【特別対談 クボタ×長野県連合青果(後編)】生産者が持つデータによるバリューチェーン構築の可能性

農機メーカーと青果物流業でそれぞれ大手である、株式会社クボタの飯田聡特別技術顧問と長野県連合青果株式会社の堀陽介社長の対談を、前後編でお届けする(聞き手は窪田新之助)。


後編では、日本農業の発展に向けた、データによるバリューチェーン構築の可能性と課題についてお話しいただいた。

■前編
【特別対談】青果流通業界が抱える転換点の課題 ──クボタ 飯田聡特別技術顧問×長野県連合青果 堀陽介社長(前編)

■【特集】クボタが描くスマート農業の未来
目指すはPDCA型農業 〜クボタ・飯田聡特別技術顧問に聞く【第1回】
最終目標は高度営農支援システム〜クボタ・飯田聡特別技術顧問に聞く【第2回】
農機の無人化に向けた現状と課題 ~クボタ・飯田聡特別技術顧問に聞く【第3回】

聞き手:窪田新之助

生産データが欲しいのは流通業者

長野県連合青果株式会社 堀陽介社長

窪田:
サプライチェーンに携わる事業者が積極的に生産に携わっていくという点で、堀社長は以前お会いした際に「環境センサーにかかる費用を出してもいい。収集したデータを必要としているのは我々流通業者だから」と話されていましたね。

堀:ええ。すでにデータが価値を持つ社会になっていると思っています。生産のICT化が進み、生産側にある大量の価値あるデータが集められつつあります。現状はそれを次の生産へ活用しているわけですが、その投資が行えるのは一部の大規模な農業経営体に留まっているのではないでしょうか?

加えて、データの活用は生産現場に限らず、農業経営の中核を担っている流通にこそ大きく生かせるはずです。そのマーケティングをしたいのは誰かといえば流通側。そうであれば、流通業者がデータを集めるのに必要なお金を負担してもいいのではないでしょうか。

流通業界にも情報格差があるんですね。多段流通の中で生産に関する情報が我々に入りやすい時と入りにくい時があります。もし正確な情報を手にできるのであれば、流通側がセンサーに金を出す価値が十分にあるのかもしれません。

株式会社クボタ 飯田聡特別技術顧問

窪田:データによって構築されるバリューチェーンは日本農業にとって重要な課題だと思いますが、いかがでしょうか。

飯田:そうですね。バリューチェーンを定義すれば、生産から加工、販売がパートナーとなって、顧客層に新たな価値を提供し、利益を向上させてそれを適正配分することでしょう。ひいては日本農業の衰退を食い止めることになると考えています。

堀:私も同じ考えです。

飯田:そのためにはターゲットとなる顧客層に適期に適量を売るマーケティングが欠かせず、それには企画開発が大事になります。すでに意欲ある農家は自分たちでネットワークをつくり、マーケッティングをしていますね。

たとえば秋田県大仙市のライスボールさんは自分たちで作ったコメを自分たちの店でおにぎりにして販売をしています。
(※記事のリンク→大量離農で拡大する農地を「KSAS」で管理──株式会社RICEBALL(前編)

市場や顧客の嗜好を把握していくには、これから卸売と小売の役割が非常に重要になるでしょう。堀社長の会社の役割は農家にとってますます大事になってきますね。バリューチェーンを構築するには、農家と契約栽培をすることが望ましいと思うんですよ。その際、卸売が気になるのは契約通りに入荷できるかということ。需給を調整する必要がありますからね。それを解消するには情報が大事になる。

我が社の「KSAS」は栽培計画や作付計画を作れるので、いつ、どれだけの取れ高になるかがわかる。天候情報も手に入るので、そこから栽培過程がみえるようになり、いずれは収穫予測も立つ。さらに収穫高は平年と比べてどうなるかもわかるようになる。

契約栽培においてこれらの情報が活用できるようになれば、産地間での需給調整に役立つようになるでしょう。もしある産地である農産物が不足するのであれば、ほかの産地から仕入れる手配が早くできる。契約栽培で情報を使いこなせるようになれば、そういう判断ができ、いい循環が生まれるのではないでしょうか。

ただ、逆に今度は農家が流通の情報をどこまで分析し、経営に生かせるかなと思った時にはたと考えてしまいますね。

堀:農家の中にはその情報でマーケティングを自分でする方もいますが、多くはないのではないでしょうか。

飯田:自らの力でマーケティングまでできない農家に代わって流通業者が農家を儲かる道にしっかりガイドするのがいいのかなと思います。何を作ればいいのか、マーケットの側から掘り下げないと全体が儲かるようになりません。だから流通業者の役割はものすごく重要ですね。

堀:私たちもその役割を高めなければいけないと思っています。システム化によって省力化した労力をマーケティングに活用することを目指しています。そのマーケティングが農家と共にできる青果流通業者となり、社会の要求に応えていきたいと思います。そうすれば、青果流通業者として残ることは十分にできると考えます。


飯田顧問はバリューチェーンを構築するうえで「顧客層に適期に適量を売るマーケッティングが欠かせず、それには企画開発が大事」と語った。その能力を持った個々の農家や農業法人はあるものの、全体からみればごく少数である。だからこそ長野県連合青果のような青果流通業者の役割は今後大事になっていく。ただ、全国を見渡してこうした気概や意思を持った同業者が果たしてどれだけいるのだろうか。堀社長にはどんどん先鞭をつけてもらうことを願うばかりである。

末筆になるが、対談の場所としてクボタには東京本社の会議室をご提供頂いたこと、この場を借りて厚くお礼申し上げたい。

<参考URL>
長野県連合青果株式会社
株式会社クボタ
KSAS クボタ スマートアグリシステム
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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