「農業用ドローン」がもたらす日本の農業の未来像とは? 【ゼロから始める農業用ドローン入門】

AI(人工知能)やICT(情報通信技術)と並んで、スマート農業を実現するための技術として注目されているドローン。日本語では「無人航空機」と呼ばれ、航空法に規定された航空機のひとつとされている。

すでに農業においてドローンがいかに便利か、いかに初心者でも飛ばしやすいかはご存じかもしれないが、その具体的な仕組みや飛ばし方、実際に導入する場合に、どこで購入すればいいのかわからない、という方も多いのではないだろうか。

そこで今回から数回に分けて、農業用ドローンがなぜスマート農業で注目されているのか、これほどまでに急速に普及した理由、そして農業における期待と役割について解説する。また、国内で購入可能な代表的な農業用ドローンもご紹介していきたい。

農業用ドローンの定義と種類

ドローンは英語では「Drone」と表記する。意味は「オスのミツバチ」や「ぶーんという音」で、複数のプロペラを持つ一般的なドローンが飛行している時の音から来ていると言われている。
(※広義では水中用ドローン、地上走行ドローン、水上走行ドローンなども存在するが、本稿では飛行タイプについて扱う)

ドローン自体の活躍範囲は現在非常に広い。ざっと挙げるだけでも以下のようなものが考えられる。
  • 映像作品などの撮影
  • 報道目的での撮影・中継
  • 災害現場での捜索
  • 危険地帯での観察・調査
  • 動植物の生態観察
  • 建築物などの点検
  • 工事などの際の測量
  • 専用機体によるレース
  • セキュリティシステムによる監視
  • ラストワンマイルの荷物の輸送
  • 農業での散布や圃場観察
  • 少人数の人間の移動

まだ実用化されていないものもあるが、いずれも研究・開発が進められており、さまざまなニーズに合わせてドローンの活用が期待されている。

そのなかで、いまにわかに注目を集めており、すでに実用化されているのが「農業用ドローン」だ。農業での使用に特化した機能を持つドローンのことだが、用途によってふたつのタイプに分けられる。

マルチコプター型ドローン

ひとつは、マルチコプター型ドローン。複数のプロペラで飛行し、ホバリングや前後上下左右の自由な移動が可能。薬剤や固形物の散布などに向いている。一般的にドローンと言われるとこちらを思い浮かべる方が多いだろう。

マルチコプター型ドローンの例

マルチコプターは複数のプロペラを備えることで安定的な飛行を可能としている。4ローターの「クワッドコプター」だけでなく、6ローターの「ヘキサコプター」や8ローターの「オクタコプター」では、ローターが故障した際にもバランスを取ることが可能だ。積載・運搬する量によっても大きさやパワーが変わってくる。農業用ドローンでは、6ローター以上のパワーが大きいものが一般的となっている。

固定翼型ドローン

もうひとつは、固定翼型ドローンだ。文字通り翼が固定されており、見た目はグライダーのような形状をしており、飛行機に近い。こちらはプロペラのような可動部がなく、飛行機と同様に浮力を用いて飛行するため、広範囲・長時間の飛行が可能。上空からの圃場撮影などに用いられる。

固定翼型ドローンの例

固定翼型ドローンは、その特性から重量物を積載することは難しく、主に上空から広大な圃場を撮影して画像解析するといった用途で用いられる。

農業用ドローンの活用事例

農業用ドローンの活用はすでに多方面で進められているが、どのような目的で使われているのだろうか。ここからは、主にマルチコプターの活用事例を挙げてみよう。

農薬散布/肥料散布/播種

最も代表的な例が、農薬や肥料の散布だ。ドローンに薬剤などを積載し、圃場などに散布する。散布のためのタンクやノズルと、それをコントロールするためのシステムが必要で、農業用専用のドローンが各社からリリースされている。

エンルートのAC1500は液剤だけでなく粒剤の散布もオプションで可能

ドローンの活用分野としてはまだ歴史は浅いが、農薬散布を請け負う業者から農家個人まで、幅広いユーザーが実際に散布を行うようになってきている。

また、ドローンオペレーターと散布を行いたい農家をマッチングし、散布を委託する「DRONE CONNECT」といったサービスも登場している。機材の価格やメンテナンスなどのコストが大幅に減ったことで、これまで大きな法人でしか実現できなかった散布の個人請負も可能になったことも、ドローンの普及による新たな農業の仕事の創出とも言える。

