果樹用ロボットで生産者に寄り添うスマート農機ベンチャー【生産者目線でスマート農業を考える 第2回】

皆さん、こんにちは。

前回は、中山間地でスモールスマート農業を導入して頑張っている生産者を紹介させていただきました。

「生産者ととことん話し合うのは、スマート農業導入に重要ですね」「今後のスマート農業は流通まで含めたバリューチェーンを考えなくてはいけないと感じた」などの御意見や感想をいただき、うれしく思っています。

今回は、大阪・南河内地域で拝見したスマート農業についてご紹介します。

7月21日、農研機構が進める「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」に参画する実証コンソーシアムの推進会議に参加するために、富田林市にある大阪南河内府民センターを訪問しました。

実証課題は「果樹用ロボット等による管理・収穫作業の労働力不足解消体系の効果実証」(実証代表者:特定非営利活動法人太子町ぶどう塾、進行管理役:大阪府南河内農と緑の総合事務所 農の普及課)で、1年間の計画や翌日の実証試験について話し合われました。弊社もこのコンソーシアムのメンバーになっており、労働負荷や作業時間などの調査を担当しています。


生産者の意見をすぐに反映


7月22日に実証試験などが予定されているラジコン運搬車について、太子町ぶどう塾理事長の佐藤正満さんは、「デラウエアの収穫箱を運搬車に入れた後、動かないように固定できるとありがたいな」と気にされていました。約6㎏の箱を運搬車に12個も積む予定だったので、運搬中に箱が動くことが予想されたからです。

そして、翌日の実演会当日。デラウエアを運搬する車両の枠の両側には穴が開けられ、固定用の紐まで用意されていました。

「こうしてくれると収穫箱が動かないのでありがたい」と嬉しそうに語る佐藤さん。運搬車を開発した株式会社イーエムアイ・ラボ技術顧問の荒井克人さんは、「昨日の会議のあと、枠に穴を開けて、ホームセンターで紐を買ってきました」とさらりと語ってくれました。

シンプルな造りのラジコン運搬車(筆者撮影)

実証試験の概要とスマート農機との出会い


この実証試験の代表機関である太子町ぶどう塾は、太子町内のぶどう農家等を対象に103人の社員で援農を行う全国有数のNPO法人です。ぶどう塾を毎年実施し、多くの援農ボランティアと新規就農者を育成してきました。

斜面に造られた波状型ぶどうハウス(筆者撮影)
高齢農家からの援農要請が年々増加する中、コロナ禍でお母さん方のパートさんを集めるのが困難になっており、その代替手段として省力化技術を探していたそうです。そこで太子町ぶどう塾は、農研機構が令和2年度(2020年度)補正予算で公募した「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」に応募し、採択されました。

この計画を作り上げたのが、大阪府の普及指導員である南河内農と緑の総合事務所 農の普及課総括主査の山口洋史さんです。

山口さんが考えた実証試験は、

  1. 農薬散布ロボットによる防除労働力削減(ぶどう)
  2. 農薬散布ドローンによる防除労働力削減(温州みかん)
  3. 除草ロボットによる草刈り労働力削減
  4. 運搬ロボットによる収穫物の運搬労働力削減

の4本柱です。

「今までのスマート農機は、『(農機が)出来上がったので、(生産者に)使ってください』と依頼するスタンスが多かった。生産者の要望を聞いて、現場に合わせてくれるスマート農機を探していた」と山口さん。ネットで検索していて目にしたのが、2018年に創業したばかりのベンチャー企業、株式会社イーエムアイ・ラボの製品で、大阪府の狭小なぶどう園で使えるのは、「これだ」と思ったそうです。


ラジコン運搬車などの実証


推進会議翌日の7月22日は、ラジコン運搬車とラジコン草刈り機の実証試験とデモなどが行われました。運搬車の実証試験では、デラウエアを人力で運んだ場合とラジコン運搬車を使った場合とで時間や作業強度(心拍数や作業姿勢)について、熟練者(佐藤理事長)と非熟練者(大阪府南河内農と緑の総合事務所技師 山田優さん)の2人に対して調査しました。

