新発田の米農家とオプティム、フードバンクしばたに米を寄付した理由

米どころとして有名な新潟県新発田市の「スマート米」生産者とオプティムが、生活に困っている人々に食料を提供している福祉団体「フードバンクしばた」に米を寄付した。

オプティムはスマート米「新発田コシイブキ」と「福島天のつぶ」を合わせて300kg、地元の3生産者はそれぞれ栽培した2021年度産の新米を300kg、合計で600kgだ。

世間では、2021年産米は余剰米が多い、利益が少なくもう米作りを続けられない、といった生産者の悲鳴が上がり、そのような経緯から寄付に至ったと想像される方も多いかもしれない。

しかし、それは彼らの趣旨とも、フードバンクしばたが目指す目標ともまったく異なる。米が余っているということと食品ロスの解消を都合よくつなげてしまうと、本質を見失うことになってしまうからだ。

今回の寄付は、「スマート米」の名のもとに新発田市で育まれたIT企業と生産者の輪が、どこまでも生活困窮者に寄り添おうとするフードバンクしばたの理念とつながった結果、実現したものだった。

米を寄付したオプティムと生産者の思い、それを配布するフードバンクしばたの思いをご紹介したい。

取材したオプティムの牧口さん(右から2番目)、フードバンクしばた理事の土田雅穂さん(中央)と、スマート米生産者の大倉さん(左端)、木村さん(左から2番目)、姉崎さん(右端)

フードバンク活動は、生活困窮者を救いつつ食品ロスを削減するためのもの


そもそもフードバンク活動は、1967年にアメリカで始まり、今では日本を含めた世界各国に広がっている。日本に本格的に伝わったのは2000年以降のことだが、格差社会の拡大やSDGsといった社会的課題の顕在化とともに、日本でもここ数年、急速にフードバンク活動の重要性が認知されつつある。

フードバンクの全国組織である一般社団法人全国フードバンク協議会による定義では、
フードバンクとは、安全に食べられるのに包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどの理由で、流通に出すことができない食品を企業などから寄贈していただき、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する活動です。
とされている。

農水省によると、日本では食品ロスが年間646万トンも発生している。これは日本の国民1人が毎日、茶碗約1杯分のご飯を捨てている量に相当する。

その内訳を見ると、規格外品や余剰生産、あるいは流通過程での外装損傷等により、本来食べることができる食料をも廃棄してしまっている。これはあまりにもったいない、それなら困っている人に届けよう、というのが、フードバンク活動の基本コンセプトである。

オプティムと新発田市の生産者がフードバンクしばたに米を寄付


新潟県新発田市の女性ドローンチームを覚えておられるだろうか? 新発田市の農業生産法人アシスト二十一、姉崎農園、豊浦中央ライスセンターに所属する女性社員が、会社の垣根を越えてドローンチームを結成した、という話である。

そのなかの姉崎農園の提言をきっかけとして、この3社とオプティムとが、「フードバンクしばた」にスマート米などを寄付することになった。

きっかけを作ったのは、姉崎農園の姉崎信弘さん。新発田市で35haの圃場を持ち、ご夫婦で米を生産している。今回、米を寄付しようと思い立ったのは、スマートアグリフードプロジェクトに参画したことだったという。


「今年からオプティムのスマート米作りに参加して、自分たち生産者のためだけでなく、環境にも消費者にも優しい米を作れました。これを単に売るだけでなく、地元に貢献できるような形で何かしたい、と考えるようになりました。

スマート米を作るにあたって、私たちはドローンを活用しています。そういう姿を見て、子どもたちが喜んでくれるんです。『あれ、農業って、お父さんって、カッコいいぞ!』って。

オプティムはITやドローンといった先進技術を私たちに提供してくれましたが、IT技術は世の中をフラットに、垣根のないものにする技術だと私は思うのです。

そのことと、スマート米を困っている人に届けることで、新発田市を垣根のない社会=困っている人がいない社会にしたい……という思いが重なり、同じスマート米作りをしている仲間とオプティムに相談したのです」

相談を受けたアシスト二十一の木村清隆さん、豊浦中央ライスセンターの大倉翼さんも快諾し、オプティムもこの申し出に協力することになった。


オプティムの牧口さんが、そこに込めた思いを語ってくれた。

「最近よく『SDGs』という言葉が聞かれるようになりましたが、農業生産の現場においても、持続可能性を高めるための取り組みが求められています。

このSDGsの考え方は、当社が継続的に挑戦しているドローン打込条播やピンポイント農薬散布ピンポイント施肥、適期作業アプリ等による減農薬・適量施肥といった生産方法とマッチしていると感じています。

当社が取り組んでいるこれらの新しい生産方法は、生産者にとっては安全で効率的ですし、農薬散布量と施肥量を減らせますから、環境への負荷を減らすことにもなります。結果として、それを口にする方にも、安心・安全なお米を提供できます」