■参考記事
「DRONE CONNECT」レポート──経験豊富なパイロットが農作業をサポート


圃場撮影・分析

いわゆる「精密農業」に最も相性がいいのもドローンだ。ドローンにより圃場を撮影し、その画像データをAIなどで分析して、生育状況を確認したり、病害虫の発生と予防に役立てるというものだ。主に撮影が目的となるため、必ずしも散布機能を持つドローンである必要はなく、「DJI PHANTOM」「同MAVIC」といった撮影機能のみの民生用ドローンに対応しているサービスもある。

スカイマティクスの「いろは」は撮影した圃場データから葉色を分析する

撮影した画像をもとに圃場全体の画像を合成し、高解像度の画像を細部まで分析することで、虫食いや病気などを判別するという仕組みも増えている。ドローン自体ではなく、分析するソフトウェアやサービスが必要になる。


農業用ドローンを活用した未来の農業とは?

農業用ドローン自体も続々リリースされており、クラウドなどを活用したサービスも増えている。これらはすべて、農家ができなかったことの実現、または農家がしてきた重労働の軽減というかたちで貢献している。

では、これらのドローンが日本の農業でどのように活用できるのだろうか。

ピンポイント農薬散布

圃場の中から病害虫が発生している箇所、または発生しそうと予想される箇所を見つけ出し、農薬を散布するというもの。撮影した圃場データから散布が必要な場所だけを絞り込み、その場所だけに農薬を散布する「ピンポイント農薬散布テクノロジー」という特許技術が、オプティムによって実用化されている。

必要な場所にだけ農薬を散布すればいいため、作物への散布は部分的で済むことで薬剤のコスト削減にもつながる。場合によっては「散布の必要なし」ということもあるかもしれないし、分析の結果、懸念される箇所だけ人力で対応することで散布を減らすこともできるだろう。

ゆくゆくは、人がいないうえに病害虫が活性化する夜間にドローンを飛ばすことで、防除効果をさらに上げ、労働時間の軽減につなげるという取り組みも行われている。また、夜間にカメムシを集めて処理するといった研究開発も進められている。

オプティムが実施している、夜間のカメムシ防除の実証実験。画面の青い光がドローン

■参考記事
「ピンポイント農薬散布テクノロジー」が農家にもたらす3つのメリットとは?

完全自動飛行

GPSなどで指定した圃場の範囲内を自動的に飛行し、撮影や散布を行う機能が完全自動飛行だ。

現在は機体の安全性や正確性などの課題もあり、いわゆるボタン一つで飛行して作業を終えて戻ってくるところまでの完全自動飛行は行っていない。しかし、個人の圃場のみに限定すれば、自動飛行自体は技術的にも可能で、すでに中国などでは自動飛行が実用化されている。

中国のXAIRCRAFTは完全自動飛行をすでに実用化済み。写真はP10

ここまでくれば、操縦方法さえも覚える必要がなく、農家はタブレットなどで範囲を指定するだけでいい。

有機栽培・自然栽培への応用

ドローンというとどうしても「農薬散布」がセットのように語られるが、10年、20年先の未来を考えれば、別の方法で病害虫に対策することだってできるはずだ。

自然農法で使われてい液剤を用いたり、人力での害虫駆除をドローンが肩代わりする可能性もないわけではない。スマート農業=効率だけではなく、環境や健康に配慮した農業の実現のために最先端の技術を活用することも不可能ではないはずだ。


まとめ

すでに「ピンポイント農薬散布テクノロジー」も「完全自動飛行」も、技術的には実用化されており、国内においても近い将来常識のようになっていくだろう。

ただし、いかに便利になっても最終的に判断する際には人間の知恵や経験が必ず必要になる。AIや機械に任せられる部分は任せ、そのかわりに農家は別のところでその知見を活かすことが、これからのスマート農業では求められるようになってくるだろう。

飛行技術などを知らなくても、ドローンを使って農作業を効率化できる時代は、もうすぐそこまできている。

<参考URL>
農業 x ITソリューション|オプティム
エンルート
XAIRCRAFT
スカイマティクス

【連載】ゼロから始める農業用ドローン入門
  • 「農業用ドローン」がもたらす日本の農業の未来像とは? 【ゼロから始める農業用ドローン入門】
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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