農研機構、農作業安全のためのサポートコンテンツをウェブ上で公開

農研機構は、農作業安全のためのサポートツールとして、「対話型農作業安全研修ツール」と「農作業事故事例検索システム」の2つのコンテンツを、農作業安全の情報サイト「農作業安全情報センター」で公開した。

コンテンツの公開を通じ農研機構では「研修実施機関や地方自治体と連携し、地域の実情を踏まえながら農作業安全活動に取り組んでいきたい」とコメントしている。


農作業中における死亡事故は、農業現場の長年の課題であり、2018年には全国で274件もの死亡事故が発生した。この発生件数は、就業者当たりの死亡事故発生割合でみた場合、他産業と比較しても非常に多い件数という。

これまで農研機構ほか農業関係各所では、農作業中の事故防止を目的に、啓発チラシの配布や呼びかけによる注意喚起に取り組んできたが、実際の事故に関する詳細な情報までは把握しておらず、詳しい原因がわからないケースが多い状況にあった。

現状の課題を解決するために、同機構では複数の地方自治体と連携し農作業事故の原因を、「機械・用具・施設等」、「作業環境」、「作業・管理方法等」、「人的要因」に分類し問題点を分析。今回公開されたコンテンツは、これらの分析を踏まえ開発されたものという。

対話型コミュニケーションにより安全な農作業を促進


「農作業安全情報センター」は、農研機構農業技術革新工学研究センターが運営する農作業安全のための情報サイトで、農作業中の事故動向や防止対策、労働負担軽減に関する情報が、機械・作業・作物ごとに掲載されている。

今回、農研機構が公開したコンテンツは、効果的な安全研修を目指した「対話型農作業安全研修ツール」と、事故事例から原因・対策が学べる「農作業事故事例検索システム」の2つ。


対話型農作業安全研修ツール


研修担当者と参加者が意見交換を行いながら、農作業の安全について話し合う対話型の研修ツールで、乗用トラクターなど10種類の機械・用具におけるヒヤリハット経験を調査した「事前調査票」と、各側面の改善策を示した「活用マニュアル」、「改善策一覧表」の3点で構成されている。

対話型農作業安全研修ツール(左上:事前調査票 右下:改善策一覧表)

  研修担当者は「事前調査票」で参加者のヒヤリハット経験を調べ、回答が多かったものや実際の事故事例について、「活用マニュアル」を参考に、「改善策一覧表」をアイデア集として活用しつつ、参加者で話し合いながら具体的な現場の改善策を検討する。

従来の一方通行型コミュニケーションではなく、対話を通じて参加者からも意見を出してもらうことで、実践可能で効果的な改善策の検討ににつなげることができるという。

「事前調査票」と「改善策一覧表」については、編集可能な表計算ファイル形式で提供されているため、項目の取捨選択や追加を行えば、地域の実情を踏まえた地域版ツールを作ることも可能だ。

対話型研修ツールと事故事例を活用した農事組合法人での研修事例(出典:一般社団法人全国農業改良普及支援協会「平成29年度農作業安全総合対策推進事業」)

農作業事故事例検索システム


農研機構が北海道農作業安全運動推進本部と連携して詳細な現地調査を行い、「人」、「機械・用具等」、「作業環境」及び「作業・管理方法」の各側面から原因や改善策を分析した事故事例をウェブ上で検索できるシステム。

作目別の事故一覧から、事故形態や機械用具等が名称で検索できるため、該当する事故報告を速やかに発見できるのが特徴だ。

農作業事故事例検索システム(左上:事例一覧 右下:個別報告例)
同機構では、コンテンツの提供を通じ、「今後も積極的に農作業安全活動に取り組む」としており、地方自治体や全国のJA、農業学校など農業研修を行う研修機関への導入を推進していきたい考えだ。


農作業安全情報センター
http://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/anzenweb/
農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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