直進アシスト機能付き田植機は初心者でも簡単に使えるのか?【生産者目線でスマート農業を考える 第11回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

前回は、「全国初! 福井県内全域をカバーするRTK固定基地局はスマート農業普及を加速させるか?」と題して、福井県の県域をカバーするRTK固定基地局の事例について紹介させていただきました。

この約2年間、スマート農業の現場を何度も訪問させていただいてスマート農業の現場を視察しています。現地で導入されたスマート農業技術で「これは便利!」と強く感じているのが、直進アシスト機能付き田植機です。

そこで、今回は三重県伊賀市で導入されている、水稲の種子生産用の直進アシスト機能付き田植機の特徴と今後の方向性について報告します。


今回の事例: 三重県伊賀市の水稲種子生産用直進アシスト機能付き田植機導入事例

 

三重県の種子生産を支えていた中山間地域では、高齢化などによる離農で採種面積が減少。担い手や新規就農者が容易に多品種の種子生産に取り組めることが大きな課題になっていました。

そこで、これまで機械化が遅れていた種子生産に精密管理作業や優良種子生産のための生育管理、適期収穫判断にスマート農業技術を導入できないかと、農研機構が行っている「スマート農業実証プロジェクト」に応募し、採択されることになりました(このプロジェクトの概要については 連載第3回目のスマート農機は安くないと普及しない? で取り上げています)。


ヒラキファームの種子生産用圃場(筆者撮影)

スマート農業実証プロジェクトの実証経営体は、三重県伊賀市にあるヒラキファーム。プロジェクトは、「三重県スマート水田農業コンソーシアム」(代表機関:三重県農林水産部農産園芸課、進行管理役:三重県中央農業改良普及センター普及企画室)の体制で実証試験を進めています。

三重県農林水産部農産園芸課主任の高橋勇歩さんは、「令和2年度の実証試験では、可変施肥田植機を用いた施肥量の制御や、水田センサーを活用した省力高精度水管理などについて一部課題が見られました。しかし、水稲種籾生産のスマート化で改善すべき点や使えそうな技術が明らかになり、水稲種子生産のスマート技術確立に対してある程度目途が立ってきました」と手ごたえを感じていました。


株式会社ヒラキファーム取締役専務の平木伸二さん(右)と農場長の森大輔さん(左)(筆者撮影)

そのために導入されている技術の一つに、高精度な田植作業が可能な「直進アシスト機能付き可変施肥田植機」があります。この技術は、以下の2つを目的として導入されています。

  1. 経験の浅い後継者(新規就農者)でも安定した直進作業を可能にすることで、運転操作における疲労やストレスを軽減する
  2. 田植行程間の条間を一定にすることで、後の作業となる「機械除草」において稲体の損傷を軽減する

なお、今年度ヒラキファームでは、可変施肥について詳細な実証をすることになっています。


直進アシスト機能付き田植機の実証結果


筆者が注目している「直進アシスト機能付き田植機」とは、GPS(全地球測位システム)を活用した『直進キープ機能付田植機』のことです。

使い方は難しくありません。最初にオペレーターが畦に沿って走らせ、田植の起点となる「A点」と、終点の「B点」を登録します。以降はA点とB点を結んだ直線に沿って、ハンドル操作なしでまっすぐに走ってくれます。


可変施肥&直進アシスト田植機「NP80DLFV8」(三重ヰセキ販売株式会社)を運転する森大輔さん(写真提供:三重県伊賀農林事務所・伊賀地域農業改良普及センター)

この実証プロジェクトの調査項目は以下の3点です。

  • 直進精度の向上
  • オペレーターへのアンケート調査による労働負荷軽減の数値化
  • 未習熟者での検証

2020年度の実証結果を「令和2年度成果結果報告書」から抜粋し、4つの成果をまとめてみました。


(1)直進精度は確実に向上

資料:令和2年度実証試験結果より作成
田植行程間の条間の長さを、直進アシスト機能「有り」と「無し」で比較しました。最大値と最小値の差が小さく、変動係数は「有り」が17%と、「無し」の29%に比べると大幅に小さくなりました。

この結果で、直進精度の向上が確認できました。なお、オペレーターは作業経験8年目の熟練者で行っています。


(2)作業習熟者にとっては、作業能率はあまり変わらない

資料:令和2年度実証試験結果より作成
次に作業時間を見てみましょう。直進アシスト機能「有り」では、少し作業時間が増えています。これは作業経験8年目の熟練者が乗り慣れている直進アシスト機能「無し」の田植機の方が速い速度で運転できるからだと考えられます。

使用苗箱数に直進アシスト機能の使用の有無による差は認められませんでした。


(3)労働負荷は変わらないが、操作性の改善で作業速度が向上

作業負担はいずれの従業員も「変わらない」という評価でした。一方、操作性については、直進アシスト機能があると「やや簡単になった」という意見でした。

ヒラキファームの森大輔さんは「田植時に水深が深く、マーカー跡が確認しづらい圃場では直進アシスト機能を使用することで作業がしやすくなり、作業速度が高まりました。今後も直進アシスト機能付き田植機を使用したいです」とその直進性を高く評価しています。


(4)経験が浅くても簡単・キレイに操作可能

2021年4月27日、田植初心者の方(三重県職員)に直進アシスト機能付き田植機を使用した、田植を体験してもらいました。この職員の方は「通常の田植機と全然違う。少し教えてもらっただけで真っすぐに田植えができました」と語っています。

ヒラキファームでは自費で直進アシスト機能付き田植機を1機購入しています。三重県農業研究所伊賀農業研究室主幹研究員兼課長の中山幸則さんは、この田植機について「直進性がかなり優れていて、GPSの精度も高い(とらえている衛星数が多い)。アシスト有りでも最高速での作業が可能で、曲がったときの補正も速いようだった」と解説してくださいました。

このように直進アシスト機能付き田植機を使うと、未習熟者でもまっすぐな田植が可能になることが検証できました。

初めて直進アシスト機能付き田植機を操作する三重県職員の方(写真提供:三重県農林水産部農産園芸課)

高齢者や初心者でも安心して田植えできる


直進アシスト機能付き田植機の値段は、通常の田植機より10%ほど高めです。しかし、その直進性は後の作業となる機械除草が楽になるため、ヒラキファームでは今年自費でさらに1台購入しています。

スマート農機は一般的な農機に比べると価格が高く、経済的効果が発揮しにくいのは、ここ1~2年のスマート農業実証プロジェクトの結果からもわかってきています。

しかし、高齢化などによる離農が問題視され、農外の方々など誰でも農業に参入できるようにするには、農機などの操作が簡単に行えることは欠かせません。人間技では難しい「直進性」を確保できるのは、スマート農業の大きなメリットと言えるでしょう。

また、初心者でも田植が楽にできることも重要なポイントです。直進アシスト機能付き田植機は経済性以外の効果も多く、なかでも人間の操作では難しい精密な作業を楽に行えるのが大きな特徴です。

筆者は今後、直進アシスト機能付き田植機は、田植機の「スタンダードになる」と予想しています。

スマート農業生産者の支持がないとスマート農機は普及しません。この三重県の事例のように、スマート農業を評価するには、生産者の関心が高い「軽労化」「精密性」など、経済性以外の視点も重要となってくるでしょう。


※本実証課題は、農林水産省「スマート農業実証プロジェクト(課題番号:水2E06、実証課題名:多様な品種供給を可能にする中山間水稲採種産地向けのスマート採種技術の実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。


商品情報|さなえNP80D-Z[ロータリ式8条]|井関農機株式会社
https://www.iseki.co.jp/products/taueki/taue-np80dz/


【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。