運搬車の性能は、積載能力が100㎏、走行速度は時速10㎞ほど。サイズは縦100cm×横100cm×高さ約70㎝で、稼働可能時間は1回の充電で約50分走行できます。その他、RTKやみちびきなどのGPS制御による自動走行も可能ですが、今回の実証は手動操作で行っています。

ラジコン運搬車は思ったより操作が簡単なようで、佐藤理事長も山田さんもすぐに覚えられ、ラジコンで操作できるようになりました。運搬については、このロボットを使った場合の方が、人力より時間が短く、心拍数も低くなり、作業の省力化や軽労化が期待できそうです。

運搬ロボットを操作する佐藤理事長(筆者撮影)
ただし、ロボットを使った場合、意外なところに時間がかかることがわかりました。

ぶどう箱を運搬車に積む佐藤理事長(筆者撮影)
運搬車にぶどう箱12個を詰める際、運搬車の枠との隙間がほとんどなく、積むのに思いのほか時間がかかっていることでした。イーエムアイ・ラボの荒井さんは、「枠をスライド式にするなどして改善したい」と述べられていました。

また、草刈り機の実演では、前日までの雨と地面のデコボコのために、タイヤがスリップして、なかなかうまく動かないという事態になりました。

ぶどう園を走るラジコン草刈り機(筆者撮影)
「草刈りロボットが動作するには、ある程度、圃場が整備されている必要がある」と言いながらも、「今後、走行性能についてはもう少し改善したい」と荒井さん。あくまでも前向きな態度です。


生産者に合わせようとする姿勢


イーエムアイ・ラボの荒井さんは、東京農業大学を卒業され、信州大学大学院 総合理工学研究科で学ばれました。荒井さんの実家はリンゴ農家で、農業の現場は知り尽くされています。

「スマート農機は、完成品を生産者に提供するのではなく、プロトタイプを作り、生産者から意見を聞きながら改善していくべきだ」との主張を持たれ、実践されています。

このようなフットワークの良さは、ベンチャーだからできることのように感じています。ただ、長野県出身の荒井さんが「大阪のぶどう栽培の現場は想像していたものとかなり違っていて、難しい面があった」と素直に認められているとおり、農業現場は地域によっても違いますし、生産者個々によっても異なります。

開発業者も地域の特徴に合わせて改良していくことが必要です。ただし、ラジコン草刈り機のように草刈り機が入りやすいように圃場を整備しないと、スマート農機が現場で使えるものにならないのがスマート農業の難しいところであると感じています。

スマート農業普及のために


7月22日の午後には、大阪府立環境農林水産総合研究所農業大学校の学生が実習を行いました。

ラジコン運搬車の操作方法を学ぶ農業大学校の学生(筆者撮影)
ラジコン運搬車を操作する農業大学校の学生(筆者撮影)
10名ほどの学生が実際にラジコン運搬機の操作も体験しました。学生たちは、19歳、20歳くらいと若く、将来農業の担い手になられる方々です。女子学生が率先して、ラジコン運搬機や草刈り機を操作するなど、学生の関心は上々だったようです。

今後は、農薬散布ドローン(温州みかん)、農薬散布ロボット(ぶどう)の現地実演会が予定されています。

筆者も、これからどのようなスマート農機が登場し、どのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、期待感を持ちながら、見守っていきたいです。また、機会があればその結果などをこのコーナーでも紹介できればと思っています。

※本実証課題は、農林水産省「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証(課題番号:果wF03、実証課題名「果樹用ロボット等による管理・収穫作業の労働力不足解消体系の効果実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。


特定非営利活動法人太子町ぶどう塾
https://taishibudojuku.jimdofree.com/
株式会社イーエムアイ・ラボ
https://emi-lab.jp/
株式会社日本農業サポート研究所
http://www.ijas.co.jp/

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WRITER LIST

  1. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  2. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  3. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  4. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  5. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。