女性だけのドローンチームが農薬散布を担う! 新潟県新発田市の「スマート米」生産者による新たな取り組み

ドローンによる薬剤散布が広がりを見せている。動力散布機を自社で行っている会社や、無人ヘリでの作業を外部委託していた農業生産者がドローンの活用を始めている。

2016年からドローンによる農薬散布の普及が本格的に始まった。同年度の散布実績が684haだったものが、翌2017年度は9,690haへ、そして2018年度には3.1万haと急拡大。ドローン散布の普及により作業の効率化や作業負担の軽減、適期散布が実現するなど効率的な防除が実現する。

そんなドローンによる薬剤散布を、女性だけのメンバーで行おうとしている地域がある。本稿では、その珍しい取り組みについて紹介したい。

新潟県新発田市に女性だけのドローンチームが発足!


女性ドローンチームのメンバー、大倉浩子さん(写真右)、姉崎由紀子さん(写真左)、藤田るいさん(写真中央)
集まってくれたのは、女性ドローンチームのメンバー3名。大倉さんは有限会社「豊浦中央ライスセンター」の社員で3児の母。藤田さんは有限会社「アシスト二十一」に新卒で入社し、社員として働いている。姉崎さんはご主人とともに「姉崎農園」を経営している3児の母だ。

3人の所属先や社会的背景はバラバラだが、実は3人は株式会社オプティムが進めている「スマート農業アライアンス」の取り組みの一つである「スマートアグリフードプロジェクト」に参画している生産者たちだ。

この女性ドローンチームは2021年に立ち上がったばかり。新潟県の米どころとして知られる新発田市で稲作中心に農業経営をしている「豊浦中央ライスセンター」「姉崎農園」「アシスト二十一」の3社がオプティムのスマートアグリフードプロジェクトをきっかけに、“共同して同じ仕組みでドローンを活用してみよう”と考えた結果生まれた、新しい組織だ。

ドローンの機体は撮影用・散布用ともにオプティム支給だが、さらにアシスト二十一で散布用ドローンを1機購入。それらを共有で使用し、試行的な散布のほかLINEグループで情報共有なども行っている。

「女性であること」が不利になるなら、農作業のやり方を変えればいい


ドローンチームを立ち上げた中心人物は、有限会社アシスト二十一の代表取締役、木村清隆さん。「アシスト二十一」は、新潟県新発田市に本拠地を置き、常勤職員3名+非常勤職員5名の計8名で60haの圃場を管理。うち58haが水稲という、大規模な米農家である。木村さんにドローンチーム設立の経緯を聞いた。

有限会社アシスト二十一の代表取締役、木村清隆さん
「ここ新発田市でも農業従事者は減り、担い手に対する農地の集約化が進んでいます。それらの一部を請け負っているのが私たち3社なのですが、作業に限界があり、これまで通りのやり方では絶対に管理しきれません。作業を高度化・効率化する必要があるのです。

そんななか、昨年の春に藤田さんが入社してくれました。彼女は非常に前向きで頑張り屋で、信頼しています。しかし農作業はとにかく過酷。力仕事ではどうしても男性と同等の作業をこなすのは難しい場面もあります。『女性が不利にならない働き方=方法』を何とかしようと考えたとき、“農作業を変えれば良いのだ”と気付いたのです。

薬剤散布は、水稲作の力仕事の中の一つではないでしょうか。炎天下のなか重いホースや重い機械を背負って延々と撒き続ける作業ですが、『この薬剤散布を軽労化できないものか』と考え、思いついたのがドローン散布でした。ドローン散布に切り替えれば、散布の操作そのものは力がなくても可能です。薬剤の運搬や調整などは女性にもできるので“コレだ!!”と思いました」と木村さん。

地域のライバル&仲間の3法人で協力


ところがドローンによる薬剤散布には若干課題があった。農地の集約化が進んでいるとはいえ、圃場はそこかしこに点在している。そのため「隣の田んぼも撒ければ効率的だけど、他社が管理しているから」と有効的に散布するのが難しかったのだ。

そこで木村さんは、同地域のライバルでもあり仲間でもある「豊浦中央ライスセンター」の大倉翼さん(ドローンチームのメンバーである浩子さんのご主人)と、姉崎農園の姉崎信弘さん(同じくドローンチームのメンバーである由紀子さんのご主人)に相談した。