今回、寄付したオプティムも3つの生産者も、本来は利益を上げるための商品であり、決して余っている米ではない。それでも、寄付を実現できた理由は、「フードバンクしばたの活動への共感と期待」だったという。

「私たちが新発田の生産者と一緒に作った『スマート米』を食べて喜んでいただきたい、というのは大前提ですが、そのうえで、フードバンクしばたとなら、次世代に対して何かできるかもしれない、という期待感もありました」

豊かに見える日本でないがしろにされる生活困窮者たち


フードバンクしばたは、単なるフードバンクではない。教育を受けられない子どものために無償の塾(寺子屋)を開いたり、生活困窮世帯を悩ませている高価な制服や学用品を届けたりと、食品ロスを防ぎ困窮世帯を支援する、といった、本来のフードバンクの域を越えて、本当に困っている人を助ける事業を行っている。

フードバンクしばたの事務局を務めている土田さんは、食品ロスの解消といった側面と、世間で知られていない生活困窮者の実態について話してくれた。


「誤解を恐れずに言えば、『フードバンクが食品ロスを減らす』という言い方は、失礼極まりない話だと思います。

私たちは新発田市にいる約250世帯の家庭に食料を届けています。本当に、本当に、困っている人たちです。子どもに食べさせるのが精いっぱいで、保護者は3日間何も食べていない、子どもと一緒に死のうと思ったけど死ねなかった……という人たちが、いま私たちの隣に現実にいるんです。

そんな本当に困っている人たちに対して、『本来は捨ててしまうものだから無料であげますよ』というのは、あまりに失礼な話ではないか、と問いたいのです」

これには目を覚まさせられた思いがした。前述したフードバンク協議会の定義自体は素晴らしいものだ。しかし、フードバンクしばたの活動はあくまで、困窮者を助けることが最大にして唯一の目的であり、食料の提供はその手段の一つでしかない。

ここには、食品ロス軽減とフードバンクを担当する官庁が農林水産省であり、あたかも都合よくどちらも解決しているように見えてしまうという難しさもある。消費しきれずに廃棄されてしまう食品ロスの問題を解決することと、生活困窮者がその貧困から脱するためのサポートをすることとは、アプローチするべき相手も目的もまったく異なるからだ。

米の寄付により救うことができる人々とは


フードバンクしばたが支援しているのは、片親(母子家庭)を中心とした生活困窮者250世帯である。

フードバンクしばたの取り組みの例。食事の提供だけでなく、困窮する人が抱える課題を解決すべく、積極的に活動している

そして「単なるフードバンク活動の域を越えた」と記したのは、この活動内容を見ればご理解いただけると思う。生活困窮者が必要とするもの・サービスなら、できる限り集めて届けよう、という強い意志が表れている。

フードバンクしばたでは、全員無償のボランティア40名がスタッフとして働いている。喜々として協力してくれている、と土田さんは語る。

「定年退職した方や、主婦もいます。誰かの役に立つ、というのは幸せなことなんですよね。当所のボランティアさんは、誰かの指示を待ったりはしません。これだけ多岐にわたる事業を、自発的にそれぞれの部会を立ち上げて、ワイワイ言いながら運営してくれています」

一方、世間で言われるフードバンク活動は、必ずしも生活困窮者の役に立ってはいない面もある、と土田さんはしみじみと語ってもいる。

「当所では、電話一本もらえれば、すぐに食べ物を届けに行きますよ。それが、どこの誰かは問いません。

ところが一般的なフードバンクでは、まず市役所の社会福祉課に確認してOKが出なければ、届けることはしません。本当に困っているかどうかなんて、電話に出れば、届けてみれば、誰でもわかるものです。今の時代、段ボール1箱の食料をもらうために、他人を欺いたりするでしょうか?

フードバンクが食料を提供している子ども食堂にも、問題がある場合が散見されます。運営側がサークル活動のような独特の雰囲気を醸し出すからでしょうか、それを嫌って、本当に支援が必要な子どもが来にくい、という側面があるのです。

かつては当所でも子ども食堂を運営していましたが、今は直接お弁当を届けるようにしています。これなら他人に知られることなく、必要な方に食料を届けることができますからね。

テレビなどで放送されるパントリー方式(食料を1カ所に集めて取りに来てもらう方式)にも問題があります。パントリー方式は運営側にとっては楽ですが、支援が必要な人にとっては酷なサービスです。生活に困っている人は多くの場合、クルマなどの移動手段を持ちません。彼らが食料を取りに来て持って帰るということは、本当に大変なのです。

ですから当所では必ず、こちらから届けることにしています。人手が掛かって大変ですが、そこはボランティアさんが頑張ってくれています」

土田さんが最も熱っぽく語ったのは、フードバンクの成果の表現について。

「フードバンク活動により、食品ロスが10%削減できました、などと誇らしげに語られてています。しかし本来は、『何人の生活困窮者に支援できたのか』を語るべきです。

フードバンク活動は、食品ロスを減らすために行っているわけではありません。弱者にも目を向けて欲しいと切に願います」


困窮者にこそ、余り物ではない食品を


フードバンクしばたが定常的に支援しているのは約250世帯である、と書いた。この250世帯のほかに、緊急的に支援を求める困窮者にも、食料を提供している。それに必要な米の量は、実に年間約30トンだ。

