気が入ることとなり、製品価値を無くしてしまいます。十勝はばれいしょで飛ばすことが多いので、成長具合で飛行の高さを調整するようにしています。

空中散布対応農薬の拡大が課題


産業用ドローンと無人ヘリコプターの両者に共通する要素として、空中からの農薬散布は少水量・高濃度での散布になります。なぜ高濃度かというと、量を積むことができない産業用ドローンや無人ヘリコプターで、地上散布に近い防除効果を発揮するためです。

通常、地上で散布する農薬は、100L/10aに対し希釈倍率が1000~2000倍ほどの濃度で散布しています。そして、空中散布用の農薬は、0.8L/10aに対し希釈倍率が8~16倍ほどでかなりの高濃度となっています。

ただ、希釈倍率で比較してしまうと非常に濃く感じますが、実は10aあたりに落ちる薬量は地上散布と同じ量になるようになっています。

計算例



従来農薬の希釈倍数の変更には、農薬メーカーの登録・表示が必要で、農林水産消費安全技術センター(FAMIC)による検査が必要です。

農薬のリスク評価として、登録申請時に提出される毒性試験の結果から、ヒトがその農薬を一生涯に渡って毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される一日摂取許容量(ADI:Acceptable Daily Intake)と、ヒトが24時間又はそれより短時間の間の経口摂取によって健康に悪影響がないと推定される急性参照用量(ARfD:Acute Reference Dose)が、食品安全委員会により設定されます。

さらに、対象作物ごとに申請された使用方法で実施された作物残留試験における残留量を調べ、その値が残留基準値(MRL:Maximum Residue Limit)を超えないように、使用方法(希釈倍率や収穫前日数などの使用基準)が決められており、農家や農業に関わっている方は守りながら畑作物を生産しています。

現在、空中散布に対応できる高濃度の農薬として登録を受けている農薬は、2019年2月時点で646剤。うち北海道十勝で防除体系を崩さないで使える農薬は、先ほど例に挙げました小麦の場合だと5剤程、畑作物全体でも50剤以下ととても少なく、畑作の分野で産業用ドローンや無人ヘリコプターがブームスプレーヤーの代わりを完璧に行うのは現場では不可能です。

ですので今のところは、産業用ドローンや無人ヘリコプターは、適期防除ができない部分のサポートや悪天候時、作業事故のリスク回避など、生産者の方が使いたい時に都合よく使うことができる存在であることが必要だと思っています。


合同会社Garden
https://gardenllc-dr.amebaownd.com/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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