「豊浦中央ライスセンター」「姉崎農園」にとっても、ドローンによる薬剤散布が実現し、作業が効率化できれば喜ばしいことだ。特に「豊浦中央ライスセンター」では、これまでの外部委託の無人ヘリによる散布に加えて新たにドローン導入に向けて動き出していたときであり、タイミングも良かった。

木村さんがすでに2020年に「スマート米」でオプティムと協業していたことも追い風になった。共同でドローンを使うために共同購入すると所有権や保管の問題などが後々発生する。かといって個人で購入した機体は、故障の際の責任問題なども出てくる。

そこで木村さんは、この「スマート米」プロジェクトに豊浦中央ライスセンターと姉崎農園を誘い入れた。これにより、3社とも導入コストをかけずにドローンを共同で扱えるようになった。

そのうえ、当時の3社には、力仕事で薬剤散布の主力として働くことが難しい女性社員がいた。こうした背景のもとに発足したのが、女性だけのドローンチームだ。

「必ずしも3社の田んぼが隣り合っているわけではありません。それでも共同で運用すれば、近くにある各社の圃場を一気に撒くことができ、薬剤の調合や運搬を協力して行うこともできます。散布前の準備や散布後のメンテナンスなどを考慮すれば、これで少なからず効率化が図れます。

それに、女性ひとりだけでの不慣れな作業は不安ですよね。チームなら頑張れるのではないかと考えたのです。技術のノウハウやアイデアなどをグループ内で共有していけば、技術習得も早まるのではと期待しています」と木村さん。


女性ドローンチームのメンバー、それぞれの思い


こうして発足した女性だけのドローンチームだが、メンバーとなった3名は、どう感じているのだろうか。藤田さんに聞いてみた。


「農業大学校を卒業して新卒でアシスト二十一に就職しました。昔から農業が好きで、おじいちゃん子だったこともあり、小さい頃から学校から帰ると田んぼや畑の手伝いをしていたのですが、その様子を木村さんが見ていてくださったそうです。そして入社してすぐ、このドローンチームが立ち上がったので本当にあれよあれよ、という感じでした。

最近では、徐々にドローンの操縦にも慣れて来ました。飛行そのものだけでなく農薬の積み替え、バッテリー交換といった基本操作は自信を持って行うことができます。ただ、薬剤を落とす設定が難しくて……。農薬の種類によって設定を変える必要があるのですが、そこはまだ試行錯誤している段階です。

社長は“新しい技術をドンドン取り入れて行こう!”という方なので、私はそれを信じて(笑)、まずはドローンでの薬剤散布を完璧にできる技術を身につけて行きたいです。『女性だから』といった意識はなく、“今はとにかく一人前の農業生産者になるんだ”と頑張るだけで、その一つがドローン散布という感じです」

姉崎さんは別の考えを語ってくれた。

「私の場合、主人と私だけの家族経営で、主婦ですから藤田さんとは少し違った感覚です。

保育園に子どもを預けているのですが、お迎えのために私だけ先に作業を終わらせて、その後の作業は主人にやってもらうこともあります。仕事を途中で切り上げるのは言葉にするのが難しいくらい悔しいですが、それが現実です。母親の代わりはいませんし、子どもたちは待ってくれませんから。


ただ、子どもたちが大きくなったら、もっと仕事を頑張って主人への負担を減らしたいと思っています。今はできていない薬剤散布を私がドローンでできるようになれば、主人の負担を一つ減らすことができる。それにドローン散布はまだ誰もが行っているわけではありませんから、農業をするうえでの私の武器になるかなと期待しています」

そして、豊浦中央ライスセンターでご主人とともに働いている大倉さんは、ドローン担当として仕事を任されることの意義を感じているという。


「私も二人と同じで、農業が大好きなんで農業大学に進みました。そこで主人と出会って結婚したんですが、自分の担当する仕事は責任を持って全うしたいと常に思っています。ですが今は子育てもあり、なかなか両立が難しい状況なので姉崎さんの気持ちが本当によくわかります。

会社では以前から外部委託で散布ヘリを飛ばしていますし、ちょうど主人がドローンの免許を取得したこともあり、実は『そろそろ私もドローンを操縦することになるのではないか?』という予感はしていました。なので、自分がドローンチームのメンバーとして仕事を任されることは、誇らしく感じます。必要な人員として期待されているということですからね。