一般的なフードバンクでは、肉や野菜といった生鮮食品は対象外であることが多い。被支援者の立場で言えば、それらも届けてもらえたら、どれほどありがたいだろうか? そう考えたフードバンクしばたでは、肉や野菜も、米や生活必需品と共に届けている。

では、フードバンクしばたが届けている食品の何割が、いわゆるフードロスを削減しているのか。土田さんは複雑な表情を浮かべながら教えてくれた。

「実は、当所が提供している食品の約9割は、農家さんや企業からの正真正銘の寄付です。今回ご寄付いただいたお米と同じように、そのほとんどが善意で届けられたものなんですよ。そういう意味では、当所はフードロス削減にはそれほど役立ってはいないのかもしれませんね」

食の安全と環境を守る農業が困窮者にも


ただ、今回のオプティムとスマート米生産者からの寄付には、食料を提供してもらうフードバンクの側にも、多くの学びがあったという。

スマートアグリフードプロジェクトのようなやり方で、企業や農家さんが環境への負荷を減らし、食べる人たちの安心と安全にも配慮している……そんな思いで農業をしていることは、私も知りませんでしたし、ほとんどの新発田市民は知らないはずです。それを知る機会をもらえた意義は大きなものでした。

例えば、当所が運営している『無料塾 寺子屋』や『ママ休憩室』をベースにして、農家さんの思いやスマート農業のこと、地元新発田の地域農業の大切さを伝えるようなセミナーやイベントを開催しても面白いですよね。次世代の農業生産者につなげる、あるいは農家さんと消費者をつなげる、という役割を、私たちフードバンクしばたも少しでも担えたらと考えています」

これに強く同意したのは姉崎さんだ。

「新発田の地で農業を続けて行こうと思うなら、次世代の農業生産者を育てて行かなければ、もう成り立たないくらい農業人口は減って来ています。

今回寄付させていただいたお米は、余っているようなものではなく、オプティムと一緒に最新技術を投入したスマート米と、私たち3人が丹精込めて作った新米です。これを喜んで食べてもらえる、それが困っている人の役に立つなら、それよりうれしいことはありません。この寄付が次世代を育てる役に立つならば、予め経営の一部に組み込んで良い……そのくらいの気持ちを、私達は持っているんですよ」

スマート農業の拡大がよりよい社会につながるために


オプティムの熱い言葉で、本稿を終わりにしたい。

「先程お話しした当社の期待というのは、まさに、その土田さんがおっしゃった、次世代に伝える、という部分です。

新発田市に限らずですが、日本の農業はいまとても厳しい状況に置かれています。その一因は、次世代を担う農業生産者の不足であり、農業生産者と消費者の乖離にある、と考えています。

この現状を変えたい、日本農業を持続可能にしたい、というのは当社がスマート農業に取り組み始めた頃からの願いなのですが、どのように伝えたらいいのか、というのは大きな課題でした。

フードバンクしばたは、長年社会課題に向き合ってきた経験とノウハウをお持ちです。当社では、ご寄付を継続的に行おうと考えておりますが、同時に、そのノウハウやお知恵をお借りできたらと考えています。

フードバンク活動を地道に続ける姿に触れて、元気をもらえました。末永くお付き合いできたら幸いです。社会をより良くするために、ともに頑張って行きましょう!」


フードバンクしばた
https://foodbank-shibata.org/
スマート米 | スマート農業で栽培された残農薬不検出のお米 | ピンポイント農薬散布とピンポイント施肥 | オプティム 農業×IT
https://www.optim.co.jp/agriculture/smartagrifood/rice


■今回ご紹介した新発田の生産者による「スマート米」


今回ご紹介している生産者が作ったスマート米はこちら。

  • 新潟県 新発田 こしいぶき
スマート米2022(21年度産米)スマート米 新発田 新潟県産 コシイブキ 1.8kg 節減対象農薬17%以下[白米/無洗米玄米]

  • 新潟県 新発田 ミルキークイーン
スマート米2022(R3年度産米)スマート米 新潟県産 ミルキークイーン 1.8kg 節減対象農薬50%[白米/無洗米玄米]

■スマート米とは

全国各地のこだわりの農家さんと、スマート農業でお米づくりをしている「スマート米」は、AI・ドローンなどを利用し、農薬の使用量を最小限に抑えたお米です。

玄米の状態で第三者機関の検査により「残留農薬不検出」と証明されたお米、農林水産省ガイドライン「節減対象農薬50%以下」のお米、そして「特別栽培米」もお選びいただくことができます。

各地の人気銘柄から、あまり見かけない貴重な銘柄をラインナップ。お求めはスマート米オンラインショップ SMART AGRI FOOD  からどうぞ。

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。