まだ本格的に散布しているわけではありませんが、ドローンに対する愛着が徐々に湧いてきました。藤田さんも言っていますが、薬剤の散布量の調節が思った通りにならないので、そこが課題だと感じています」


ドローンによる空撮→画像解析→散布の効率化も視野に入れて



女性ドローンチームのメンバーの思いは三者三様だが、薬剤散布という役割を担うことに対する期待は同じである。しかし仕掛け人の木村さんは、さらに別の構想も練っているようだ。

それはドローンによる空撮。空撮画像で生育状態を分析すれば、追肥の要不要、あるいは必要な量を知ることで、無駄な追肥や農薬使用量を減らすことができる。

近年、プラスチックカプセルを利用した肥料が、環境汚染の原因になっていると問題視されている。木村さんは、こうした観点からも肥料の使用量を極力減らして行きたいと考えおり、「ドローン活用が農業の持続可能性を高める一助になるのではないかと期待しているのです」と力強く語る。

「また、先端機器を使った農業を実践することで若年層の興味を引き、農業への理解を深めて欲しい。そして願わくば就職先に農業を選んでくれたらいいですね」

この木村さんの将来展望に対しては、メンバーも実際に飛行させる中で、周囲の農家からの注目度の高さを実感しているという。

大倉さんは「私たちがドローン飛ばしていると、見ていた人に“スマホで撮影してもいいですか”と聞かれることがあります。そういうことってすごく大事だと思うのです。ドローン散布をする私たちを見て、“農業ってカッコいい!”“最近の農業ってすごいね!”って思ってくれることで、新しい仲間が増えて行くような気がするんです。

これまで若い人が農業に入って来ても、野菜作りを選んでしまうことが多かった。ここ新発田は米どころですから、それでは少し淋しいです。

ドローン散布からドローン空撮と、会社が私たち“働く女性”を戦力としてとらえてくれているのはうれしいです。その期待に応えるべく、子育てがひと段落ついたら本格的に頑張ろうと思っています。そういう女性の姿を見て、若い女性も農業、特に稲作に関わってくれたらうれしいです」と語ってくれた。

姉崎さんは「逆に、農業において“女性だからできる”作業に関して、敵はいません。今までの作業の多くは、直販の出荷や対応など細やかな作業がメインでした。直販でご購入くださったお客様に一筆手書きのお礼状を添えることでリピーターになってもらうなど、気配りの効いた作業は少なくとも主人にはできそうもありませんし(笑)、それは女性の強みだと思います。

しかし、今は“女性だからできない”重労働な作業も、ドローンを使うことで男女関係なくできるようになるかもしれないと感じています。仲間と共に“新しいことを頑張る”環境を作ってもらえたことには、心から感謝しています」と話す。


ドローン散布は農業における女性活躍の一助となる



本稿では、新潟県新発田市で発足したばかりの、女性だけで組織したドローンチームを紹介した。実際に話をうかがうと、女性農業従事者特有の悩みとして「力仕事では男性には敵わない」こと以外に、ライフステージによって仕事に割ける時間とパワーが変わってくるということが改めてよくわかった。

その一方で、農業従事者の減少に伴い管理する農地は一部の担い手農家に集約し続けており、農業従事者を増やすことも容易ではない。作業の効率化は待ったなしの状況だ。

だが、重要なこともわかった。それは「農業が大好きな女性がいる」こと。

この女性ドローンチームの役割は、単に薬剤散布を担うだけではない。この1年で一気に事例が増えたドローン播種や、肥料散布など、稲作の作業の中で、ドローンが担えるものが着実に増えてきている。「スマート米」の取り組みをとおして、生産者の声を聞きながらコスト削減や軽労化を一緒に進めていきたいというオプティムの理念とも、しっかり結びついている。

そして、長期的な視点に立てば、従業員であれ家族であれ、女性農業者は今後も積極的に新発田市の農業を担ってくれる貴重なメンバーだ。彼女たちがより輝ける環境を整えることが、地域農業を支える人員確保にも直結している。

“女性でもできる”農作業から、“女性だからこそできる”農作業へ。

ドローンによる薬剤散布は、農業における女性活躍の一助となるのではないだろうか。

【事例紹介】スマート農業の実践事例
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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